13-5失踪

ーーーー ギリ・ウーラ ーーーー


 マズイことになった。


 昨日、羽目を外して飲み過ぎた。


 まさか、誰もが寝ていて知らないとは思わなかったのだ。


「ジェイド様を探せぇ!」


 ジェイド様が、目覚めた時、いなくなっていた。

 日はまぁまぁ昇っている。

 魔王城は一度探した。

 今はもう一度、隈無く探しているところだ。


「おぉ! フラン! フランよぉ! おーいおいおい……」

「ドラン、落ち着きなさい。フランも、ジェイド様と合わせて探させているわ……うっぷ」


 加えて、フランも失踪している。


 ドランは発狂して完全龍化するところだったが、私とミシェリーで止めた。

 そのミシェリーは、ドランの宥め役に徹しているが、顔色が悪そうだ。

 大して飲めんのに無茶して飲めば当然そうなろう。

 私も他者のことは言えんがな。


「おーい! テンテンが、書き置き見つけたってさぁ!」


 たっぷり寝て凄まじく元気なノウンが庭園の端から駆けてくる。

 右手には紙切れ、左手にはテンテンの首根っこを持ってだ。


「でかした!」

「書き置きにはなんやて?」

「フランのことは!?」

「私、読み上げる」


 ノウンに振り回されてフラフラのようだが、テンテンが書き置きを読み上げた。


「アイシテルミッツの丘へ行く。フランと共に行くゆえ、心配は不要。日暮れまでには帰還する……ここ、確か、浮気、駆け落ちの性地」


 読み上げたテンテンが、なぜかダメージを受けて吐血しているが、そんなことよりもだ!


「アイシテルミッツの丘だと!? もっとも堅牢な人類軍の要所ではないか!」

「バウアー様ですら攻め切れんかったところやん!?」

「あー、あのガッチガチの障壁のやつ? あたしの100万パワーでもビクともしなかったもんなっ」

「フラン、成長しましたなぁ。他の男では許しませぬが、ジェイド様となら良いでしょう。要らぬ心配でした」


 涙を流して喜ぶドランは無視だ無視!


「ジェイド様は何を考えて……。まぁ所在が分かっただけ良しとするか。テンテン……は使い物にならぬな。シッシ!」

「こちらに」


 テンテンと違って、シッシはジェイド様に心酔はしていないようだな。

 ただ、そのポーズは何だ?


「全軍にジェイド様とフランの所在が判明したと伝えよ。撤収して業務に戻るようにもな」

「ギリ、ええの? アイシテルミッツに向かわんで」


 ミシェリーが聞いてくるが、自分でも分かっているだろう。


「誰かを派遣するのは総司令の仕事だろうミシェリー。全力のノウンを撃退し、勇者の呪いすら打ち消すジェイド様だ。打ち消したのはフランの力でもあるが、そのフランも一緒だ。何かあってもどうにでもされるだろう。夕刻までには帰るとあるのなら、それを信用するしかあるまい」


 ミシェリーはニヤニヤしながらこちらを見てくる。気色悪いヤツめ。


「ジェイド様のこと、ウチの予想以上に信頼しとるんやな。ギリがそこまでになるんは、初めてやないん?」


 …………。


「知ったことか!」


 不快だ。

 私はいずれ頂点に立つ者。

 それに変わりはない!


ーーーー ミシェリー・ヒート ーーーー


 ギリもまぁまぁなツンデレやな。

 照れ隠しにしか見えへんで。


「ともあれ、所在が確認できたので、ギリの言う通り良しとしましょう。他に変わったことはある?」


 他に何も無い思ぅたけど、テンテンが手を挙げよった。

 でもな、テンテン。

 まずは血だらけの口、拭いたらどうや?


「フーリム、魔王城、抜け出した。多分、エルフD村へ、行く方向」


 まぁたあんの子は勝手にぃ……。


 ジェイド様のお付き業務やから、夕方までに帰ってくれたらエエけどな。


 しかもエルフD村……忘れもんでもしたんかいな?


「ドラン、一応侍女の管理は貴方の役目です。直接出向くなり、他の者を派遣するなり対応するように」


 ドランは少し不満そうな顔をしよったけど、納得したように頷いて早速指示を出しよった。


「分かりました。ではノウン、貴女にお任せします」

「えーっ!?」


 ノウンもいきなり振られたら、そら驚くわ。


「私もミシェリーもギリも、多少手を抜いたとは言え撒かれましたからな」


 ドランも上手いことゆーわ。


「しょーがないなぁっ。じゃあ料理長も連れてっていい? フーリムと仲良いみたいだし」


 料理長?

