15-0魔王様、怒る
ノウンとすれ違った時は本当に焦った。
空ですれ違うとか、怖いよ。
ニアミスだよ。
魔王城にぶっ飛ばされたみたいだね。
『星ノ眼』で確認したけど、ちゃんと無事だった。
でもさ、勇者ヤバくない?
チートじゃん。
僕だけで何とかできるのかな?
いや、僕だけで何とかするしかないんだよね。
僕に出来ること……アレくらいしか無いんだよな。
今の内に大量に用意しとこ。
でも待って。
ノウンがいないってことは、料理長とフーリムだけ?
僕は飛行魔法を継続しながら『星ノ眼』を片眼だけ起動する。
どこにいるのかな? あ、いた。
料理長らしき女性と、担がれたフーリムが逃げてる。
声も聞こえる。
良い調子だ。
僕は『星ノ眼』をオート追尾にして、音声以外を切って急ぐ。
なんか氷の結界ができてない?
料理長が勇者の1人と打ち合っているのが見えた。
料理長の武器がどんどん壊される。
僕は風魔法を全力で発射し、風圧だけで男の勇者を引き剥がした。
「はじめましてだな、料理長。無事か?」
「はい、ですがフーリムが……」
フーリムは口に布を巻かれ、縄で縛られていた。
でも無事だ。
良かった。
「うーわ、最悪だぜ。そのオーラ、キサマが魔王か? あたい魔王見るの初めてなんだけどー」
「答えたら、フーリムを返してくれるのか?」
「な訳……」
「だろうな」
直後、フーリムと女勇者の後ろで大爆発が起こった。
もちろん爆発は僕が起こした。
爆風でフーリムと女勇者がこちらに飛ばされる。
僕はフーリムをキャッチし、治癒魔法をかける。
「ごめん、フーリム。痛かった? 一応死なない程度にはしたけど、相手が相手だから……ごめんね」
「痛い……許さない……帰ったら、いっぱい慰めて……。でもありがとう。怖かった……けど、信じてた。でも、怖かっ……ひっく」
フーリムは、声を押し殺して泣いた。
僕は、フーリムを料理長へ預ける。
それと同時に、足元を爆破して、氷だけを砕く。
「料理長よ。速やかに、魔王城へと帰投せよ。速やかにだ」
「はっ、かしこまりました。御武運を」
料理長はフーリムをお姫様抱っこして、走り去った。
速っ。
僕が空を飛ぶ程じゃないけど、下手すると通常の飛竜より速いよ。
でも、これで安心。
これで、僕は安心して、この怒りをぶつけられる。
だって、そうでしょ?
「フーリムを泣かせた罪、お前らの命だけで済むと思うなよ」
僕は、この世界に来て、初めてちょっとだけ怒った。
「やってしまったゾ……」
「ぬあー、閣下に怒られる……。魔王倒したら許してくれるかな?」
「それしか無さそうだゾ……。一応、用意しておく」
「りょーかい」
何かを話し合っているようだけど、僕にとっても都合が良い。
とりあえず、こんなもんで、様子見るかな。
「そちらも準備ができたようだな。では、こちらもゆくぞ」
そして戦いの火蓋は切って落とされた。
文字通りにね。
勇者の間で大爆発させる。
ニトログリセリンは大量に作った。
ソクシ山を爆破してしまった時はレベルアップによる魔力回復があったから、その時と同じくらいとは言わないけど、それに近い量は作ったつもり。
多分、これくらいかなって感じだけどね。
勇者二人にダメージは?
「なんだその爆破魔法は!? あたいの障壁がまるで役に立たないんだけど!」
「そのような魔法、連発はできないと見たゾ!」
そこそこのダメージみたいだけど、まだピンピンしてるね。
僕の両サイドから挟み撃ちにしようとしてきたので、僕は両手を広げ、左右を爆破する。
森が消し飛んでいるけど、しょうがない。
コラテラルダメージってヤツだ。
今度しっかり植林しよう。
「いやおかしいだろ! あたいのアイスソードがもうボロボロとか……」
「この剣が無かったら死んでいたゾ」
やけにしぶといと思ったら、氷剣で防いでいたみたい。
頑丈な剣だったみたいだけど、刃はすでに折れている。
つまり?
