15-1魔王の系譜『原典』

ーーーー ドラン・ハミンゴボッチ ーーーー


 ジェイド様の『星ノ眼』による指示で、私達は謁見の間にて待機しております。


 私及び四天王、そして料理長とフーリム、テンテンとシッシ、計9名がおります。


 料理長がフーリムと共にやってきてすぐでした。


 私達は即座に頭を下げ、膝を着きます。


「皆よ、待たせたな」


 ジェイド様が魔法で降り立ち、無言で玉座に腰を据えます。


 誰も、声を発しません。


 ジェイド様が、とんでもなく怒っておられるからです。


 大気が震える程の魔力。

 帝国首都を滅した時と、まるで同じでございます。


 顔すら、誰も上げません。上げられません。


「要点を説明するが、その前に、フーリム『異界』の勇者の名は聞いたか?」


「はい。女が『氷』の勇者、アイ・スクリーム。男が『運』の勇者、ロドラ・コンクエストでございます」


 フーリムの声は震え続けておりました。

 しかし、それはジェイド様が原因ではなく、拉致される寸前だったことによるもの……という風にジェイド様は捉えたようです。


「すまないな、フーリム。被害者であるお前をここにずっと引き留めておくのは心苦しい。手短に、我と『異界』の勇者共とのやり取り、そしてこちらの勇者とのやり取りも説明する」


 そしてジェイド様が、今朝からアイシテルミッツで勇者及び法皇キレーヌと非公式会談を行い、和平条約を仮ではあるが結ばれたこと。

 本契約するには『魔王の系譜』の原典を確認する必要があることを話された。


 にわかには信じがたい話でございます。

 しかし……。


「我も仮定の話でどこまで進められるか疑問であったが、フーリムを拐おうとした勇者共は、この『ノース・イート』とは別の世界『サウス・マータ』からやってきたと言っていた。そして『黄昏』の勇者。疑う余地はない。早急に人類軍と和平を結ぶ。なに、やることはそう変わらん。変わるとすれば、魔王国と人類国で商隊のやり取りが行われるくらいだろう」


 それはとんでもない変化なのですが、ジェイド様にとっては些事な様子でございますな。


 しかし、一向にジェイド様の怒りが収まりません。

 静かに、粛々と、怒っておられる。

 それがヒシヒシと伝わって参ります。


「そして料理長よ、よくぞフーリムを救ってくれた」

「はっ。勿体無き御言葉」


 料理長の言葉、初めて聞きましたな。


「礼をしよう。ステータスを見せよ。ステータス・フルオープン」


 礼? それなのに、どうしてステータスオープンを?


ジェイド・フューチャーLv1952

『魔王』『全属性魔法使用可』『錬金術』『全テヲ砕ク者』『木?魔法(装填中)Lv1952』『星ノ眼』『???技?Lv1952』『??新?Lv850』

力:10(防御貫通) 魔力:10000(+1000000)

感情ステータス:憤怒


 ジェイド様は、やはり何かに怒っておられる。

 私達の不手際、と言うことでしょうか。


ラナ・ウェイバー Lv1000

力:10000(+90000) 魔力:10000(+90000)

『逃』『勇者』『走力強化』『撤退時覚醒』『無限とんずら』『隠蔽』


 勇者!?

 料理長が、裏切り者であると!?


「待って、ジェイド……様! 料理長は私と『魔王の系譜』を死守してくださいました! どうか、どうか恩赦を!」

「いえ、いつかこうなることは、覚悟していたの。フーリム、あなたが無事ならそれで良いの。さぁジェイド様、今まで料理長として仕えさせていただき、ありがとうございました。処分は如何様にも」


 料理長は平伏したまま、首を差し出します。

 処断は、すぐにでもできましょう。


「何を言う? 『元』勇者ではあるが、現在は『料理長』なのだろう? 我、ジェイド・フューチャーの名の下に、ラナ・ウェイバーを料理長として続けて仕えさせよう。今後も、今までと同様に励め。もし何か文句を口にする者がいるようなら、それは我に対して言うことと同義であると周知せよ。全員、分かったな?」


「かしこまりました!」


 一糸乱れぬ私達の声が響く。

 料理長が元勇者だったことには驚きですが、それでジェイド様が怒っている訳ではないことは分かりました。


 ではいったい、何に憤怒されているのでしょうか?


「ジェイド様、これを……『魔王の系譜』の『原典』でございます。エルフD村にて保管しておりまして、本日回収に向かったところを襲撃されました。誠に申し訳ございませんでした」


 フーリムが本を差し出し、誠意を以て謝罪しております。


「これが『原典』か。中身は……チッ、『勇者の教典』と同じ……いや、何か書き込まれている。初野千宇? 初代魔王、チゥ・ファウストだと?」


「ジェイド……様! 読めるのですか!?」

「読めるも何も日本語で……そうか、我は自動翻訳されているからな。少し待て、読む」


 フーリムとジェイド様のやり取りが理解できませぬ。

 ただ、初代魔王様は私ですら知らない方でございます。

 聡明で、数々の碑文を解読され、魔王国の法や決まりを作り、魔王国の礎を築いた『始まりの魔王』様と言われておりました。


「そう言うことか。前魔王バウアーが殴り書きで『私がやらねば誰がやる』と書いている。これを見て、南下政策を行ったという訳か。読めたのか? 読めたのだろうな……。間も無く、勇者と魔王が世界に降り立って1000年。やはり、それからが本番のようだな」


 ジェイド様は『魔王の系譜』を踏み潰して言われました。


「これから始まるぞ。『勇者』か『魔王』で統一された『異界』同士の戦争がな。『黄昏』を皮切りに始めようと言うのか? ふっ、『黄昏』とは言ったものだな。神々の黄昏? いいや違う。これは、『神々の遊び』だ、こんのクソ野郎共めぇえええ!」


 あの温厚なジェイド様が吠えました。

 地獄の番犬すら尻尾を巻いて逃げるに違いないジェイド様の咆哮。

 私達も、足が動けば逃げていたかもしれません。

 フランはよく無事で……いや、気絶しています。いつからでしょうか?


「必ず殺す。『黄昏』の勇者には手を出すな。我が直々に『ミーシャ・ヴァーミリオン』を殺す。次はこれを画策した神々共だ。こいつらは文字通り殺す。道中邪魔も入るだろうが、雑兵共はお前達に任せよう。難しいようなら速やかに言え。我が手を貸そう」


 ミーシャ? ジェイド様を名付けた勇者!?

 なぜ……嘗ては恋仲……いえ、共通の敵を通してということだったかと思います。

 つまり、今回は敵同士。

 因縁の相手ということでありますな。

 このドラン、微力ながらも力になりましょう!


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

世界の名前。

ノース・イート。由来、No sweet.甘くない。

サウス・マータ。由来、刺又。


残りの世界、予想できるかな?

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