14-2もう1人の勇者

 私、ラナ・ウェイバーって言うの。


 みんなからは、料理長って呼ばれてるの。


 実は、ただの人なの。

 つまり、人間。


 バウアーに追い詰められたけれど、その一撃から『隠蔽』で逃げた。


 世界から『隠蔽』で逃げたの。


 でもね、戻ってきたら、私はもう死んだことになっていて、戻ってきた場所がよりによって魔王城の中。

 1ヶ月くらい、逃げていたみたいなの。


 敵地のど真ん中なの。

 私、死んだと思ったの。


 でも、バウアーに顔を見られていなかったこと、影が薄くて魔王軍に悲しいくらい名前を知られていなかったこと、『隠蔽』で称号が隠せたこと、たくさんの偶然が、私を生かしたの。


 何より、私を助けてくれた人がいたこと。


 フーリム、あなたは覚えていないかもしれないの。


 私が調理場に逃げ込んで、お腹が空き過ぎて自ら料理を作った時、あなたが勝手に食べて、美味しいって広めてくれたから、私は料理長として、魔王軍に溶け込んで、今まで生きて来れたの。


 魔王軍と共に過ごす内に、敵対心は無くなったの。

 思ったより、良い人? 達だったから。

 それぞれの立場で、それぞれの戦いがあるの。

 逃げて生きるためとは言え、私は魔王軍に加担した。

 今さら人類軍に戻っても居場所は無いの。


 でも良いの。このままで。

 バウアーはともかく、ジェイド様は素敵な魔王様だものね。

 フーリムが言うんだもの。間違いないの。


 そのフーリムを拐う?


 ふざけないで。


 勇者? 異界? 関係無いの。


「私、必ず逃げ切るの。だからフーリム、動かないで。『逃』げるだけなら、私は負けないの。絶対あなたを、守ってみせるの」


 これがフーリム、あなたへの、恩返しであり、感謝の気持ちなの。


 例え私のことが、みんなにバレてしまっても、必ずあなたを助けるの。


「くっ、速いゾ! アイ、行けるのか!?」

「いや、分かんね! つーか、誰だキサマはぁ!? どうして覚醒勇者を上回る!? 勇者……を? 待て、こいつは魔王では無い……なら」


 二人は顔を見合わせる。


 バレたよね。やっぱり、分かるの。


「キサマ、『勇者』かぁ!」

「なぜ『勇者』がワレらの邪魔をするゾ!」


「どの口が言うの? 私は『ここ』でしか生きていけなかった。それを、あなた達が奪おうとするの。ならば敵なの。でも私はあなた達とは戦わないの」


 称号スキル、『隠蔽』を全て解除するの。


 私のステータスが元に戻るの。


ラナ・ウェイバー Lv1000

力:10000(+90000) 魔力:10000(+90000)

『逃』『勇者』『走力強化』『撤退時覚醒』『無限とんずら』『隠蔽』


「私は『逃』の勇者。だから逃げるの。んじゃ」


 撤退時覚醒、起動。『無限とんずら』発動。


 簡単に説明すると、逃げる時に体力消耗しなくなるの。

 だから、常に全力疾走なの。

 さぁ、追い付けるかな?


「うぇぇ、あたい、もう無理。ロドラ、あとよろしく……」


 1人脱落なの。


 もう1人は……。


「ぜぇっ、ぜぇっ! こうなったら、賭けであるゾ! 1日1回の『ダイスロール』起動! デロデロデロデロ……」


 効果音、自分で言っちゃうヤツなの。

 ダイスロールの数値で強さが決まるみたい。

 今の数値は、確か80。

 5分の1で、今より強くなるの?

 低い確率だけど、厄介なの。


「デン! む? 『66』!? ゾロ目、クリティカル! よしっ! 『クリティカル時倍加』発動!」


 そんなの、アリなの?


