11-0魔王様、執刀する
突貫だけど、応急処置をするための準備は終わった。
『星ノ眼』を発動していたら僕は動けないので、今は切っている。
逃げろとは言ったけど、向こうはヤル気満々だった。
下手をするとまだ睨み合いが続いているかもしれない。
勇者の説明はこの準備の間にテンテンから聞いたよ。
それを踏まえて、的確な撤退指示を出すために、5分と経たずに再び『星ノ眼』を起動した。
ギリと『月』の勇者が撃ち合っている。
その横で、『時』の勇者とミシェリー、ノウンが動きを止め合っている。
そして『殺』の勇者とドランが倒れている。
そのドランの腹にはナイフが……。
この短い時間で、もう終盤戦になっていた。
想定していた最悪の事態だ。
そして、僕はバカだ。
見通しが甘過ぎる。
『我が名はジェイド・フューチャー! 勇者共、今すぐ退け! こちらもだ! 即座に退け!』
僕の声に反応して、『時』と『月』がキョロキョロしている。
ミシェリーが現状を叫んだ。
『ジェイド様! 時の勇者に止められているので、こちらから退くのは無理です!』
『魔王の言うことなど……ごぷっ……だぁれが信用するものかぁ!』
だろうね。
時の勇者の言う通りなんだけど、説得する時間は無いから。
『貴様ら勇者の命より、ドランの命が大切だ。貴様らが退かぬがゆえにドランの命を失ってみろ。帝都を滅した一撃を、貴様のその身にくれてやる。必ずだ!』
数秒の沈黙、そして……。
『ルナ、攻撃を止めるのである!』
『ふぇぇえん、りょーかいぃい! でも止めるの無理ぃいい!』
『月の勇者! そっちに合わせて止めてやる! 出力を落とせ!』
『あ、拘束が解けました!』
『ジェイド様っ! ありがとっ!』
無事に戦闘が終わったようだ。
でも、ノウンが腕を振り回して『時』に近付いている。
『ノウン! 余計なことはするな! 勇者は捨て置け! 一刻を争う! ドランを高速飛竜に乗せ、速やかに謁見の間に連れてこい! ナイフは抜くな!』
『え? 高速飛竜は一人しか乗れないよっ?』
僕の飛竜がちょうど到着した。
『問題ない。我の飛竜は4人乗りだ』
二回り大きな飛竜だからね。
でも、ドランを前に何か迷っている。
『は、や、く、し、ろ』
僕がそう言うと、ギリが苦悶の表情を浮かべながらドランを担ぎ上げ、飛竜に乗った。
全員が乗って、高速飛竜は飛び立った。
あと5分以内に重体のドランがやってくる。
僕は、更なる最悪の事態に備え、ある指令をテンテンに通達した。
5分なんてあっという間だけど、僕にはとても長く感じた。
僕の魔法で治せるのか。治せないとしたらどういう対処をするのか。
診てみないことには始まらないけれど、僕は全力でドランを治療する。
魔王謁見の間に、僕の高速飛竜が舞い降りる。
ミシェリーもギリも頭から血を流して意識を失っており、ノウンがドランを担いでいたが、体中から出血していてフラフラしている。
僕は駆け寄り、ノウンからドランを受け取って何とか車輪付きの担架に乗せた。
「ジェイドさまっ、ドラン、なんとか、連れて帰ったよっ。あとは……よろし……く……」
ノウンまで倒れた。
僕はすかさず3人に治癒魔法をかける。
すると、すぐに目覚めた。
「寝ている暇は無い。手伝え」
僕はドランに治癒魔法をかける。
左腕が骨折していたが、それは治った。
でも、腹の傷は反応が無い。
例え槍が刺さっていようが、治癒魔法をかけて成功すれば治癒して槍は分離する。
それが無いということは、この傷だけが特殊と言うこと。
ドランの胸を見る。
呼吸は浅いが、まだ十分ある。
僕はドランの腹に突き立っているナイフを見た。白く光っているが、血管のように赤い筋が脈打っている。
下手に外せば出血多量だろう。
「これより開腹手術を行う」
僕は錬金術で作成したマスク、ガウン、手袋を身に付け、光魔法で光量を確保する。
「ジェイド様、かいふく術とは? 回復魔法とは違うのですか?」
僕の言い方が紛らわしかったね、ごめんねミシェリー。
「字が違う。かいふくとは、腹を開くということだ。ドランを押さえておけるか?」
「……申し訳ありません。ドランの『龍鱗』により、触れるだけでダメージが入るので、運ぶだけならまだ耐えられますが、押さえつけたままにするには、リスクが大きいかと……。ジェイド様は、ドランに触れて何とも無いのですか?」
ミシェリーは申し訳なさそうに聞いてくる。
龍鱗ってナニさ?
