16-0魔王様、準備する
人魔和平会談の3日前。
ふむふむ。
無茶なことは書いてないし、良いんじゃないかな?
僕は四天王に渡して、戻ってきた人類軍との和平草案に目を通していく。
「もっと搾り取れると思うけど、良いの? これだけだと、ジェイドが後で大変よ?」
フーリムが僕の横から覗き込んで言う。
「確かにそうなんだけど、嫌でも協力してもらわないといけないからね。相手はミーシャだから、下手すると人類軍を先に壊滅させてくる可能性がある。そうなった時に、ちゃんと盾になってもらわないと、こっちに余計な労力が掛かるから」
「……ミーシャって、魔王なの?」
言い得て妙だね。
でも、ちょっと訂正しておく。
「ミーシャはね、
僕がそう言うと、フーリムとテンテンは震えた。
ま、僕自身そんなに強くないのが問題なんだけどね。
異界の勇者も、チクチク爆撃で逃げてくれたようなもんだし。
ちなみに、テンテンもこの執務室にいる。
「私、空気。お気に、なさらず。思わず、震えた。けど、空気、震えるの、普通のこと。ふふん」
得意気に鼻を鳴らすテンテン。
テンテンもフーリムと一緒になって、僕が勉強の面倒を見始めたからかな。
今日からなんだけどね。
魔王口調が面倒臭くなって、普通の口調で喋り始めた途端に、テンテンが『私は空気』と言い始めた。
でも、話は聞いているようなので、僕は構わずフーリムと続ける。
「ミーシャ対策は僕がやるから今は気にしないで。ある程度、人類軍にも技術提供する。それの見返りで……どこまで出してくれるかなぁ?」
僕は金銭面のやり取りをフーリムに聞く。
「私、人類の為替なんて知らないよ。村ではほぼ軟禁されてたし、そもそも村が魔王領だし」
「それもそうか」
うーん。僕は唸る。
どうしよう……ん?
あぁそうか、直接聞けば良いのか。
僕は『星ノ眼』を起動する。
『時』も『殺』も『月』も、勇者はみんな祖国へと戻っている。『殺』も帝国に戻った。内々だけど、僕が許したので、誰も文句は言わないだろう。
まとまっていないのはちょっと困ったけれど、人選するなら一択だ。
という訳で……。
「もしもーし、ウーサー? 今良い?」
『のぅわぁあぁ! ってジェイド・フューチャー!? 貴様、いきなり声を掛けるな! キレーヌ様が驚いてひっくり返ってしまったのである!』
それは申し訳なかった。
これでも控えめにしたつもりだったんだけど。
以後気を付けます。
「それはごめんよ。実は和平草案がたいぶまとまったんだけど、一応こっちからそっちに金銭要求するつもりでさぁ、為替レートがどうなってるかなーって。こっちは基本的に魔石が通貨みたいなものだからね」
ウーサーはわざとらしく大きな溜息を吐いた。
『はぁ〜〜〜〜。貴様はなんだ? 裏で先に交渉するつもりであるか? と言うか『魔王の系譜』はどうなったのである? 何にしても、話はそこからであろう?』
そう言えば伝えてなかった。
「……ごめん。『魔王の系譜』どころじゃなくなった。今は簡潔に伝えるけど、僕の想定していた最悪のケースになった。あの会議の後、戻ってすぐに、別世界である『異界』の勇者が『魔王の系譜』を奪いにやってきた。『氷』と『運』の勇者に、仲間ごと奪われかけたよ。なんとか撃退したけどね。あと『黄昏』の勇者もそこにいるみたいだ」
ついでに『星ノ眼』で撮影した動画も送っておく。
いやもう便利過ぎるよね。
ウーサーは沈黙していた。
息を飲んで、声にならない声を出しているようにも聞こえた。
『少し、待て。落ち着かせるのである。頭がごちゃごちゃし過ぎて何がなんだかなのである』
僕が逆の立場でもそうだと思う。
でもねウーサー。
キレーヌさんとヒソヒソしてるの丸見えだよ。
しばらくして、結論が出た。
『分かった。和平の仮契約ではなく、これより本契約の準備に入るのである。が、実質ここで話し合う内容が全てである。要人を集めての会議は表向き紛糾するが、それはパフォーマンスと思え。最終的にはここで決めた内容で調印を行うのである』
「いいの? 帝国はともかくとして、王国はそれに従ってくれるの?」
蚊帳の外にされたら普通は怒るけどなぁ。
『心配には及ばん。我々が、すでに、説得済みだ。和平交渉の全権をキレーヌ様に委任すると血判もいただいたのである』
本当だ。
ウーサーが見せてくれた。
『で、為替レートであるな? 人類側の通貨はXYMと書いてジムと読むのである。多少の変動はあるが1ジムは1ドルくらいと思え……と言うか、それくらいは調べれば分かるであろう。何が目的である?』
バレてる(笑)
まぁ、キレーヌさんに全権委任されてるなら良いか。
「いやー、さすがにただ和平して、通商条約を結ぶだけだと味気無いと思ってさ。僕から技術提供しようと思ってね。その見返りにいくら貰おうかなって話。タダでも良いんだけど、こっちから反発出そうだし……」
『こちらからしてもタダより怖いものはないからな。さすが魔王、よく分かっているのである。良いぞ、そちらの都合もあるであろう。まぁまぁ良いように調整してやるのである。で、何の技術であるか?』
ウーサーだけじゃなく、キレーヌさんもソワソワしている。
別に話に入ってきても良いんですよ?
