16-1紛糾する人魔和平会談

ーーーー ミシェリー・ヒート ーーーー


 ウチらがジェイド様の草案をもろーて、四天王とドランであーだこーだ追加して、もっかいジェイド様が手直しして完成した魔王軍の和平草案。


 かなぁり譲歩した内容やで?


 にも関わらずや。


「こんな内容、誰が受け入れるものであるか! 国庫の半分の金を寄越せ? 貴様らが兵器を寄越す代わりに? 一体それにどれだけの価値があると思うておる! 思い上がりも甚だしいのである!」


 アイシテルミッツの丘に、朝っぱらからネンキーン王のやっかましい声が響く。

 王国の大臣らぁもヤーヤーゆーとるなぁ。


 ウチらは四天王とフーリムが出席しとる。

 ジェイド様は技術提供用兵器の最終確認で、後から出席されるんやで。


 キレーヌ法皇はだんまりや。

 『月』と『殺』は緊張しとんのかな?

 冷や汗だらだらなんが見て分かる。


 『時』はジェイド様について行きよった。

 『時』の目でしっかり確認してくるゆーとったで。


 ウチらはニッコリ笑顔や。

 ジェイド様の命令やからな。


 会議室に入る前、見本見せてくれたんやけど、ジェイド様、笑顔めっちゃ可愛いんやで。

 その可愛さが恐ろしくもあったけどな。

 ギリなんて今でもプルプルしよるもん。

 ノウンは心臓止まっとった。どっちの意味でかは知らんけどな。

 フランはまぁ、フランやからな。ジェイド様の真似してニッコリや。カワイイなぁもぅ。


「ジェイド様の言う現代兵器……何を以て現代と言っているかは定かではありませんが、一般的な戦闘に於いては、力や魔力の持たぬ者ですら、それらを持つ者と同等の力を発揮できるとのことです。それに関しては『勇者』の方が詳しいのでそちらに聞けとジェイド様より言付かっております。『月』か『殺』か、どちらかは詳しいのではないですか? らいふるや、さぶましんがんとやらに」


 ウチはこう言うけどな、実を言うとウチらはこの和平会談の内容について聞いとらんのんよ。

 きちんとまとまった草案は今朝配られたからなぁ。


 ジェイド様も、適当に話し合いしとけってゆーだけやったし。


「なぜこんなに紛糾する会議になっているのだろうなぁ」


 ギリがボソボソゆーとる。笑顔やけど、キレる一歩手前やん。


「え、えーと、ライフルとか、さぶ? マシンガンですけど、機械と火薬で弾丸を発射するもので、大砲みたいなモノなんですけど、子供でも持ち運びできます。なので、やってほしくはないのですが、例え子供でも、数が揃えば魔獣を倒せちゃいます」


 『月』の説明に、ネンキーン王は口をパクパクしとった。

 でも、ウチらも一緒や。


 魔獣って、火ぃ噴いたり風で切り刻んだりしてくるウチらでも軍率いとる時に集団で襲われたら厄介なヤツラやで?

 野良の魔物より数倍強いヤツラやで?


 そんな話、聞いてへん。

 兵器技術の供与までは聞いたんや。

 でも、どんな兵器かまでは聞いとらんし、この草案にも記載は無いで。


 ウチとギリがもっかい草案に目を通すんやけど、やっぱあらへん。


 もっかいゆーな?


 聞 い て へ ん !


ーーーー ジャック・ザ・ニッパー ーーーー


 いつの間にか話が進んでいやがった和平交渉。


 ジェイドが言って、ウーサーが飲んで、まだ1週間も経ってねぇぞ。


 トントン拍子に話が進むかと思ったが、まぁこうなるだろぉよ。


 ネンキーン王が騒いで、魔王軍の幹部を苛立たせてやがる。


 俺様だったらとっくにぶちギレてらぁ。


 ジェイド相手にはできねぇがな。


 キレーヌ様も平然とされているが、内心後悔してっぞアレ。


 会議前、ネンキーン王に好きに進めていいとか言っちまうんだもんな。


 ジェイドがいねぇのに、怖ぇ。

 四天王、マジで怖ぇよ。

 何言われても、ずっと笑ってたんだぜ?


 ルナの説明でネンキーン王も黙ったけどな。


 つーかマジか?

 子供でも、魔獣倒せんのかよ。


 それを魔王軍が金と引き換えにくれるって?


 現代兵器っつーけど、それ地球の現代じゃねぇの?

