9-3いつだって、主の傍に

 今日は最悪の1日。


 なぜ? ジェイド様への接触禁止の日だから。


 でもしょうがない。


 私のしでかしたことを思えば、1日で済んで良かった。


 でもしょうがない。


 ジェイド様の寝姿があまりにも可愛いのが悪い。

 普段の威厳があり、恐怖すら感じる魔王様とはまるで違う。

 そこにサキュバスである私が魅惑されてしまった。

 さすがジェイド様。前世界の勇者を魅了するだけはある。


 昨日はフーリムのせいで大変だった。


 本当にジェイド様の子を身籠ったのかと思って頭が爆発するところだった。


 今にして思えば、惜しいことをした。


 ジェイド様と私の子……どう考えても絶対カワイイ。


 いずれは……むふふっ。


 こほん。

 

 それはそれとして、今日はフーリムを影から支え、ジェイド様に気付かれないよう、ジェイド様を観察する日。


 いつだって、ジェイド様の傍に、私はいる。


 今はどこにいるのか?


 もちろん、今も傍にいる。


 ジェイド様の寝ているベッドの下。


 最近の寝床は、ずっとここ。


 む?

 床に耳を当てる。

 ドラン様の足音が聞こえる。

 もう1つ……これはフーリムの足音。


「これより、ジェイド様の寝所でございます。基本的にはジェイド様が目覚められて、良い、と声をかけていただいたら即座に入室するように。しかし、今は……」

「緊急事態なのは私も理解しています。ここで待っていますので、どうぞ中へ」

「すみませんな。初日からこう忙しなくて」

「お気遣いいただきありがとうございます」


 フーリム、普段のお喋りはとても上手。

 私も見習わないと。


「ジェイド様、失礼致します。緊急の用件のため勝手に入室したことをお許しください……寝ておられる……再び失礼します」


 ドラン様が入室して、ジェイド様を揺すって起こす。


「報告が二つございます。まずですが、帝国から全面降伏の書簡が届きました。これを受諾しようと思いますが、よろしいでしょうか? 本来はこちらに総司令であるミシェリーが来なければならないのですが、急な降伏だったためミシェリーも現地へ出発してしまいまして……私が確認させてもらっております」


 朝から騒がしかったのはそれが原因。なるほど。


「即日の降伏か……」

「はい、あの映像の通りとなれば、降伏は当然かと」


 ドラン様の言う通り。

 あの超遠距離爆撃魔法を受けて降伏しなければ、命はいつでもどこでもすぐ消える。

 むしろ、書簡を送ってこれる地位の者が生きていたことに私は驚いた。


「大したものでは無いだろう。帝都を溶かしただけなのだが」


 あの一撃を大したことではないと、ジェイド様は言う。

 そう思っているのは、ぜぇったいジェイド様だけ。


「降伏は受諾せよ。無益な殺生は好ましくない。これから統治する上では尚更な」


 迷うことなく即決するジェイド様。


「魔王軍にも余力はあるまい。基本的には今までと同様に統治させよ。最低限の者を現地に駐屯させ、ワイバーンモバイルシステムで速やかに連絡が取れるよう通信網を優先的に整備せよ。威圧的な政策はかえって統治を困難にすると知れ」


 あれだけの力を示しながら、指示も的確で分かりやすい。

 今までの魔王様は、ドラン様が、ああしてはどうか、こうしてはどうか、と言う場面が多かったが、それが全く無い。

 ドラン様が全幅の信頼を置く魔王様は、ジェイド様がきっと初めて。昔をあまり知らないから、勘だけど。


「かしこまりました。今の文言はワイバーン電報局より、速やかにミシェリーまで届けさせます」


 ミシェリー様も、それを知ってか、かなり自由に動いている。

 ジェイド様が全体に指示を出し、ミシェリー様が陣頭指揮を取り、更に細かい現場をギリ様やノウン様が指揮し、ドラン様が調整する。


 間違いなく、歴代最強の魔王軍が造り上げられている。


「それでは二つ目の報告なのですが……入りなさい」


 ドラン様はフーリムをジェイド様の許可なく入室させてしまった。

 普段なら有り得ないあるまじき失態。

 気が抜けた瞬間があった。

 ドラン様の足が震えていることから、ドラン様も自覚有り。

 お疲れなのかな?


