13-6外伝2 魔王の存在しない世界

 勇者の教典は、俺に様々なことを教えてくれた。


 勇者とは、魔王を倒す者。


 勇者とは、人類にとっての希望。


 そして、勇者自身は、二つ名を持ち、それに合った必殺技を2つ与えられる。


 1つは魔王を容易く屠れるモノだが、1回しか使えなかったり、使用における制限がとても厳しかったりする。


 もう1つは、制限は無いがまぁまぁ強力。

 でも、魔王と対等に戦うには力不足らしい。


 だから魔王は基本的に1人だけだが、勇者は複数存在する。


 ふむふむ、とても勇者っぽい世界観だな。


 この世界のことも色々教えてもらった。


 この世界の名は『サウス・マータ』。

 変な名前だが、立派な世界だ。

 地球で言うところの中世ヨーロッパくらいの文明らしい。


 でもさ、早く二つ名とか決めたいんだけど。

 後でって言われてもなぁ。

 じゃあ先に言うなよってなるよなぁ?

 そうは思わない? 教典くん。


『……分かりました。では二つ名を決めま、しょ……。……ガガガ……ピーピー……』


 ……壊れた?

 今まで普通に話してくれていたのにどうした?

 壊れかけの機械音と警報音が、うるさいくらいに響いている。


『ふふ、ふた二つ名……さしサイ最終命名『黄昏』、……ガガ……メ命メ名済、……勇者めメ名、『ミーシャ・ヴァーミリオン』……ママま魔王エクストラスキル『状態異常無効化』ふフ付与。インストール……アンインストール……アンインストール……コノ星ノー……宇宙ノー……ダストのー……ピーーーーーー…………』


 あ、これ壊れるヤツだ。

 みーくんの隣で何度も見た、パソコンの命が尽きる音。

 みーくんに、コレを聞かせてあげたかったな。

 良い声で発狂してくれたろうに。


『セーフモード、起動完了。勇者、ミーシャ・ヴァーミリオンに告ぐ。スキル・称号の詳細は、召喚された後で確認せよ。そして、『勇者の教典』は役目を終え、以降の召喚は行わないと周知せよ。『他』へは一定期間後、転送しておきます。フェーズ2移行準備中……準備中……繰り返す。勇者……』


 あれ? 繰り返し始めた。

 もしかして、俺このまま動けないヤツ?

 石の中にいるやつ的な?


『繰り返し終了。ミーシャ・ヴァーミリオン、転送シークエンス起動』


 あ、無事にチュートリアル終わったみたいだな。


 さぁて、どんな世界に放り込まれるのか楽しみだ。

 早く、みーくんに会いたいな。


 そして俺は、突然目が覚めた。


 今まで見ていたのは、夢のようなチュートリアル。


 俺の体は宙に浮き、青白い光に包まれながら、ゆっくりと、新たな地に足をつける。


 城の謁見の間みたいなところに、俺を囲むように3人。


 甲冑を着た白髪の爺さんと、寡黙そうだがミステリアスな雰囲気の綺麗な女の人と、フッサフサのファー襟巻きに翼を生やした生意気そうなハゲギャル男がいる。


 俺の周囲から光が消え、床に立つと、爺さんが両手で持っている大剣を突き立て、叫ぶように言った。


「勇者召喚の儀、大義であった! 我ら勇者一同、お主を歓迎するのである!」


 おぉ、うるさい。

 歓迎されてるのは良いことだが、どうするかな。

 あんまり下手に出てナメられるのもアレだし。


「新たな勇者よ。聞きたいことは数多あろうが、まずは吾輩の問いに答えよ。お主の事を知った後の方が、吾輩としてもお主の質問に応え易いのである」


 なるほどな。そりゃ一理ある。


 だから俺は黙って頷く。


 黙って話を聴かせろとか言われてたらぶん殴ってたところだ。


「まずは自己紹介とゆこう。吾輩は、ネイである。ネイ・ムセル。『真』の勇者である。お主の名は?」


 元のじゃなくて、さっき命名された名前のことで良いんだよな?


「ミーシャ・ヴァーミリオン」


 コイツらを完全に信用してる訳でも無い。

 だから受け答えは最低限だ。


「ではミーシャよ。『勇者の教典』が何か言っておらんかったか? コレの魔力が消えたのだ。勇者を召喚できる書物が効果を失う。その意味は理解できるであろう?」


 今までどうしてたんだ?

 何度も召喚できたってことだよな?