触れただけでダメージ?
僕、何とも無いんだけど。
なんで僕だけ?
なんかあったっけ?
あぁ、状態異常無効化か。
今まで忘れてたよ。
「我は大丈夫だ。必要があれば声をかける。闘いの後で悪いが、我に足りない知識を問う場面も出てくる。そこで待機を。頼む。ドランを……救うためだ」
ミシェリーは涙ぐみながら答えた。
「お願いするのは私達の方です。どうか、どうかドランを。救えるのであれば、どうかお願い致します」
そしてミシェリーは頭を下げる。
ギリは渋々と言ったところだが、ノウンと共に頭を下げた。
「できる限りはする。ドラン、麻酔は入れるが、しばらくは耐えろ」
僕は聞こえているかは分からないけれど、ドランに言って、雷魔法の電気メスを入れた。
開腹する。
出血はそこそこあったが、風魔法で吸引して除去。視野は取れている。
ナイフは肝臓に刺さっていた。
治癒魔法を直接肝臓に当てると、一瞬だけ血が止まる。
その隙にナイフを少し抜く感じに動かしたのだが、すぐに血が溢れ出した。
ナイフは元に戻している。
最初にナイフを抜かなくて良かった。
今も切り口から血が滲むように出ているが、もし最初にナイフ抜いていたら、止める術が無かった。
「これは、呪いの類いです」
ギリが僕の治療の様子を見て言った。
「どうすれば良い?」
「まずは治癒魔法の継続を。そうすれば今より悪化の速度は抑えられると思われます。しかしながら、呪いの元を断たねば、着実に侵攻するかと」
「解呪の方法は?」
「そのナイフに込められた呪いを祓うか、破壊するしかありません。破壊すると言っても、ただナイフを破壊するだけでは、呪いだけが残ってしまいます。臓器を丸ごと摘出しても同じ。下手をするとそれで一気に呪いが全身に回る恐れがあります。ただの呪いであれば私もどうにかできますが、勇者の呪いは別格……そもそも喰らわないようにするか、呪い無効化のスキルでも無ければどうにもなりません」
僕は『魔王の忠臣』をドランに付与できないかと考えたが、付与することなんてそもそも仕組みとして出来ないのは知っている。
ドランが目覚めてくれたとしても、忠臣になってくれと言って、それで称号が付くのだろうか。
「救う手段が、無いと言うのか!?」
僕は悔し涙が出そうになるが、諦めない。
肝臓の外側から傷の中心に向けて集めるように治癒魔法を施す。
一瞬より長く、出血は止まる。
でも、すぐにまた元に戻る。
「ジェイド……さま……」
「ドランっ! ジェイド様、ドラン治ったっ!」
ノウン、分かったから揺すらないで。あと治ってないから。
「申し訳……ございません」
「喋るな! 話す度に血が……死ぬぞ!」
「報いで……ございましょう。最期に……願いを、聞いて……くださいませんか?」
治す手段が無い。
そんな中で、最期と言われる。
応えるべきか悩んだけれど、僕は言った。
「……言え、許す」
「最期に、フランと……娘と……」
「分かった。もう、テンテンに呼びに行かせている。……いるようだな、入れ!」
ドランは僕に、ありがとう、と優しい笑みを浮かべた。
ーーーー Norinαらくがき ーーーー
ティッシュの在庫は十分か?
箱単位で用意しておくことを推奨しておく。
次回、ドラン、○す!
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