「やほー」


 でも、フーリムが失礼な入室をした。


「ごっほぉんっ!」


 ドラン様のわざとらしい咳払いが一つ。


「失礼しました。本日より、フーリム・D・カーマチオー、ジェイド様の侍女として精一杯務めさせていただきます」


 そして優雅に一礼するフーリム。

 でも、この一連の流れはファインプレー。

 フーリムの更なる礼を失した行為を、ドラン様が処すことで何事も無かったかのように納めた。

 ドラン様は、フーリムに大きな貸しを作ってしまった。


 さすが、姫として生きてきただけあって、こういう場所の生き方は上手。

 メモメモ。


「今、本人が申しましたように、本日よりエルフの姫に侍女として働いていただきます。ご存じとは思いますが、例の『魔本』のためです」


 ジェイド様が発動させた魔本、ウィッシュ・アポン・ディザスターは、発動させた本人が望んだ魔法を無自覚に造り上げる魔法。

 だから、ジェイド様も詳細は知らない。

 それを教えるのが、フーリムの役目。


「ジェイド様、よろしければ、ステータスを見せていただけませんか? 『魔本』の状況が分かるかもしれませんので。ね?」

「なっ! なんたる失礼をっ! 分を弁えなさい!」


 でも、ジェイド様にいきなりステータス見せろは失礼。


「良い、ドラン。フーリムの言う通りにしよう。ステータス・フルオープン」


 ジェイド様は本当に優しい。

 あ、ベッドの下から私も見えた。


ジェイド・フューチャーLv1952

『魔王』『全属性魔法使用可』『錬金術』『全テヲ砕ク者』『木?魔法(装填中)Lv1952』『星ノ眼』『???技?Lv1952』『??新?Lv850』

力:10(防御貫通) 魔力:10000(+1000000)

感情ステータス:清々しい


 おかしい。

 ジェイド様はやっぱりおかしい。

 どこから突っ込んだら良いのか分からないくらいおかしい。


 レベルがおかしい。1000を超えたと聞いた時もおかしいと思ったが、さらに950も増えている。


 魔力の覚醒値もおかしい。桁が1つ増えている。


 新しい魔法の増え方もおかしい。もう3つ目になったが、解析不能称号スキルも増え過ぎ。


 感情ステータスもおかしい。

 何が清々しいのだろう。

 昨日、第一帝都を陥落させた後の朝だから?

 あ、降伏させたからか。きっとそれ。


「これが『魔本』による力か」


 ジェイド様は、自らのステータスをじっくり見て一言。


 ジェイド様、すでに把握されているのでは?


「さすがジェイド様でございます。見事なまでに、至高の魔王に相応しき魔法でございましょう」


 ドラン様も、ジェイド様を褒めちぎっている。

 私も、ジェイド様を褒めることなら負けないのに。

 今日は無理。残念。


「さすがはジェイド様です。『魔本』を解読し、これ程までに早く我が物とされるとは、さすがの私でも想定外でしたわ」


 フーリム、褒め方も上手。

 侍女として、すでに私無しでもやっていけると思う。

 私としては好都合。その分、ジェイド様の近くにいられるから。


「ではフーリム、貴女は自らの役目をこなしながら、ジェイド様の世話を行うように。では私も所用の後、しばらく魔王城を留守にしますのでよろしくお願いします。何かあれば、テンテンを頼りなさい」

「畏まりました。ドラン様もお気を付けていってらっしゃいませ」


 ドラン様は出ていかれた。

 なるほど、ドラン様が魔王城を留守にされるから、いつものドラン様と違ったみたい。

 日帰りは問題ないけれど、数日空けると言うこと。


「そんなこと無いわよ。四天王ドランと言えども、娘には甘々みたいね」


 む? フーリム、ジェイド様に失礼。

 これは私が出ないと。


「ドランに娘いるの? 僕、初耳なんだけど」


 ……ジェイド……様?