 俺様にとっちゃ、一部だが、それ未来兵器なんだが。


 俺様は第二次世界大戦よりちょい後の人間で、ウーサーが第二次世界大戦の後だいぶ落ち着いた頃っつってたな。

 ルナが2000年過ぎてそこらのはずだ。


 そのルナが言うんだから間違いねぇだろ。


 ウーサーは知ってやがるから、すでにここにいねぇ可能性が高い。


 ナニやってんだアイツ。


「多分なんですけど、私達も魔力で弾丸が作れたら、スペック以上の効果を出せると思います。だから勇者や四天王の皆さんが使っても、かなりの戦力アップになると思います!」

「なるほど、射出に魔力を割く必要が無くなるのか。その分効果を付随できると……なるほど。私達にこそ応用力が求められると言うことだな」

「そうそう! それに、ライフルも射程は1kmだけど、魔力でブーストすれば……」

「飛距離が延びる!? 超遠距離狙撃が可能だと!?」

「うん! 私、前線に出なくて済む!」


 ルナとギリが盛り上がってら。


「弾って、殴れるのかっ?」


 おいノウン、俺様に脳筋クエスチョンを投げてくんじゃねぇ。


「てめぇの馬鹿力ならできんだろ。俺様も斬って対応するだろうしなぁ。っつーか、俺様もてめぇも、弾を直接殴って射出すっか?」


 そうすりゃ、弾だけ持って動きゃ良いしな。


「いいなそれっ! あたしとお前で採用なっ!」


 うげっ、仲間にされた。


「てんめぇ、一緒にすんな! てめぇは殴る! 俺は斬るだ!」


 キルだけにな。


ーーーー キレーヌ・タイムカードゥ24世 ーーーー


 勇者ルナと四天王ギリ、勇者ジャックと四天王ノウン、この2組が楽しく談義を始めてしまったようにも見えますが、誰がどう見ても紛糾しています。


「つまりだ。弾頭を巨大化し、それを敵地に放り込んで爆発させれば致命的ダメージを……」

「だめぇ! それミサイルだよ! あーん! 私のバカァ! 戦闘狂ばっかりだったの忘れてたよぉ!」


「でも殴ったら、その場ですぐ爆発するよなっ!?」

「殴る場所を考えろや。頭叩いたらドカンに決まってんだろーが。ケツを叩けば発射すんだよ」

「ケツ? ふぅんっ!」

「あっだぁ! 俺様のケツを蹴るんじゃねぇ!」

「ちゃんと加減してやったぞっ! で、いつ発射するのっ?」

「だぁれが発射するかぁ! てんめぇ、ギッタギッタにして殺してやらぁ!」


 言葉を間違えました。

 紛糾ではなく、紛争ですね。


 私は心を無にし、無関係を装います。


「どどどどーするのじゃキレーヌ。これでは和平条約どころでは無いぞぃ」


 私に縋るネンキーン……そもそも貴方が焚き付けたからこんなことになったんですよ?

 私が悪いのですか?

 盛り上げるようネンキーンに言った私がアホだったのですか?


 私はニッコリ笑顔をネンキーンに向けます。


「か……家臣に大人しくするよう厳命するのである」


 私は何も言っていないのですが。

 まぁ良いでしょう。


 あーあ、早く帰ってこないかなぁ。


 これ程までに魔王を心待ちにしたことは、過去に一度もありませんでした。


 私は足をプラプラさせながら、魔王の帰還を待ちました。


ーーーー ウーサー・ペンタゴン ーーーー


 どうしてこうなったのである?


 別室にて、提供される兵器について、ジェイドから説明を受けて戻れば、会議が紛糾していた。


 乱闘寸前とも言って良いだろう。


 しかし、我は呆れるだけで心配はしていない。


「お前達、何をやっている?」


 ジェイドの言葉が響くなり、皆何も無かったかのように席に座る。


 ジェイドは何か口にしようとしたようだが、溜息一つで済ませた。


 この場ではそれが正解だろう。


「えー、それでは、提供する現代兵器の実物を用いた演習を行う。皆よ、外へ」


 ん?


 我はそんな話聞いていないぞ?


