10-1四天王VS三勇者

ーーーー ギリ・ウーラ ーーーー


 確かに聞こえた。

 先程とは違ってハッキリとだ。

 紛れもない、ジェイド様の声。


『勇者が見ているぞ! 3人だ! 即座に撤退し、態勢を整えよ!』


 この声の直後だった。

 私は護身用の剣を咄嗟に抜いた。


 ガキンッと音が鳴り、大鉈が腹の前で止まっていた。


 幾重にも重ねた魔法障壁を無効化してくるヤツはこの世界にただ一人。


『魔力貫通』の称号スキル持ち。


「へぇ、よく防いだなぁ。人間型になって反応が良くなったかぁ?」

「ジャァック! 貴様、なぜここにぃ!?」


 ジャック・ザ・ニッパー。 

 『殺』の勇者、私の天敵だ。


「帝国の勇者なんだぜ? ここに居ても、不思議じゃねぇだろ。まぁもっとも、俺様だけじゃあねぇけどな!」

「知っておるわぁ! ノウンは『月』を! ミシェリーとドランは『時』を潰せぇ!」

「は?」


 ジャックのマヌケな顔に、私は初めてコイツに対して笑みを浮かべた。

 ジャックは私の天敵。

 だからこそ、勇者最大の物理攻撃力を以て私を消しに来たのだろうが、逆手に取らせてもらうぞ。


 こちらの最大物理攻撃を、お前らの最大魔力持ちにぶつける番だ!


ーーーー ミシェリー・ヒート ーーーー


 ジェイド様の声が聞こえていなければ、ギリはおろか、私達も危なかったわ。


「ドラン! ウチとで『時』を抑え込むでぇ! ウサペーン、あーそびーましょおぉ! 早く身体を動かしたいなぁ」

「チッ! 察知されていたか……ってウサペンゆーなっ! こんのエセ関西弁放火魔がぁ! っぐ、黙って完全龍化とか卑怯であるぞ! さぁせるかぁ!」

「むむ? 龍化失敗ですな。それも1日封印。やはり、勇者はとんでもない力をお持ちで。身体もほとんど動きませんなぁ」


 ウーサー・ペンタゴン、『時』の勇者やな。

 中身おっさんのロリ勇者や。

 ロリ度合いはノウンより上なんやで。

 限定的やけど、『時』を操る化けもん勇者や。


 でも、その化けもん勇者も複数で当たれば怖くない。


 今は、ウチとドランの動きをほぼ止めとる。

 これ以上のスキルは使えんはずや。


 合計10万くらいまでの魔力持ちの動きを止める厄介過ぎるスキルやからな。


 ウチとドランの魔力で合計12万やから、はみ出た2万分は動ける。思考と言葉で2万分なんかいな?

 詳しい仕様は未だに分からへんのが辛いところやな。

 ま、ドランの完全龍化も逆行で止めたんやから、もうそんな長いこと止められへんやろな。


 ノウン、一気に仕留めたりぃ!


ーーーー ノウン・マッソー ーーーー


 ジェイド様の声がしたかと思ったら、ギリが『殺』の勇者にやられかけてやんの。


 でも無事。


 だからあたしは、『月』の勇者を殴りに行く。

 でも『月』の勇者、ルナ・ティアドロップは逃げ出した。


「あわあわあわわ! ノウンちゃん! ちょっと待ってぇぇえ!」

「待つ訳ねぇしっ!」

「んもぉ! ちゃんと、インストール、させてよーねっ!」


 でも、振り向き際に杖を振るってくる。

 そこから、軽く一山吹き飛ばせる闇と光の混合魔法を放って来やがった。


 ま、ただの魔力の塊なら何てことないしっ。


「ふぅんっ!」


 あたしは、右ストレートでかっ飛ばす。


「あーん! ホームランされたぁ! ノウンちゃんの相手は無理ぃ! ムーンエナジーフォース! イーンストールゥ!」


 げっ、体がキラキラ光ってチャージしてら。


 あたしも遊んでる訳じゃないから、サクッとやらせてもらうかんなっ!


「どっ……せぇえい! これでぇ!」


 あたしは足に力を溜めて、一気に蹴り、ルナの前に回り込んだ。


「んげげぇ!」

「終わりぃ! ……ぐ、動かねっ!」


 身体の動きが止められた。

 首だけは動いた。

 だから、そっち見たら、ウーサーがこっちに手を伸ばしてやんの。


 一番遠いドランの『時』を解除してあたしに向けやがった。

 でも、あたしは力の魔力変換のおかげで、ドランより『時』を掛けるのキツいんじゃね?

 口からめっちゃ血ぃ吐いてっし。


「ウーサー! 少し粘れ! このまま俺様がノウンを……」


 ジャックが来たっ!?

 アイツの『殺』の力はヤバい。あたしでも簡単に真っ二つにされるっ!

 覚醒する前に細切れにされるっ!