 待っ……私……冷静……時間……必要。


「ううん、そのままでいて。普段のジェイドは本物の魔王っぽくて怖い」


 フーリムの独り言が激しい。

 そうか、これが噂の『真詠』のスキル。

 ジェイド様の心と会話していると言うこと。


 ん?

 つまり、ジェイド様が心を詠まれることを良しとしている?


「ふふっ、一応上司だからドラン様ってことにしとこうかな。ドラン様には一人娘がいるの。奥さんは亡くなったみたい。私も詳しくは詠めなかったけど、娘さんのことは大事にしてるみたいよ。それから仕事ってのは本当だけどね」


 私の頭が爆発寸前なので、一旦色々置いておく。

 ドラン様の家庭事情は非常にセンシティブ。

 特にお子様の話題は誰も口にできない。

 でも、ドラン様はとても大切にされている。

 ジェイド様ならあるいは……と誰もが思ったに違いない。

 しかし、それでどうにもできなければ、ドラン様がどうなるか分からない。

 今のドラン様は魔王軍にとって必要不可欠。


 だからフーリム、余計なことはお願い、やらないで。


「フーリムの役目って何さ?」


 ナイス、ジェイド様。話題転換さすが。


「私の役目は、ジェイドの新しい魔法についての情報を引き出すことよ。だって、ジェイド自身もよく分かってないんでしょ? その魔法のこと。それを表に出さないジェイドも凄いんだけど」

「え? 僕、ナニやったの?」


 ジェイド様、やはり把握されていなかった。

 と言うか、フーリムに対してフランク過ぎ。

 私にも、それ、期待。


「あなた自身は、まだ何もやっていないわ。大丈夫。いずれ教えてあげるから」


 いいなー。なんかとても仲良し。羨ましい。


「って言うか、僕のこの謎の称号スキルのこと解るの?」

「私の『真詠』は物事の本質を見抜く力があるの。でもね、私が理解できる内容ならの話。さっきジェイドのステータスから『真詠』で見ようとしたんだけど、さっぱりだったわ」

「じゃあどうしようもないってことじゃん」

「そんなことない。ジェイド、あなたの膨大な知識を教えて。ジェイドの元居た世界の知識を私に身に付けさせて。そうすれば、『真詠』で見えるようになる」

「つまり、フーリムはダンジョンの宝箱は開けられるけど、その場所まで行けないから、僕に案内しろってことね?」

「よく分からない例えだけど、多分そう言うことよ」


 フーリム、ヤバイ子、悪魔の子。

 狙い通り、計画通りと、何かが私に伝えてくる。

 ジェイド様と一緒にいられる口実作った。


「バカになんてする訳無いわ。だって、あなたすっごく賢いもの。だから私に、しっかりあなたの世界のことを教えてね」


 私に取れる手段は無い。でもジェイド様にだって拒否権はあるはず。


「無いわ。だって『魔本』使って失くしちゃったもんね」


 私の、心、詠まれた?

 違う、ジェイド様も断ったのに、言いくるめられた。


「じゃあ、『宇宙』から『地球』が出来る歴史から行こうかな」


 ジェイド様が何を言っているのか、サッパリ分からない。

 勉強を始めたらしい。


 宇宙はビッグバンから始まってどうのこうの。


 でも、私は1つだけ興味を示した。


「ねぇ、ジェイドは知ってるの? そのビッグバンって、何が原因で発生したの?」

「色んな説はあるけど、宇宙の起源だからね。誰も見たことが無いんだよ。だから僕も、誰も、分からない」

「じゃあ神様がやった可能性も?」

「あると思うよ」


 宇宙を創った神がいる。

 私は、その神様にお礼を言った。


 ありがとうって。

 ジェイド様を、この世界に導いてくれて、ありがとうって。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

前話と今話の冒頭の落差。

そのためだけの連投。


ベッドの下に他人がいる恐怖。


食事やトイレは大丈夫かって?

人間の見た目と内臓をしているけれど、使いたければ使えば良いし、使わなければ使わないという選択肢が取れます。


要は魔力の確保さえ出来れば生命維持は可能。


つまり、食って飲まなきゃ出るものも出ない。


テ:トイレ? まだ、行ったこと、無い。

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