13-3アイシテルミッツ三勇魔会談③

ーーーー ルナ・ティアドロップ ーーーー

 なんで?

 なんでウサちゃんもキレーヌ様もジャッくんも私に『ナントカシテ』って目を向けてくるの?


「和平? 平和、大事だよね! 広島県民なら尚更だよね! でもでも、帝都に原子爆弾は良くないと思うな! 今のところ帝都の人に被害は出ていないけど、10年くらい立ち入り禁止になっちゃうじゃん!」


 ウサちゃんとキレーヌ様が真っ青を通り越して真っ白になってる!?

 なんで!?

 ジャッくんはグッドだって。

 なんでだろう?


「あれ原爆じゃないよ。熱がメインだから、水素爆弾。しかも純水爆だから、放射能そんなに出ないし、ほとんど魔力だよ。仮に今日ぶっぱなしたとして、熱がひいてから魔法で除染すれば数日で人が住める程度になるよ」

「そうなの? 今は?」

「今? 第一帝都は順調に改装してるって聞いてるよ。素敵な要塞になりそうだってミシェリーは言ってたね」


 おぉ。ジェイドくん、ちゃんと先のことまで考えています。


「第一帝都が要塞化か……」


 ウサちゃんはガックシですね。

 キレーヌ様からは口から何か白いものが……魂?

 ジャッくんは目を覆っています。

 ナンデ?


 でも、やることは決まっているはずです。


「じゃあジェイドくん、和平、このまま結んじゃお! 人類側からは、確かに反対の声は出てくるかもだけど、私達『勇者』がガンバるから! だから、ジェイドくんも、向こうでガンバれ!」

「え? 良いの? そんなアッサリで? まぁ魔族側は、当然僕が頑張るけど」

「うん、だってこのまま戦争が続いちゃうと人類側に勝ち目無いもん。もう勇者って召喚できなくなっちゃったみたいだし……あ……」


 凍りました。

 私、『時』でも『氷』でもないけど、この場を凍り付かせました。


 でも、1番衝撃を受けていたのは他でもない彼でした。


「待って! それは……どういうこと!?」


 ジェイドくんの顔も青くなっていました。


「えっとね、詳しくはまだこれから、話そうって言う時に、ジェイドくんが来てね、『勇者の教典』が役目を終えたって……」

「ルナぁぁああ! それ以上、和平も結んでいない上に最も知られてはならん魔王にベラベラ喋るなあぁあ!」


 ウサちゃんに怒られました。

 ジャッくんと、キレーヌ様が剣を取り、ジェイドくんの首に斬りかかります。


 ジェイドくんの連れてきたフランちゃんも、龍の翼を広げ、そこからとんでもない腐臭を放ちます。


「落ち着くのは、全員だ! 冷静に考えろ! 仮にその『勇者の教典』とやらが役目を終えたとして、どうして魔王側にも何もないって考えられる!? フラン! 命令だ! 『腐乱』を止めろ!」


 臭いは消えました。

 ジェイドくんの両腕には2本の剣が刺さっていて、背中にはウサちゃんがナイフを突き刺す寸前で止まっていました。


「ジェイド、どういうことだ? 悪いが、そのままで説明しろ」

「それはこっちの、台詞だ。このままで良いから、いつ『勇者の教典』がどうなったか、説明して。キレーヌさん、お願いします。それって、今まで勇者を召還してきたアイテムなんですよね? 僕が使った『魔王の系譜』は消えたんですが、実はどこかにあるんですか?」


 キレーヌ様は、苦悶の表情でしばらく口を閉ざして悩まれていました。


 そして、ジェイドくんから剣を抜き、ドカッと座ります。

 ジャッくんも、キレーヌ様に倣って剣を抜きました。


「悪いな。借り2つだ」

「良いよ、その1つはルナにしとく」

「くくっ、ちげえねぇ」


 え? 私のせい!? ……だよね。

 私にできることにしてね?


 ジェイドくんの腕の傷はもう治っています。

 治癒能力は、かなり高いみたいです。


「ルナの失言ではあったけれど、ジェイドさんならその内気付いたでしょうから、もうこの際ぶっちゃけるわ。いきなり剣で刺したお詫びも兼ねてね」


 キレーヌ様は座ったままですが、深々と頭を下げました。

 そして、顔を上げて言いました。


「貴方の言う通り『勇者の教典』は勇者を召喚するためのアイテム。『魔王の系譜』と対になるアイテムよ。原典は消えないわ。どこかに原典が保管されているはずよ。貴方が使用したのは原典が生み出した複製品よ」

「分かりました。戻り次第探してみます。それで『勇者の教典』には何て書かれていたんです?」


 キレーヌ様は深くため息を吐かれました。


「教典にはこう記されていたわ。『黄昏たそがれの召喚により、勇者の教典は役目を終えました。もう召喚は行えません。フェーズ2へ移行中』とだけ。この手の話は勇者の方が詳しいと思い、今日、この話をするつもりでした。せっかくなので、ジェイドさんの考えも聞かせてちょうだい」


 なんか、ゲームみたい。

 それはジェイドくんも一緒だったみたい。


「まるで、ゲームだね。今は移行期間に入った? 何の? って言うか、『黄昏』って誰?」


 私も気になります!


