13-0魔王様、ピクニックに行く

 飲んで騒いでのドンチャン騒ぎが明けた朝。


 僕は日の出と共に目を覚ます。


 僕としたことが、庭園で、椅子に座ったまま寝てしまった。


 おかげでちょっと腰が痛い。


 みんなはフカフカの芝生の上で寝ている。


 かなりの数がいるけれど、誰も起きようとしない。


「しょうがない。片付けるか」


 みんなが頑張って準備してくれたんだ。

 片付けくらい僕がやらないとね。


 余った料理を1つのテーブルに集め、散らかっている酒瓶を広い集め、ゴミを分別回収して1ヶ所にまとめ、瓶の汚れや他の汚れは水魔法と風魔法で清掃し、ついでに皿洗いもやっておく。


「よし、こんなもんかな」


 1人でやると、もっと時間が掛かると思ったけど、さすが魔法。10分も掛からなかったよ。


 ぐぅ〜。


 僕のお腹が鳴った。


 ぐぅ〜……。


「フラン……おなか、すいた。まおーさま? おはよー」


 フランもお腹を鳴らしながら起きた。


「おはよう、フラン。一緒に食べようか」

「うん、いただきまーす」


 僕とフランは一緒に余った料理を食べた。


 余っている上に、時間もそれなりに経っているのに、とても美味しい。


「フラン、おいしい?」

「おいちい!」

「それは良かった」


 フランと一緒にベンチに腰掛け、パンの間に具材を挟んだサンドイッチを食べる。


 とてもじゃないが、朝食だけじゃ食べ切れないな。


 フランと一緒に食後の一杯で一息吐きながら、どうしようか考える。


 まぁ、みんなが起きてきたら分け合えば良いだけなんだけどね。


 せっかく僕もフランもみんなより早起きしたから、三文くらいは得したいじゃん?


「んん〜〜〜〜っ!」


 フランが伸びをして、翼を広げる。

 僕はそれを見て、フランに提案した。


「フラン、ピクニックに行こうか。飛べるよね?」

「ぴくにっく? あそびにいくの? とべるよ? えっとね、えっとね、フラン、まおーさまと、おでかけする!」


 そうして、フランと飛んでピクニックに行くことにした。


 目的地は、フランが決めた。

 一人の時、地図を眺め、勉強していたらしい。


「あいしてるみっつのおか! フラン、ここに行きたい!」


 フランが地図を持ってきて指差す。


 アイシテルミッツの丘と記載のある法国領だ。


 なんか、浮気の地みたいな名前だなぁ。


 場所は……ふむふむ。

 法国領だけど、ほぼ国境なので、ちょっと散歩してはみ出すくらい良いだろう。

 勇者もこっちに来てたしね。


 出発の前に、ちゃんと書き置きを残す。


『アイシテルミッツの丘へ行く。フランと共に行くゆえ、心配は不要。日暮れまでには帰還する』


 こんなもんで良いかな。

 風で飛ばないように何か重しを……。

 あ、テンテンの大きな剣がある。


 テンテンも幸せそうに、涎を垂らして寝ている。

 ちょっと借りるね。


 僕はテンテンの剣を書き置きに突き立てた。


「じゃあ、フラン。行こっか」

「うん! まおーさま、おんぶ!」


 そうか、フランって『幼龍』だから僕が乗れる程じゃないんだな。


「はーい、おいで」

「えへへ、まおーさまのせなかー」


 僕はフランを背負って飛んだ。


 目的地には30分くらいで着いた。

 途中から音速で飛んでみたけど、障壁の展開が甘かったのか、なんか進み辛くなった。

 だから酸素を確保して成層圏まで飛び、空気抵抗の無い場所でぶっ飛ばして、急降下して到着させたよ。

 大陸間弾道ミサイルの気持ちが、ちょっと理解できた。


「びゅーんって! ばびゅーんって! まおーさま、すごーいっ!」


 僕の背中でキャッキャしているフラン。

 かわいいなーもう。


「帰りもやるからね。楽しみにしててね」

「うん! たのしみに、してるね!」


 そして、僕はフランを下ろす。


 周囲に人影は無い。

 良い場所に降りたみたいだけど、多分ここ、思いっきり法国領だよね。


 あんまり人間と関わるのもなぁ。


 ん?

 そう言えば、僕も一応人間なんだよな。


「フラン、翼って隠せる?」

「ん〜、んっ! はいっ! できた! フラン、じょーず?」

「上手だよ。えらいえらい」


 フランの頭を撫でながら思う。

 フランも翼を消せば、見た目は人間なんだよな。


「よーし、フラン、ミッションだ。僕と二人で、人間の国に潜入だ」

「せんにゅーみっしょん!? やる! フラン、あくのおんなかんぶやる! まおーさまは、まおーさまやく!」


 即バレしそうだけど、その時は逃げる。

 どうやって?

 決まっている。

 帝都を消したあの映像をチラつかせる。


 実際にどう撃ち込むかは知らないけど、帝国が降伏したと言う実績があるので使える手段だ。


 いやー、抑止力とは言ったもんだよね。

 先に手を出した方が負ける時代。


 できることなら、僕が魔王である時代はそれなりの平和であってほしい。


 相手がヤバい魔族とか、魔族みたいな非道を極めた人間だと言うならまだしも、勇者を見る限り普通の人間っぽいんだよね。

 魔族側も悪い奴らはいないし。むしろイイ人ばっかり?


 なんで争っているのか、僕は知りたい。

 知った上で、争うならそれも良し。

 僕は僕なりの方法で最終的な平和を模索する。


「ピークニック、ピクニック! フランはあーくのかんぶやくー! がおー! がおー! がぉおーっ!」

「どーもどーも、知り合いの子がすみませーん」


 いつの間にか人間の兵士が増えてきた。

 でも、僕は魔王のマントを取り付けていないので、日本で言うところの学生シャツに学生ズボンみたいな格好をしている。


 どこからどう見ても普通の人間なので、見事なまでにスルーしてくれている。


 むしろ可愛いお嬢さんですねって声を掛けてくれる。


「むむ? 朝のお散歩ですか? この先は勇者様とキレーヌ様が話し合いを行っている天幕でして……」


 大きな天幕の前に、兵士が2人、門番だろう。

 若いお兄ちゃんが声をかけてくれた。


「実は僕、勇者と同じ『地球』からやってきた者でして……取り急ぎ勇者とお話を……」


 門番のもう一人のおっさんが、『地球』という言葉に反応する。


「転位者ですかな!? そういった者はすぐに通せと言われております。どーぞ、中へ」


 嘘は言っていないにしても、あっさり過ぎやしませんかね?

 こんな警備で大丈夫なのかな?


「ピークニック! がおおおーっ! ゆうしゃをぜーんぶたべちゃうぞ! がおがおー!」

「はーい、フラン。ミッション、コンプリートだ」


 僕は天幕の中に入り、改めて言った。


「初めましてだな、勇者諸君。そして法皇よ。我は魔王、ジェイド・フューチャー。我も話に混ぜてもらおう」


 僕は錬金術で椅子を二脚作り、余り物のお弁当第一段をテーブルに広げる。


 フランは、僕が用意するまで良い子で待っていた。

 そして、フランは美味しそうに食べ始める。


 でも、僕はもう一度自己紹介することになる。


 だってみんな、白目を剥いていたからね。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

魔王様、ピクニック気分で敵陣に乗り込む。

その時の勇者よ、気分を述べよ。


ウ:はぁ〜、憂鬱である。んん?

ジャ:あー、ねみぃ。だが……

ル:あ、どっちもカワイイ。でも……


「「「どちらさまですか?」」」

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