 キレーヌ様に目をやる。

 首を横に振っている。


「ジェイド様、そのような予定は無かったと思われますが……」


 四天王ミシェリーも同様だ。他の四天王……スイーツを頬張るフラン以外も反応は同じだ。


「我も会議の前に初めて聞いたのだが、テンテンとシッシ……こちらのサキュバス姫とインキュバス王子より報告で、100名程度の部隊を連れてきているとのことだ。是非演習を任せてくれと。てっきりミシェリーには話が通っていると思ったが……」


 ミシェリーは首を小刻みに横に震わせている。


「兵器の配備も終わって待機しているとのことだが、どうやってやったのだ……?」


 おい、ジェイドで分からぬことは我らにも分からんぞ。


「演習ということは、どのように扱うか実際見れると言う訳であるか。せっかく準備が為されているというなら、見せていただこう」


 我は初めて見せたジェイドの隙につけこむ。

 四天王から笑顔で殺気を飛ばされるが、ジェイドで馴れてしまったので怖くはないのである。


 いやジェイド、貴様は笑うな、怖いのである。


 そもそも、こちらとしては損が無い話。

 魔王軍の何かは知らんが部隊が見れるのである。

 観察したいに決まっているだろう?


「まぁ、外の者達もやる気のようだ。では一言連絡しておこう。その間に皆は出る支度を」


 ジェイドに言われて支度をする面々。


 そして外へ出れば、丘の下に魔王軍が100名程展開していた。


「お待ち、しておりました」


 こやつが噂のサキュバス姫か。数多の男の精気を吸い上げ、自我を得た凶姫。

 未来のサキュバス妃筆頭である。


 しかし、軍服に白いベレー帽、チャップリンみたいな口髭をたくわえて……あ、落ちた……拾って付けた……どういうつもりであるか?


「テンテンよ、よく分からんが、実戦演習を行ってくれるようだな? まず簡潔に皆へ説明せよ」


 目をキラッキラに輝かせながら、テンテンは我らの前に立つ。

 そして『ぐんじのーと』と汚い文字で書かれたノートをペラペラと捲る。


「本日は、魔王様の近衛兵であるAnti Magic Armored Elite Unit 、対魔機甲化精鋭部隊……通称『魔王様(に)アマエ隊』の御披露目、兼、現代兵器の実戦演習を執り行う! 私の名はテンテン元帥。大将としてシッシもいるが、現在、隊の司令官を務めているため代わりの紹介とする!」


 おいジェイド、棒読みであるぞ。

 急に流暢な喋りになったが、ひどい棒読みである。

 しかもカッコまで口にして読んでいるのである。

 良いのか?


「待って、僕、ソレは知らない」


 ジェイドの小声が我にだけ届いた。

 顔が完全にひきつっているではないか。


 いや待て。

 ジェイドも知らん部隊だと?

 いったいナニが始まるのである?


「提供する武器はライフル、サブマシンガン、そしてもう1つ! それでは、これより演習を始める! 遠方の的をご覧あれ! 第一射撃! 撃ちーかたーはじめぇ!」


 テンテンの号令の後、下からも男の声が聞こえた。


「第一射撃! 撃ちーかたーはじめ!」


 100名程度が3列に分かれて隊列を組み直し、その1列目がライフルを匍匐の体勢で発射した。


 一糸乱れぬ動きで発射され、800m先にあった木製の的は、数拍置いて蜂の巣になった。

 想定通りの威力だが、部隊の練度がおかしいぞ?


「第一射撃! 撃ちーかたー終わりぃ!」

「第一射撃! 撃ちーかたー終わり!」


 テンテンの声の後、シッシとやらの号令がかかる。


 しかし、すかさず次が始まる。


「第二射撃よぉーい! 撃ちーかたーはじめぇ!」

「第二射撃用意! 撃ちーかたーはじめ!」


 2列目の者達が、立ったまま引き金を引き、近い位置にある木製の的を跡形もなく消し飛ばした。

 こちらも聞いていた通りの威力なので兵器の心配は無い。

 ただ、部隊の動きに一切の乱れが無い。

 あれか?

 淫魔特有の『魅惑』か?


「第二射撃! 撃ちーかたー終わりぃ!! 尚、部隊に、テンプテーション、かけてない。各々、判断、動く方、優先。部隊、危険、その時だけ、使う」


 はぁ? 『魅惑』無しだと?