「ノース・イートに『黄昏』なんていう勇者は過去にも今にもいないわ」


 ですよね。それに……。


「勇者の二つ名が二文字とは、どういうことだ? 一文字のはずだろう?」


 ウサちゃんの言う通り。それは『勇者の教典』が言っていました。


「うーん、そもそも、その二つ名ってどうやって決まるの?」


 ウサちゃん、よろしくお願いします!


「我が考察する限り、勇者の二つ名が決まるパターンは二通りだ。1つは、本人が強く望んだ場合。もう1つは元の名前由来だ。両方の場合もあるがな。ちなみに我は強く望んだ結果が『時』だ」

「俺様は両方だ」

「私は名前由来! 元の名前は月乃雫つきのしずくだよ! そう言えばジェイドくんは?」


 ジェイドくんは、深く考え込んでいます。

 あれ? 汗かいてる?


「ぼ、僕の名前も名付けられたよ。門音未来かどねみく。それでジェイド・フューチャー」


 ジェイドくんより、みーくんの方が親しみが……ん? なんか寒気がするよ?

 うーん、今まで通りジェイドくんにしておきます。

 あ、寒気、治りました。


「と言うことは、『黄昏』と望んだか、元の近しい名前を持っているか……ってこと?」

「『黄昏』と聞くと、我の知る限りでは、神々の黄昏……ラグナロクであるか?」


 ら、らぐなろくってなんです?


「物騒な響きに聞こえますが、私にも分かるように教えてほしいのですが。ウーサーでも良いのですけど」


 私はともかくとして、キレーヌ様は涙目です。

 頑張って堪えているように見えます。


「我も聞き齧った程度である。神々の最終戦争くらいしか知らん。ジェイドはどうである?」

「僕もそんなに詳しくないよ。新旧の話があって、どっちも大地が焼かれて全滅して、新しい世界が生まれるって話くらいかな。あとはオーディンとかフェンリルとかトールとか、神話の神の名前くらい。それなりに思い出してまとめてみるけど、まとめノートいる?」

「……すまんな。頼むのである」


 それでもジェイドくんが一番詳しいので、珍しくウサちゃんがお願いしています。


 ジェイドくんは魔法で紙とペンを取り出して、ツラツラと書き始めました。

 そして言います。


「まぁ『黄昏』が何を意味するのかは置いておくとして、可能性の話だけど、やっぱり和平は今すぐ結ぶべきだと思うんだ」


 うん、和平大事だよね!


「いや待てジェイド、話をすっ飛ばすな。きちんと説明するのである」


 ジェイドくん、説明いる? みたいな顔しないで。

 多分、ジェイドくん頭良過ぎて、私達ついていけてないから。


「だって『黄昏』って、別の世界の勇者でしょ? 別世界の住人と、いきなり仲良くできる?」


 え? できないの?

 私も、ジャッくんも、キレーヌ様も、ウサちゃんも、同じ顔をしました。


 でも、すぐにジャッくんは顔を伏せ、キレーヌ様とウサちゃんは天を仰ぎました。


「分かったみたいだね」


 私以外は分かったみたいです。


「ルナとフランにも分かるように説明するよ」


 あ、フランちゃんもいました。

 仲間です。

 今までちょっと怖かったけど、嬉しいです。きっと仲良くなれます。


「『黄昏』は勇者だ。でもこの世界にはいない。ならどこにいる? 他の世界だよ。しかもフェーズ2に移行中ときた。他の世界と繋がる可能性あるよね? ここまでは分かる?」

「フラン、わかるよ! いえーい!」

「私も分かった! いぇーい!」


 フランちゃんとハイタッチ。

 良い気分です。


「勇者だけど、勇者同士仲良くできるかは、相手次第って言うのは理解できる?」


 フランちゃんも私も首を横に振ります。


「相手に余裕があれば仲良くできるだろうね。余裕がない……例えば砂漠の世界の勇者達だったらどうかな? 食べ物、分けてあげる?」


 もちろん、分けてあげます。でも……。


「……分かったよ。全部は、あげられない。要求によっては、それが戦争の火種になるってことだよね?」


 地球でも、それは一緒だから。


「その通り。まぁ、相手が勇者だけなら、僕の魔王領に一緒になって攻めてくれば良いよ。滅ぼすけど」


 ジェイドくん、怖いよ?