魔王である僕は嗤い、勇者は青ざめた。
僕は勇者のいるところを徹底的に連続爆破し、時にはフェイント、先読みして爆破する。
「ふははは! さすが勇者、しぶとい限りだ!」
「勇者イジメ、はんたーい! ロドラ、まだかよ!?」
「死ぬ気で、やっているゾ!」
この期に及んでまだ何かしようとしているみたい。
そんなこと、させてやる訳無いのにね。
「では、これでどうだ!」
僕は勇者を取り囲むように大きな円を描く爆発を起こす。
間髪入れずにその内側を爆破し、更に内側を爆破していく。
「意地汚い! さすが魔王! 一気にやればそっこーでヤれる癖に! ジワジワいたぶるとか、さすが魔王!」
勇者、良いこと言うね。
「それもそうだな。こちらの方が見映えが良いと思ったが、殺し合いだったな。合理的にいかねばな」
「アイィ! 余計なことをぉ!」
「あたいは、魔王と、遊びたーいなぁっ!」
なんと言う手のひら返し。
もちろん、僕の答えは決まっている。
「却下だ。散るが良い」
「そんなぁぁあぁあ!」
僕は最初に望まれた通り、一気に爆破した。
大地を揺るがす衝撃と、立ち上る土煙。
僕は空を見た。
「もぉイヤだぁ! あたいは帰る! 『サウス・マータ』に帰るぅ! ロドラ、まだなのぉ!?」
「もう、少し……待つゾ」
飛び上がって避けたんだね。
そのまま飛び去らないところを見ると、飛行魔法は使えないとみた。
それか、無駄なことをしないためか。
どっちでも良いか。
僕は空に手をかざす。
そして、作った全てのニトログリセリンを投入し、爆破した。
帝都を滅ぼした映像の一撃程じゃないけど、まぁまぁな威力が出たね。
森がだいぶ拓けちゃったよ。
植林大変だったら、ここに何か作ろうかなぁ。
「やい魔王!」
「こらアイ、黙るゾ!」
勇者は生きていた。
空間に亀裂が入っており、その薄暗いガラスみたいなモノの向こうにいた。
空間転移か。
多分攻撃しても効かないやつだね。
「言いたいことがあるなら聞こう」
逃がしたのは勿体無かったけど、本来の目的は達せられたし、深追いはできないからね。
良い情報が聞けるかもしれない。
「聞いて驚け! ついさっき通信が入った最新情報で、最後の勇者『黄昏』が召喚されたってな! レベル1000超えの化け物勇者だ! もうじき、『異界』同士が繋がる! そうなったらソッコーでリベンジしてやる! あたいらじゃ無理だったけど、閣下や『黄昏』なら一瞬だ! しかも『黄昏』からの伝言だ! 魔王ジェイド・フューチャーは俺がこの手で必ず倒すってな! ちなみに、キサマがそうなの?」
僕の名前知らんのかーい。
ん?
じゃあなんで、僕の名前を『黄昏』の勇者は知ってるの?
違う世界なんだよね?
他の世界で僕のこと、ジェイド・フューチャーって知ってる人なんていな…………うっそでしょ?
「アイ! べらべら喋り過ぎだゾ!」
「でもわざわざ魔王の名指しだよな? コイツに伝言ってことじゃないのか?」
「それはそうかもしれナイガ……」
心当たりは1人だけだ。
カマを掛けてみよう。
「では『黄昏』の勇者『ミーシャ・ヴァーミリオン』に伝えよ! 返り討ちだ! とな」
僕をジェイドと名付けた
夕暮れ、だから『黄昏』。
僕が『魔王』としてここにいるなら、有り得ない話じゃない。
「ほら、ミーシャって『黄昏』じゃん。さっき一緒に連絡聞いたよな? つまり、アイツがジェイドじゃん」
「頭が痛くなってきたゾ。なぜ『黄昏』はノース・イートの魔王を知っていて、この魔王は『黄昏』を知っている? どうにせよ閣下に報告するゾ」
「つー訳で! 首を綺麗に洗って待っていやがれ! あーばよっ!」
そうして、二人の勇者は去っていった。
うーん、やっぱり『黄昏』はミーシャで美紗っぽいな。
仮にそうだとして、僕はどうするか?
決まっている。
もし美紗なら、この世界をゲームのように楽しむはずだ。
現実なのに、ゲームのようにね。
そうでなければ、そんな台詞、出てこない。
だから僕は……。
「ミーシャ・ヴァーミリオン、君を絶対殺す。僕の手で、必ずだ。君も、きっとその気になる。だからおいで。僕は待ってる。いや、待ちきれないから、僕から行くよ。ミーシャを殺すためなら、『サウス・マータ』ごと、滅ぼす」
僕は、嘗て無い程の怒りに震え、勇者共の逃げた虚空を、ジッと見つめた。
ーーーー Norinαらくがき ーーーー
「あたいは♪ 魔王と、遊びたーいなぁっ♪」
「却下だ♪ 散るが良い♪」
「そんなぁぁあぁあ♪」
そーらーをじゆうに、とーびたーウワナニヲスルヤメ……。
ハッ、私はナニを?
あ、そうだ。らくがきしなきゃ。
ジェイドブチギレモード突入。
そして外伝と早速リンクする。
魔王に転生したら元カノが勇者で魔王を倒すと言われた件。
タイトル、こっちの方が良かったかしら?
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