15-3原因不明
ーーーー テンテン ーーーー
ジェイド様は、踏みつけた『魔王の系譜』を拾い上げ、軽く払ってから歩き出す。
「すまないな。我としたことが少々気が立っているようだ。これより、速やかに人類軍との和平に向けた草案を作成する。大枠のみ我が手掛けよう。その後は四天王及びドランで調整し、我が確認して法皇キレーヌへ渡す。明日の朝一番にそちらへ回せるよう努めよう。数日内には公式の会談まで行きたいところだ。そのつもりで動くぞ」
ジェイド様がナニを言っているのか、私には理解できない。
でも、フラン様以外は分かったかのように頭を下げる。
私も頭を下げておこう。
そして、ジェイド様は謁見の間から去られた。
その瞬間だった。
「ふぇぇえぇ……」
「ふぅぅー」
「ふぉぉぉ」
「おぅふ」
皆、それぞれ緊張の糸が切れ、その場にへたりこんだ。
うらやましい。私はまだ足すら動かないのに。
「ジェイド様に、何が起きたんや。『異界』の勇者を取り逃がしたことやないんよな?」
ミシェリー様は焦点の合わない目で上を見ていた。
「あたしが一撃でやられたせいだと思ってた。違って良かったけど、良くないよな。あたしが、ちゃんとフーリム助けられてたら、こんなことに……ジェイド様に、嫌われたかなぁ」
ノウン様は泣きそうだ。
でも、ジェイド様はそんな器の小さい魔王じゃない。
「その点は心配無かろう。城まで吹き飛ばされてきた時は度肝を抜かれたが、ジェイド様もかなり心配していただろう?」
ギリ様の言う通り、『星ノ眼』で確認されたジェイド様は、ノウン様のことをすごく心配していた。
「そうですな。そこはむしろ『料理長』のおかげでございましょう。勇者、ラナ・ウェイバー。貴女の働きにより、私達は救われました。ジェイド様が咎めることを非とするならば、従いましょう。『逃』の勇者に、魔王軍が何かされたと言う記録もございませんゆえに」
元だけど、『勇者』だった料理長。
驚いたけど、ジェイド様が良いというのなら、それは良いということ。
「今まで、黙っていてごめんなさい。今までは『隠蔽』というスキルで『勇者』を隠してきたの。ギリくんにも……」
ギリ……くん?
「……良い。何かあるとは思っていたが、お前の素性が明らかになったところで、何も変わらん。ジェイド様の言う通り、今後も『料理長』として励め」
「本当に、良いの?」
「何度も言わせるな。何も変わらんのだ。それに、文句があるならジェイド様に言え。ジェイド様もそう仰られた」
ミシェリー様が寄ってくる。
コッソリ私に耳打ち。
「できとん?」
私は他者の好感度を測れます。
ある程度近くにいないとダメですが。
私は首を横に振る。
フーリムもやってきて、私に耳打ちする。
「それなりには?」
私は首を縦に振る。
ミシェリー様も、フーリムも、グッと拳を握っているけれど、そこはそれぞれ第二位で、貴女達はその上なのですが。
と、言いたいけれど、私は言わない。
私はサキュバス。野暮なことはしない主義。
それはそれとして。
「ジェイドさま、こわかった……」
プルプルしているフラン様。
ドラン様にピッタリくっついて離れません。
カワイイ。
「そう……ね。ノウンが負けたことではない。『異界』の勇者を逃がしたことではない。料理長でもない。やはり、これから始まるという『異界』同士の戦争そのものに対して怒っておられる?」
ミシェリー様は首を傾げながら考察する。
ギリ様も考察に入った。
「それにしては『黄昏』の勇者に対する執着も凄まじ過ぎるぞ。過激と言って良い。たしか『ミーシャ・ヴァーミリオン』と言ったか。だがそやつは……」
「ジェイド様の、名付け親、戦友、そして恋人」
私はポロッと口にしてしまった。
「共通の敵を前にして共闘しておられただけ。とも捉えられましたが、違うのですかな?」
ドラン様……。
「ドラン、それは無いわぁ」
「ねぇなっ」
「無い……のか?」
「無いですね」
「無いの」
「ないわーナイワー。パパないわー」
私は敢えて口にしない。
ドラン様は、フラン様にも言われて崩れ落ちました。
ギリ様にも冷たい視線が刺さっている。
シッシは……ずっと変なポーズを取っている。
シッシの方がマシ。
「恐らくだけど、『黄昏』の勇者『ミーシャ・ヴァーミリオン』が原因の大半を担っていると思うわ。本人に原因があるのか、本人に関わる何かなのかまでは分からないけれど」
ミシェリー様の言葉に、私達女性陣は頷く。
結局のところ、原因不明。
きっと複雑な心境のジェイド様。
それで気が荒れていたに違いない。
私達は、そう結論付けて謁見の間を後にした。
ジェイド様を狂わせる女なんて、うらやま……ごほんっ……けしからん。
明日から、いえ、今からでも、そんな女を忘れるくらい、奉仕させていただきます。
ーーーー Norinαらくがき ーーーー
「ふぇぇえぇ……」←ミシェリー
「ふぅぅー」←ギリ
「ふぉぉぉ」←フラン
「おぅふ」←ノウン
新四天王序列
ミシェリー>ギリ>フラン≧ノウン
フランはドランのサポートがあるのでノウンよりは上。
ノウンも四天王の中では序列最下位ですが、実働部隊としてのランクは最上位です。
4/3 22:33 誤字及び表現の一部修正
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