「相手は勇者だけとは限らないと言うのですか……」


 キレーヌ様は頭を抱えています。


「繋がる世界が1つとも限らないでしょうね。『黄昏』……ラグナロクの世界は9つあったと言われていますから。勇者の世界が1つあったとして、他が全部魔王だらけだったらどうするんです? 魔王がこぞって攻めてきますよ?」


うわ、それは考えたくありません。


「ジェイド、一個良いか?」

「良いよ、ジャック。なーに?」


 ジャッくんが挙手して、ジェイドくんが許可しました。


「俺様が言うのもなんだが、その気になりゃジェイド、てめぇは俺様達を滅ぼして全部魔王領にできるよなぁ? それをせずに、和平だなんだってどーゆーこった?」

「和平するメリットが感じられないって?」

「あぁ、リソースに関しても、別に全滅させる必要はねぇ訳だしな。奴隷を戦争に駆り出すなんざ普通のこったろ?」


 確かにそうだよね。

 このまま和平を結ぶにしても、魔王……ジェイドくんに利益ってあるのかな?


 またキレーヌ様とウサちゃんの顔が怖くなります。


 でも、ジェイドくんの答えは単純でした。


「仮に和平を結ばず、協定も破棄して明日から戦争ってなったとして。その明日に別の世界と繋がったらどうするつもり?」


 どうなっちゃうの?


「なるほどな。下手すりゃ全滅ってか」


 あー、漁夫の利ですね。

 されちゃう側ですが。


「今のままではダメなのですか?」

「他の世界と手を組む可能性がありますよ。お互いにね」


 キレーヌ様の問いは切って返されます。


「和平を結べば、時間的な余裕ができ、協力もし合える、と言うつもりか?」

「そうだよ、ウーサー。僕は和平が成ったなら、その後は全力で対別世界戦に注力する」


 ウサちゃんは考えます。

 そして、答えを言います。


「分かったのである。だが、その案は少し保留にしたい。もちろん前向きに検討する。そちらの『魔王の系譜』がどうなっているか次第である。恐らくこちらと同じであろう。それが確認でき次第、和平。もちろん、交渉という建前は取らせてもらう。それでどうである?」


 今度はジェイドくんが考えます。


「分かったよ、ウーサー。それでいこう。キレーヌさんもそれで良い?」

「え? 条件とかは? 何かあるんでしょう?」

「アメリカと日本みたいな関係で良いんじゃない?」


 ジェイドくんはサラサラッと言いますが、それってどういうことなんでしょう?


「和平と同時に通商条約も結んで、関税はとりあえず一律化。あとは貿易の状況次第で互いが一方的にならないように単年度で調整して……まぁ法国と王国間みたいなやり取りから始めても良いけど。そこはまた今度詰めようか。そっちも何か宗教的なこともあると思うから、これは勘弁してってのがあったら教えてね。あと、これラグナロクまとめノートね。さて……」


 ジェイドくんは今まで書き続けていたノートを出してくれて立ち上がりました。


「では、我は魔王領へと帰り、『魔王の系譜』の原典を探す。見つけ次第連絡を入れる」


 いつもの魔王ジェイドに戻ってしまいました。

 でも、魔王への印象はガラッと変わってしまいました。

 これもジェイドくんの作戦なのかな?

 でも、私にはそうは見えません。


「ノートの提供感謝する。我らは数日、この陣地で体を休めるつもりである。それ以降となるなら、今いる4人の誰かに連絡をするが良い。そして、これは提案ではなくお願いなのだが……」


 ウサちゃんが、わざとらしくタメています。

 ジェイドくんも、それを理解して聞きます。


「下手な演技は不要だ。今なら無茶苦茶でなければ大体のことは聞くぞ?」

「では遠慮はせん。魔王ジェイド、ステータスを見せるのである。もちろん我も見せる。なーに、友好の証だ。和平を結ぶのである。それくらい、互いにできねばな?」


 うあー、ウサちゃん攻めますね。

 私でも分かります。

 キレーヌ様も、手に汗にぎにぎですよ。


「和平の仮契約のつもりか?」

「つもりではない。きちんとした、仮契約である。まぁ、強制するものではないが、どうする?」


「ふふっ」

「ふふふっ」


 ウサちゃんとジェイドくんが不気味に笑い合っています。

 これから、どうなっちゃうんでしょう。


「まぁ良いだろう。そちらも見せてくれるのであれば構わんな。ステータス・フルオープン」


 フルオープン!? って思わず口に出掛けました。

 ウサちゃんやキレーヌ様もだったみたいで、口を押さえています。

 本人に、感情ステータスが表示されて、すっごく恥ずかしいヤツじゃ……。


 でも、代わりにみんなのステータスも見られます。


 でも待ってください。


 ジェイドくん、そのステータスは何ですか?



ーーーー Norinαらくがき ーーーー

冒頭の会話。

ジェイドはまだ自分がぶち込んだことを知りません。ジェイド視点では、『あの映像』についての話。


そして『黄昏』の勇者。

だーれのことでしょうかねぇ?


黄昏:アップしとくぜ!

Norin:出番はまだ先よ?

黄昏:じゃあ帰る(´・ω・`)ショボンヌ

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