 4年前に突如着任した料理革命を起こした女やな。

 料理長の作るご飯は携行食すら美味いんやで。

 ほぼ魔石から魔力を得るだけやったウチらに食文化を広めた功績から料理長になったんや。

 魔石不足からの魔力食料難を何とかしてくれてんやで。


 ウチはそんな関わりないからよぉ知らんけど、ギリは仲良しみたいやな。


 ギリに、デキとん? って聞いたことあるんやけど、顔真っ赤にして違う言われたわ。

 カワイイとこも、あるやろ?


 でも、フーリムとも仲良いんやな。


 まぁ、餌付けされとるもんな。

 料理長と繋がりあるんも当然やな。

 確か悪魔ゆー話やったけど、前から人間っぽい見た目しとったらしいし。

 フーリムも絡みやすかったんやろな。


「良いわ。ノウン、料理長も連れていきなさい」

「りょーかいっ! んじゃ、いってきまーすっ!」


 ノウンは元気良く走って行ったで。

 んじゃ、フーリムのことは任せたで。


ーーーー フーリム・D・カーマチオー ーーーー


 魔王ジェイドの侍女になった私は、村から飛び出してそのままだったので、荷物を取りに村へと戻った。


 魔王城の生活にはすごく満足しているし、侍女としての仕事も楽しい。


 だから、こんな村とは即おさらばよ。


 服や小物は全て魔王城で揃うから、荷物はとっても少ないわ。


 無い物も、ジェイドに頼めば作ってくれるし……錬金術ってとんでもないわね。


 ジェイドったら褒めてもそんなこと無いって言うの。

 魔王軍の機甲師団化のためにも、もっと勉強して頑張らなくちゃとか言ってたけど、帝都を滅ぼした一撃以上のことを、またしでかしそうだわ。


「そんなジェイドのためにも、コレは魔王城に持っていかないと。うんしょっと」


 私が本棚の奥から取り出したのは『魔王の系譜』の原典。


 ジェイドには、この原典と一緒に私を迎えに来て欲しかったけど、結局私が押し掛けちゃったもんね。


 私は大きな原典を背負って、村を出る。

 裏口から入って裏口から出るだけだから、誰とも顔は合わせない。


 それで良いの。

 だって、村の空気がどんよりしてて『赤い』んだもの。


 早く魔王城に帰ろ。


「ん? こんなところに、剣が刺さってる。なんで?」


 来た道を帰っているだけなのに、間違えるはずもないのに、私だけが知る獣道のはずなのに、どうしてここに剣があるの?


「冷気を発してる。氷の剣……アイスソード?」


 魔王城に持っていけば、何か分かるかもしれない。


 私はそう思って、剣を地面から引き抜いた。


 次の瞬間、私は口に何かを一瞬で巻かれ、ひょいっと誰かに担がれた。


 思いっきりコイツの後頭部を肘で殴る。


「あいてっ! なにすんだよぉ!?」


 それ私のセリフなんだけど!

 って簀巻きにしないでぇぇええ!

 あ!

 目隠しされたら『真詠』使えないからぁ!


「アイ、遊んでないで行くゾ。今はとても『運』が良い。さっさと『異界』を渡るゾ」


「大人しくしろよな。一応気を使って女のあたいが、貴様を担いでやってんだから。ロドラに渡してやろうか? いっぱいモミモミされっぞ?」

「仮にも我らは『勇者』ゾ……。そんなことはせんゾ」


 私は改めて担がれた。

 でも、こいつら、今なんて……?


「ロドラ……あたいらが勇者とか言うなよ。一応極秘ミッションだぜ?」


 知らない。こんな勇者達、知らない!


「ここまで来て逃すこともなかろうゾ」

「んー、まぁ確かにな。じゃあ良いか。つー訳で……」


 2人の『勇者』は私に言った。


「その背にある『魔王の原典』を、キサマごといただくぜ」

「我らが『世界』のためにゾ」


 今は私だけが知る。

 この世界が新たな局面を迎えたことを。


 でも、私1人の力じゃ、どうしようもない。


 そして、私は、連れ去られた。


 ジェイド、みんな、ごめんなさい。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

新キャラ……書きたい……まだ書けない!


次回、書ける……そんな気がする!


外伝:残念じゃったな。次回はワシじゃ。

Norin:外伝、キサマァー!


次回、外伝!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る