 ロドラが加速するの。

 私より、僅かに速いの。

 マズイの。


「私も! 風魔法で! 戦うから! とにかく逃げて! 最悪、私を置いてきぼりでも良いからね」


 担いだフーリムが、魔法を放ちながらそんなことを言うの。


「寂しいこと、言わないの。私の新作料理、食べたいでしょう?」

「うん、うん! 大丈夫、ジェイドには、私からもお願いするから、帰ったら、また美味しいお菓子、食べさせてね!」


 でも、現実的に厳しいの。

 フーリムの妨害で、少しは邪魔ができているけど、確実に距離が縮まってきているの。


 この速度で、魔王城まであと5分。

 でも、2分で捕まるの。


「まぁてぇぇえええ! せめて『魔王の系譜』を置いて行けぇえええ!」


 ロドラは必死なの。

 でも、こっちだって必死。


「うーんしょ! やっと、取れた! こんな本、欲しいならあげちゃうよ! はーい、せーのっ!」


 フーリムは、魔法で背中から本を器用に押し出して、風魔法に乗せて発射したの。


「なぉぁぁ! 『魔王の系譜』、確保したゾぉぉおおおおぉぉぉ……」


 その本をダイレクトキャッチしたロドラの声が遠退くの。


 これで時間は稼げそうなの。


「いいの? 大事な本でしょ?」

「あれ、ダミーだよ」


 素敵な笑顔のフーリム、恐ろしい子。

 しかも、本を取り出して縄が緩んだようで、フーリムは魔法で縄を外すの。


 でも、その瞬間だったの。


「だろうと思ったゾー」


 油断したの。


 脇の小道からロドラが湧いて出たの。


 ロドラが氷の剣を振り下ろすの。


 フーリムは私の肩から素早く降りた。

 私は足を止め、小さなナイフ2本で受け止める。

 一合、二合、三合受けただけで、すでに1本折れたの。


「もぉ! しつこいよ!」


 フーリムが風の刃を放ち、それでロドラが後退した。


 私の得物はペティナイフ5本のセットだけ。

 リンゴの皮剥きしてたところだったから……。

 こんなことなら骨も簡単に切れるチョッパー持ってくるんだったの。


 私は3本目のペティナイフを取り出して構えるの。


「フーリム、あなただけでも逃げるの」


 ん? 待って。


 氷の剣?


「お待たせだなぁ! っつーか足速すぎ! でも、もうあたいからは逃さぁん!」


 アイも想定より速いの。

 もう追い付いてくるなんて。


「『永久なる暴風雪』起動! これを喰らったヤツは普通死ぬ。でもちゃんと威力は抑えてあるからな。無駄な争いを避けるよう命令した閣下に感謝しな!」


 冷気を感じたと思ったら、足が氷付けにされて動かなくなったの。


「足が……動かないぃ!」

「フーリム、地面ごと、魔法なの!」

「させるかってーのぉ!」


 今度は周囲の地面一帯を氷付けにされたの。


「アイ! 派手過ぎるゾ!」

「分かってら! ちゃちゃっと片付けてソッコーで帰るっつーの!」


 2人は私とフーリムに突っ込んでくる。


 私の力は『走力』がメイン。

 だから、足を封じられてしまえば、覚醒していようが弱いの。


 アイの手がフーリムに届くの。

 フーリムは、アイのスピードに全く反応できていない。

 捕まえられて、また縄を掛けられていくの。


 私はロドラの氷剣を受けるの。

 一合、二合、ナイフが折れる。

 三合、また折れる。

 四合、五合、六合、2本同時に折れたの。

 七合、折れた刃を掴み、それを掌に乗せてぶつける。

 刃も砕けたの。

 ロドラが全力で振り切る前に私から押し込んだから、掌が少し切れる程度で済んだの。

 次は無い。

 だから、私は次の一撃を受けて死ぬの。


 でもね。

 砕けた刃をロドラに投げるの。


 私はどうなっても良いの。

 だから、少しでも、フーリムのために。


「お願いなの。誰かフーリムを助けて」


 浅ましいとは分かっているの。

 それでも、自然と口に出たの。

 ごめんね、フーリム。


「その願い、我が必ず叶えよう」


 そうして下り立つは、史上最強を上回る魔の権化。


 私は思わず膝をつき、涙を流して、感謝の祈りを捧げてしまったの。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

勇者ラナ・ウェイバー。

前勇者が魔王軍側で参戦。

由来、Run away.あと○ェイバーくん。女にして髪を伸ばしたらこんな感じになると勝手に妄想。

イメージキャラ:↑の通りさ!


アイの必殺技(称号スキル)

『永久なる暴風雪』

英名で、言ってみろ!

私は言えぬぅ!


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