「させる訳が無いだろう!」


 ジャックから解放されたギリが極大の闇魔法を放つ。


「あなたの魔法は、私が相手だもんっ!」


 でも、そのギリの魔法にチャージ済みのルナの魔法が当てられる。


 ギリ対ルナ、あたしとミシェリーはウーサーに止められて動けない。


 あ、もう無理。


 ドンッ。って音がした。


 ドランがジャンプして跳んできてくれて、ジャックの鉈を踏み潰した。


ーーーー ドラン・ハミンゴボッチ ーーーー


 何とか間に合いましたな。


 ノウンは無事。


 『殺』の勇者と素手で三合打ち合い、あちらは『月』と『時』を背に、私はノウンを首襟を掴んで跳躍し、ミシェリーとギリの間に立ってノウンを下ろします。

 ノウンの首が締まって顔が真っ青ですが、龍鱗の反射ダメージを受けるよりはマシでしょう。


 ギリと『月』は魔法の撃ち合いを続けておりますな。

 お互い、実力は拮抗しているようです。


 ミシェリーとノウンは『時』に封じられたまま。


 さしずめ……。


「ははっ、寄りによって俺様と『龍王』の一騎討ちかよ」

「そのようですな。ですが、それに付き合うとでもお思いで?」


 『時』の限界は目に見えております。少し凌げば状況はすぐに好転するでしょう。

 もっとも……。


「ルナがそっちの『大魔導師』様を抑えこんでんだ。無理なこと言うなよな。なーに、ちゃちゃっと終わらせてやらぁ」


 その通りです。

 どうにせよ、受けて立つ以外にありません。


 完全龍化が出来ないのが辛いところですな。


 しかし、『殺』も手負い。

 先程、私と数合打ち合ったことで『龍鱗』による少なくない反射ダメージがその右手に見えております。


「利き腕がすでに使えないようですが、本当にやるのですね?」

「やんなきゃ俺様達を、見逃してくれんのか?」


 ジェイド様の『撤退せよ』という言葉が頭を過ります。

 しかし、状況は圧倒的有利。

 ここで我々が退けば、魔王軍の沽券に関わります。


「いいえ、見逃すつもりはございません。それはそちらがよくご存じでしょう? 無理なことは言わない方がよろしかったのでは?」


「てんめぇ……武器が無くても、十分だ。『殺』の勇者である俺様がぁ! 素手でてめぇを絶対殺ぉす! うぉぉおっ!」


 瞬間、『殺』が消えました。

 懐に居たのです。それも背を向けて。


 回し蹴り。

 その左足が、私の左腕を粉砕します。


「くおおぉっ!」


 そしてその反射ダメージで、左足の骨を砕きます。


「ぬあぁぁあ! くっそ! 反射ダメとか、最悪だろぉがっ!」


 『殺』は右足と右手でバク転しながら距離を取りました。


 少し侮っていたようです。

 手負いと言えど、やはり勇者。


「魔王専用だったんだがな。わりぃが、ここでアレ、使っちまうわ」


『殺』の言葉に、『時』も『月』も頷きました。


 なるほど、 ハッタリでは無いようですな。

 そちらが最強の一撃を放つと言うのなら、私も最大の一撃を以て応え、屠らねばなりません。


 龍化以上の威力を誇る私の決戦スキル。

 『称号喰らい』です。

 私のスキルの称号を喰らって消滅させる代わりに、その称号に見合った一撃を放ちます。


 全ての称号を喰らえる訳ではありません。


 喰らう事が可能で、これから喰らう称号は『魔王の忠臣』でございます。


 私が一生で、魂が震える程に嬉しく感じた称号でございます。


 ジェイド様を背に乗せたあの日に得た称号。

 手放したくない称号程に、威力を増す一撃。


 龍化は封印されているはずなのに、魔力で龍の頭がうっすらと象られます。


「行くぜ、てめぇに死の宣告を。『ディアーボス・フロムデス』」

「龍王を超える一撃に、塵も遺さず消えなさい。『ディスアペアリング・ロンリネス』」


 『殺』には手の平程の大きさの光が、身体を這うようにランダムに移動しています。

 そして、そのまま、私が放った魔力砲の渦の道へ飛び込みました。


 程無く、私の一撃は止み、『殺』がうつ伏せで倒れておりました。

 左腕は黒焦げ。

 全ての力を左腕に集め、私の一撃を耐えきったのでしょう。


 しかし、そこまでだったようです。


 実に、見事な散り際でしたぞ。


 ですが、死ぬまでは勇者。確実に勇者が死んだことを確かめるまでは、油断なりません。


 まぁ、両腕が使い物にならず、左足も潰れていては何も出来ますまい。


「ふぅ、先に『時』から仕留めますかな」


『時』に少しだけ目を反らした瞬間でした。


「ざぁんねん、まだ右足が、残ってらぁ」


 『殺』の裸足の右足で器用に掴んだ輝くナイフが、右足一本で跳躍して私の前に降ってきた『殺』が、私の腹に、一撃を放ちました。


 避けることは、不可能。


「ぐはははっ! やったぜ! まぁ、俺様も、ここまで……だがな……」


 私は意識が遠退く中、力尽きる『殺』と共に、倒れました。


 ジェイド様のために、倒れるなら本望でございます。


 ですが、私の心残りは1つ。


「フラン……あなただけは……どうか……」


 ジェイド様、どうか……娘を……お願い致します。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

帝国勇者ジャック・ザ・ニッパー。

由来、ジャック・ザ・リッパー。見りゃ分かるね。

よく切れるニッパー。意外とまともな青年。

2023/8/1挿絵追加

https://kakuyomu.jp/users/NorinAlpha/news/16817330661271464216


法国勇者ウーサー・ペンタゴン。

由来、アーサー・ペンドラゴン。言われなきゃ分かんないね。おっさんロリ。

貴重なツッコミ役その1。

2023/8/1挿絵追加

https://kakuyomu.jp/users/NorinAlpha/news/16817330661271593646


王国勇者ルナ・ティアドロップ。

由来、ルナに代わって、ペンペンよ!

典型的な正統派ヒロイン(本来ならば)

貴重なツッコミ役その2。

2023/8/1挿絵追加

https://kakuyomu.jp/users/NorinAlpha/news/16817330661271751618


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