14-1『運』と『氷』

ーーーー ノウン・マッソー ーーーー

 嫌な感じがして、全力疾走した。


 正解だったよっ!


「フーリムを、離せぇっ!」

「あらよっと」


 あたしの飛び蹴りを、フーリムを担いだ女は首を傾けるだけでかわした。


「甘いなっ!」


 空振ったけど、勢いのまま回転して、もう片方の足を簀巻きにされたフーリムに引っ掛け、蹴り上げる。


「んげっ! ちょまーっ!」

「料理長、パースッ!」


 追いついた料理長、ナイスキャッチだ。


「……してやられたゾ」

「ぬあー! 効果切れたぁ! またやり直しかー。でも、やってやるぜ! ただ、1つ聞く! お前、魔王じゃないよな?」


 あたしが魔王?

 ジェイド様の方がすごいしっ!


「料理長! フーリム担いで魔王城に逃げなっ!」


「あたいは無視かーい!」


 当然の対応だしっ。

 料理長は黙ってフーリムを担いで逃げてくれた。


 って料理長、逃げ足速っ。

 でもその調子で、無事に魔王城まで逃げてくれよなっ!


「速い! 不味いゾ! 魔王のところまで逃げられると、ワレらだけでは難しくなるゾ!」

「うーん、ヤバイな。そこのチビッ子! この超強力なアイスソードをくれてやるから、そこを通せ!」


 チビ?


「チビって、あたしのことかぁ!!!???」


 この世には、言ってはならないことがある。


 あたしのことを、チビと呼ぶこと。


 貧相な体も当然ギルティ。

 似たような言葉はだいたいアウトなっ。


 目の前にとんでもない魔力の氷剣が投げられて、地面に刺さる。

 魔力感知のニブいあたしにも分かるくらいなんだから、よっぽどヤバいよな。


「お望み通り、この剣でぶった斬ってやるっ!」


 あたしはアイスソードと呼ばれた剣を抜いた。


 でも、それは間違った行動だったと、すぐに後悔した。


「はーい、私の勝ちぃ。覚醒条件、アイスソードを奪われること、なんだよね」


 速っ、あたしの懐に一瞬で……。


「はいどーんっ!」


 当て身一発。


 あたしは数キロ離れた魔王城までぶっ飛ばされた。


ーーーー フーリム・D・カーマチオー ーーーー


 助かったぁ!


 ありがとー! 料理長!


 縛られた口紐も切ってくれて、目隠しも取ってくれた。


「ありがとー! りょうりちょー! 大好き! 結婚してあげる! 2番目でも良い? 1番は、ジェイドだからね」


 あからさまに嫌な顔をされるけど、私は女の子相手でも構わない。


 女の子同士でも、ちゃんと結婚できるんだよ?


 え? 静かにって?


「にゃああぁおあああいえあいああ!」


 ノウンちゃんが、空を飛んでる。

 魔王軍で飛行できるのは、翼持ち以外だと、ノウンちゃん以外の四天王と、ジェイドしかいなかったよね?

 私もちゃんと飛行魔法練習しよう。


 ということは、ノウンちゃん、吹っ飛ばされてるってこと? ホントに?


 私は魔法で簀巻きにしてきたロープを切ろうとする。

 特殊な素材で出来ているのか、まるでダメ。


「み〜つけたぁー」


 さっきの女がホラーチックに追って来た。


「んもぉ! さっきから何なのよ! 勇者なんて変な嘘は付かないでよね! 『時』『殺』『月』で勇者枠は埋まってるのよ!」


 私の『真詠』は真っ赤で示す。

 逃げているから、相手の顔がチラチラとしか見えない。

 心の声は見えそうにないなぁ。

 でも、本当に嘘を言っているかどうかまでは分からないけれど、とりあえず赤なら敵よ。

 それだけは真実。


「とんだじゃじゃ馬娘だな。あたいらはキサマらで言う『異界』の勇者。名乗らないのは失礼だった? じゃあ名乗ってあげる。あたいは『氷』の勇者、アイ・スクリーム。そして……」


 料理長に担がれて走る横から、もう一人が飛び出した。

 『異界』の勇者と言う言葉に惑わされた。

 だってそうでしょう?

 この世界の他に、別の世界があるって言うの?

 その言葉の時だけ、アイと言う勇者の色は『青』だったから。


 だから、完全に意識を逸らされてしまった。


「ワレは『運』の勇者。ロドラ・コンクエスト! 昨日のダイスロールは『80』。まぁまぁな当たりだゾ! 効果期間は一週! これでそこらの雑兵に負けはない! 大人しく捕まるが良いゾ!」


 ロドラと名乗った勇者の手が私に伸びる。


 魔法の発動が間に合わない。


 でも、ロドラの手が遠退いた。


 いや違う。


 料理長が加速した?


「私、必ず逃げ切るの。だからフーリム、動かないで。『逃』げるだけなら、私は負けないの。絶対あなたを、守ってみせるの」


 何度も調理場に遊びに行っては、無言でオヤツを出してくれた料理長。

 私がたくさん喋るのを、いつも黙ってニコニコ聞いてくれていた。

 長い黒髪で表情がなかなか見えないけれど、笑ってくれていたのは知っている。

 嫌? って聞いたら、首を横に振ってくれたね。

 だから、てっきり喋れないんだと思ってた。


 そんな料理長が、初めてかけてくれた言葉。


 うん、好き! ジェイドと同じくらい!

 だから頑張れ!

 私も、頑張って戦うんだから!


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

勇者アイ・スクリーム。

由来……。アイス、美味しいよね。

??:誤魔化さないでください!

   私、気になります!

イメージキャラ:チル⑨&マリ

        あたいってばサイキョーね!


勇者ロドラ・コンクエスト。

由来……。勇者、紋章、運の良さ……。察して!

??:会心の一撃!

イメージキャラ:特に無し

(似た奴いるかな?)



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