「つい最近、やっと現代兵器の再現に成功したんだ。まだ射程1kmだけど、ライフル。あと自動小銃、サブマシンガンね。拠点用になるけど、大型の対空スティンガーと大型ガトリング、迫撃砲なんかはもうちょっとで出来そうだから、完成し次第技術供与しようかな」
首を傾げるキレーヌさんと、泡を吹いて白目を剥きかけるウーサー。
倒れかけたところでキレーヌさんに支えられる。
『ウーサー、らいふるとはなんですか!? さぶましんがん、すてぃんがー、がとりんぐとはなんですか!? せめて私に教えてから眠りなさい! ちゅーしますよ!?』
『はっ! あまりの衝撃に地球が見えたのである。おいジェイド。金で払えとなると、領土半分をくれてやるに等しい価値であるぞ。通貨ではとても払えんのである。と言うか、それ、魔王として良いのであるか?』
ウーサーは興奮と恐怖で声が震えている。
ある意味正解だよね。
「あと1つ追加情報ね。『黄昏』の勇者は僕の知り合い。僕を倒すって。僕の知っている通りの『黄昏』だとしたら、僕の周りを全て削り潰した上で僕をジワジワといたぶってくる性格だから、十中八九、人類軍から狙われるよ」
『は? 知り合い、であると?』
「うん。まぁ、その内そっち……人類側に接触してくるんじゃないかな? 魔王を一緒に倒そうとか、人類のためにとか、すっごく耳の良いことを言ってくると思う。内容はちゃんと吟味してね。よく聞くと、おかしいところだらけだから」
僕は美紗の手口を伝えておくことにした。
「協力派遣するのは勇者とか要人だけって言ってくるし、動いてってお願いしても、いざという時のために待機しとくって言って1つも動こうとしないから。そうやって使い潰してくるのが上手なのが『黄昏』だからね」
『待て、待つのであるジェイド。それはつまり、『黄昏』は人類軍から消そうとする、と言うことであるか?』
僕は間髪入れずに答えた。
「うん。だから重火器の技術を人類軍にも与える。互いのメリットと、やらないことによるデメリットは理解できるよね?」
『こちらは強くなる上に損耗が小さくなるのである。そうなれば魔王軍の被害も無い。やらなければ、そちらにもこちらにも被害は甚大……であるか』
人類軍に裏切られるよりもね。
そんなことは言わないけど。
「僕ができることは、『黄昏』もできると思った方が良いよ。僕はそのつもりで対策する。直接本人が出てきたら、僕が抑える」
ウーサーは手で顔を押さえ、天を仰いでいた。
「ジェイド、仮にそうなるとして、勝算は?」
「サシだと僕がちょっと不利。でも、僕らの優位性は人魔連携できること。個人戦で負けても集団戦で取っていく」
だから人類軍に裏切られるとちょーっとキツいんだよね。
勝てなくはないけど、焦土作戦になるから後が辛い。
先手を打てるのが一番だけど、それは偵察されてる分こっちがすでに不利だからね。
こっちも偵察したいけど、手段が無い。
『そのための技術供与であるか。分かった。ならばいくつかの現物と共に買い取る形を取るのである。そうなれば、まぁまぁの額にはなるが、そこでやり取りできるだろう。王国と法国の国庫に保管している金銭の半分でどうだ? 流通調整用のジムだ。通商条約を結べば商品を共通の通貨でやり取りできるようになる。流通させるための通貨であるなら、こちらとしても出すのは問題ないからな』
良い案だね。
キレーヌさんもうんうんと頷いている。
「経済も回せるってことか。良いねそれ。好景気は国民感情にもプラスだし。こっちも娯楽や芸術にも力入れていきたいなぁ」
『くっくっく、戦争ばかりの魔王軍にエンターテイメントはあるまい。たっぷり輸出して経済から疲弊させてくれるわ』
「ふっふっふ、まだ僕は色々と現代兵器を開発中だよ。せいぜい僕らを楽しませておくれ」
『調子に乗りました申し訳ないのである』
ウーサーが土下座してくる。
中々に楽しいやり取りだったのに。
その後、互いに草案の内容を確認し合い、擦り合わせを行う。
擦り合わせは休憩や業務を挟んだこともあって3日掛かった。
でも出来た。
互いにコピーを取り、これ以上の変更をしないことを確認して、明日、人類軍と魔王軍初の和平会議が開催されることとなった。
ーーーー Norinαらくがき ーーーー
コピー技術はあるのか?
Norin:転写魔法、あります!
書類作成はどのように? 手書きですか?
Norin:ジェイドくんがパソコン(まだワープロ機能のみ)を作りました。
ジェ:(総司令室にて)まだ
ミシェ:(無言で服をぬぎぬぎ)
ジェ:ナンデ!? 服着て!?(困惑)
ミシェ:裸にでもネコにでも何にでもなるのでくださいにゃぁあん!(必死の懇願)
慌てて2台目を導入するジェイドくんでした。
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