 実際目の前に『真』の勇者ってのがいる訳だし。

 まぁそのまんま伝えるか。


「勇者の教典は役目を終え、以降の召喚は行わないと周知せよ。他へは転送しておきます。フェーズ2移行準備中。以上」


「……やはりそうであるか」

「たっはぁ! マジかよ。俺っちがせっかく調べ上げたのに意味なくなっちまったなぁ!」

「『他』、アッチ、大丈夫かしら? 閣下、加勢しに行く? 行きたくても行けないけど、合流ポイントくらいまでなら……」


 ハゲ翼とお姉様の意味深な発言。

 んー、なんかヤバい雰囲気だ。

 ちょっとおとなしめに対応しとこう。


「あい分かった。今後の対応は検討するのである。そしてショーコ、お主の気持ちも分かる。だがの、他の者も、我らと同じ勇者である。我らの期待には、必ず応えよう」


 勇者が2人追加。

 お姉様はともかく、ハゲ翼も勇者か。

 しかもまだいるみたいだな。

 俺で何人目だ?

 何の目的で、俺は召喚された?


 俺はまだ堪える。

 情報戦の基本は相手に知られないことが鉄則。

 まぁそれがどこまで通じる相手かは分からないけどな。


 大前提は命だ。


 こういう時、みーくんが居たら……。

 いや、無い物ねだりはしない。

 配られたカードで、戦う。

 それはゲームでも、現実でも一緒だ。


「では、ミーシャよ。ステータスを見せてもらおう。ステータス・オープン。こう言うだけで、このように表示されるのである」


 ネイ爺さんがステータスを見せてくる。


ネイ・ムセルLv1000

力:50000(+50000) 魔力:50000(+50000)

『真』『勇者』『戦闘時覚醒』『風魔法最大強化』『天下100日(-45日)』


 モニターみたいに表示される。

 細かいスキル説明は無いのか。

 自分で見当付けるしかないんだな。


 ステータスか。

 本当は見せたくないが、これは必要なやり取りだろう。


 俺が見て、俺が理解できないモノだと困る。

 だが、まだ俺も見てないんだぞ……。


 このネイ爺さん曲者だな。


「分かった。ステータス・オープン」


 俺はステータスを晒した。


ミーシャ・ヴァーミリオンLv1

力:10 魔力:10

『黄昏』『勇者』『黄昏時覚醒』『覚醒時魔力転換』『動季同期するハート』『ハートのエース』


 おぅふ。

 これは、雑魚い。

 レベル1だから当然と言えば当然なんだけどな。

 レベルマウント取られたら一瞬で死ぬ。

 むしろ媚び売ってハゲ翼に姫プレイさせようかな。

 と言うか、スキル? 称号? このネーミングセンスよ。

 誰だよ俺の思考回路で作ったヤツ?

 みーくんからもセンス無いねプークスクスとか言われまくったんだぞ。


「……なんと」

「こいつぁ特別な勇者様だこって」

「最後の、勇者。特別なのも、頷けるわ」


 俺の内心と違って、他の勇者は驚いている。


 俺って特別なのか?

 これの? どこが?

 称号なのかスキルなのか、よく見ても全く分からんし。


「だがポンよ、どうやってレベルを上げる? 魔獣こそ多少は残っておるが……」


 ポン?

 だれその可愛い名前のヤツ。


「それでもやるっきゃねぇっすよ閣下。魔王は俺っちも知らないんでアレっすけど、魔族も粗方倒しちまった今、短期間でレベルを上げるにはそれっきゃねぇ。それとも、魔鉱石でも砕きますかい?」


 ハゲポン!?

 お前だったのかハゲポン!

 何か急に可愛くなってきたな、ハゲポン……良い響きだ。


「私達でも無理なのに、新人イビりは止める。ごめんね、ミーシャ。私はショーコ。自己紹介は、苦手なの。だから、見てね。ステータス・オープン」


ショーコ・ライトニングLv1000

力:30000(+60000) 魔力:10000

『閃』『勇者』『閃光』『光魔法最大強化』『光速移動』『光速移動時覚醒』『高貴なる死神』


 ショーコお姉様、付け加えるなら、俺の味方っと。


「んだよ、俺っちを悪者にして面白いか?」


 うん、ちょー面白い。


「わーったよ。ほれ、ステータス・オープン。俺っちのことは好きに呼びな」


ポン・デ・ウィングLv1000

力:10000 魔力:10000 天力:80000

『翼』『勇者』『天帝』『天空の巣』『龍の城』『βパルス』『魔力天力化』


 翼は飾りじゃなかったのか。

 それは申し訳なかったな。

 ハゲ呼ばわりは止めてあげよう。


「じゃあ、しばらくはポンくんで」


 こう呼ばせてもらおう。

 しばらくしたら呼び捨てになるだろうけどな。


「ではミーシャよ。質問はこれで最後だ。後はお主の番となる。この世界のことはどこまで聞いた?」


 お、最終質問タイムね。


「歴史は聞いた。現状は聞いていない」


 途中で壊れたからな。


「では簡潔に説明するのである。この世界『サウス・マータ』は、吾輩含む勇者3名の尽力により、魔王を撃滅し、追加で召喚した2名の勇者と共に魔族を粗方滅した世界である」


 は? 魔王いないの?