「待て、テンテン。あの部隊に知った顔が見られるのだが……」

「元、鉱夫。ヒデオ・ラッシュ以下、本人達、希望、及びスカウトを。当然、その部門、負担無い。ギリ様、許可取った」


 全員一斉にギリを見る。


「いや待て私はそんな……」

「部活、申請許可、出しました」

「……職場レクリエーションの書類かぁ!? 魔王軍健康維持のための余暇補助制度だぞ! 部隊新設など聞いてはいない!」

「部活……部隊の活動許可……」

「んな訳あるかぁ!」

「でも、判……」


 テンテンはギリに書類を見せている。

 ギリは歯をギリギリしており、ジェイドがその書類を見る。


「……確かに、部隊活動について記されているな。内容はどう見ても部隊新設ではないか。テンテン、シッシを中心に独自の軍事演習を行うとまで書いてある。ギリよ、内容を精査しなかったな?」


 ジェイドが笑顔でギリに言う。

 ギリだけではなく、全員が震えている。


「も、申し訳ございません! 私の不手際でございます!」

「過ぎたことだ。もう良い。ここまで出来上がっているのであれば、無駄にもなるまい」


 ジェイドは土下座するギリに寛大な言葉をかけた。

 なぜかテンテンはふっふーんと鼻を鳴らす。


「では、次、最後」


 提供される兵器は2つなのでは?

 なんだあの筒型兵器は?

 それに、的は……2m大の魔鉱石だと!?


「待ってアレはまだ開発中……って、完成しているのか!? いやそんなことはない! 砲身の強度が足りておらず暴発時に致命的なダメージを被る可能性が高いのだ! テンテン、今すぐ中止せ……」

「砲身強度は、砲身そのものに強化魔法を付与することで解決しております。特にヒデオ・ラッシュ以下の鉱夫は、物体に付与する『物質強化魔法』を取得しており、常に使用してきているため、非常に強力な物質強化です」


 マジ? とジェイドがボソリと言う。


「ど、どうやってその安全を確認した?」


 テンテンはノートをペラっと捲って続けた。


「『物質強化魔法』を付与した砲身を弾薬を付けたまま暴発させました。もちろん、我々は安全な位置からその様子を確認。砲身その物には傷ひとつ付きませんでした。10回中10回です。しかしながら、砲身の先に弾頭が設置されるため、ジェイド様が開発中のライオットシールドを別の者が持ち、発射する者の保護を行います。あのように」


 らいおっとシールド?

 あの透明な盾か。

 言われるまで気付かなかったのである……。

 それを持つ者と砲身を持つ者が二人ペアで構えている。

 あ、こっち見てニッと笑った。

 なんだか清々しいのである。


「そこまで言うなら構わん。やれ」


 ジェイドは頭を抑え、諦めたように言った。


 対するテンテンはニッコニコの笑顔である。


「最後、主砲よーい! てぇー!」

「主砲用意! 構えぇ! 撃てぇ!」


 テンテンの声かけの後、シッシの号令が掛かり、計15発の物体が発射された。


 ライフルやサブマシンガン程の弾速は無い。


 速くは無いが、あれ、対戦車用砲弾だと記憶しているのだが……。


 どう見てもRPG7バズーカである。


 そして見事に全弾直撃し、大爆発。


 我らの最大火力であるルナの全力攻撃を以てしても傷一つ入るか怪しい魔鉱石は、ものの見事に木っ端微塵となった。


 爆風に揺れる我とジェイドの髪。

 他の者達はその衝撃に身を屈めていた。


「なぁ、ジェイドよ」

「……分かっている。分かっているが、どの道やらぬと言う選択肢は無かった。ちょっと考えさせて」


 ジェイドの焦り顔が見れただけヨシとしよう。


「ジェイドサマー? アレ、なんやねぇん?」

「魔王ジェイドォォォォオオオ!」


 ミシェリーとキレーヌ様に詰め寄られるジェイド。

 もちろん、他の者も続く。


 この後、和平会談は我とテンテン以外VSジェイドとなり、最後まで紛糾することとなった。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

演習直前

アマエ隊隊長:ついにおいら達がジェイド様に……感激ですぜぇ。

シッシ大将:我が君も、陰ながら見守ってくれていた。その成果、今こそ全てを発揮する時だね。

テンテン元帥:(そう言えば、経過報告、するつもりだったけど全然やってない……まぁ良っか)

ジェイド:い、いったい、ナニが始まるんです?


〜魔鉱石爆破後〜

アマエ隊隊長:ニッコリヽ(=´▽`=)ノ

シッシ大将:ニッコリ(`・∀・´)ゞ

テンテン元帥:ニッコリ\(≧∇≦)/

ジェ:(  д ) ゚ ゜→( ゚д゚ )マジンガー

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