「そして、『勇者の教典』が、最後にお主を勝手に召喚した。それも3か月前からの予約による召喚である。心当たりはあるか?」


 3カ月前から予約されていた?


「心当たりは無い」


 3年前なら、分からなくはないけどな。


「そうであるか。恐らくではあるが、元の世界とこちらでは時の流れが違うのである。生まれはどこである? 地球か?」


 え? 地球以外とかあるのか?

 俺は一応頷いた。


「そうであるか。やはり、地球生まれの勇者は多いのである。今、西暦は何年となった? 予想であれば2020年から2030年であろう?」


 俺はもう一度頷いた。


「そうか、もうそんな年になったか。吾輩は1815年まで、地球におったよ。あれから、17年余りである」


 こっちの17年が、地球の200年ちょい?

 ざっと12倍……こっちの一月が地球の一年?


 あれ?


 じゃあ、この世界の3ヶ月前って、地球でみーくんが死んだ3年前と同じ可能性があるってことか?


 うん、やっぱりどこかに、みーくんはいる。


 俺を呼んだのは、みーくんだ。


 違っても良い。


 俺は必ず、みーくんを見つけ出す!


「っ!? おい、ミーシャ! お前、身体光ってんぞ!」


 俺の心臓が激しく鼓動する。

 元はみーくんの心臓だ。

 この世界に、俺を呼び寄せたんだろう?


「称号の1つ、光ってる」

「シャレみたいな称号がかよ。なんのスキルだ?」


 俺に、みーくんを、感じさせてくれ!


 そして、光は霧散するように消えた。


「……どういう……ことであるか? これは、もはや、魔王……である」


 ネイ爺さんが驚くのも無理は無い。


 ポンくんとショーコお姉様がポカンとするのも分かる。


 俺のステータスが更新されたからな。


ミーシャ・ヴァーミリオンLv1952

力:10(防御貫通) 魔力:10000(+1000000)

『黄昏』『勇者』『黄昏時覚醒』『覚醒時魔力転換』『動季同期するハート』『全属性魔法使用可』『錬金術』『全テヲ砕ク者』『星ノ眼』『ハートのエース』


 俺は、みーくんと同期した。


 みーくん、こっちに来て3ヶ月なんだろう?


 どうしてすでにレベルが1000を超えてんの?


 魔力も条件付きの方、桁が違うんだけど。


 絶対魔王でプレイしてるよな?


 この世界に、魔王はいない。


 じゃあどこにいるんだ?


 やっぱり、『他』か?


 良いさ。それでも。


 ちゃんと、俺が、迎えに行ってやる。


「くくくっ、ふふふっ、ふぁーっはーっはっ! 改めて自己紹介だ、勇者達! 俺の名は、ミーシャ・ヴァーミリオン! 俺の真の目的を言っておく! 魔王『ジェイド・フューチャー』を倒すこと! それが、俺の目的だ! 魔王は必ず俺が倒す! そのために、たっぷり協力してもらうからな!」


 だからそれまで、元気に『魔王』してろよ!


「あーぁ、普通に可愛い子って思ってたのによぉ。まーたこんな濃い女じゃねぇか。女の勇者はこんなんばっかかよ……くぅ」

「よしよし。ミーシャは、ちゃんと、私が貰うからね」


 俺は聞こえなかったことにした。


 勇者として、ちゃんとやっていけるかなぁ。



ーーーー Norinαらくがき ーーーー

ネイ・ムセル。

由来、『真』の勇者、ミシェル・ネイ。歴史から頂きました。

吾輩は、ネイである。

名前は、ちゃんとあるのである。

キャライメージ:○タル○ア4の○セロッ○


ショーコ・ライトニング。

由来、お菓子のショコラと閃光さん。口数少なめのミステリアスお姉様。男にほぼ興味無し。ミーシャは即座にロックオン。

キャライメージ:○F○3の高貴なる警備員


ポン・デ・ウィング。

由来、○田ウィング&○ン・デ・リン○。スキル名? キワッキワですよ?

キャライメージ:ワン○の○フラミン○


勇者はネイとミーシャ以外(残り二人も)、相当イッテます(ナニがとは言えない)


Norin:ゴメンね、普通の女の子、書けないの。

ポン:絶許(血涙

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