9-2-3外伝1 いつだって、君の傍に【挿し絵あり】

 俺は胸に手を当てる。


 心臓の鼓動がする。


 誰にとっても当たり前のことで、それは俺にとってもそうだ。


 でも、俺の心臓は、移植された心臓なんだ。


 ほんの少し、昔話をしよう。


 俺に心臓を提供してくれた俺の大事なツレが、この世界からいなくなって2年が経ち、もうすぐ3年になるが、昔話はもっと前だ。


 俺が7歳だった頃だから、13年前だな。


 13年前、俺は入院した。


 病名は拡張相肥大型心筋症。


 最初、心臓の筋肉は分厚くて症状がほとんどないんだが、後で徐々に心筋が薄くなってきて、心臓が大きくなる病気だ。


 俺の親は、俺が20歳まで生きることはできないと言われたらしい。

 親はどっちも医者だから、他の病院には行かずに、最新機器を使って自分達で再検査したんだとさ。


 結果、完治させるには心臓移植しかなくなった。


 問題はドナーだ。

 心臓の提供者が現れる確率って知ってるか?

 日本でやろうと思ったら100万分の1も無いだとさ。

 100万人に1人のドナーもいない。

 だから、まだドナーの多い海外に行く。

 バカみたいに高い金を払ってな。

 金で命が買えるなら、そりゃ買うさ。

 誰だってそう。

 でも、俺の親は違った。


 見繕みつくろったんだ。


 もうすぐ死にそうだけど、心臓だけは元気なヤツを探して、裏で金を渡して、俺をそこに入院させた。

 ソイツが死んだら、すぐに心臓移植ができるように。


 当時の俺は知らなかったよ。

 でも、気付いた。

 お互いに。


 出会っちまったんだもん。


 最初は、車椅子が倒れて動けなかった俺を助けてくれたよな。


 仲良くなっちまったんだもん。


 俺が薬で落ち着いて歩けるようになってからは、毎日会いに行ったよな。

 特別支援学校の養護教諭が来て、授業が終わった後は毎日ゲームだ。

 楽しかったよ。

 結局、俺が勝ち越しちまったままだっけな。


 5年くらい経ってさ、毎日ゲームして遊んでんのに、互いの親はやっと気付いたみたいで、今後は会うのダメだって言ってきた。

 それで病棟の端と端にされてセキュリティロックまでされたけど、看護師全員味方だから関係無かったよな。


 好きになっちまったんだもん。

 それだけ一緒なら、そりゃ好きになるよな。

 最初、俺が男だと思ってたみたいだから、そこはキッチリ殴っといたけど。

 それに……。


「僕の心臓はきっと君のモノになる。君にとっては迷惑かもしれないけど、僕は嬉しいよ。僕が死んでも、いつだって、君の傍にいられるからね」


 カワイイ顔してこんなことを俺に言うんだよ。


 16歳になった日の夜に、こんなこと言われたら、押し倒すに決まってるよなぁ?


 それまで結構我慢してたのに。


 相談に乗ってくれた全看護師も、涙ながらに親指を立ててくれたよ。

 夜な夜なキスしてたのは、とっくの昔にバレてたみたいだったけどな。


 17歳のある日、その時は来た。

 はしゃいで、倒れて、頭打って死んだって。

 嘘だろ?

 呆気無さ過ぎるだろ。


 涙を流す暇さえ無かった。


 すぐに全身麻酔で眠らされたからな。


 気付けばアイツはもういない。

 アイツはもう、火葬されて骨壺の中。

 心臓だけが、この胸に。


 退院の時、看護師長にこっそり渡されたよ。

 アイツ、俺に手紙なんて残してやがった。


『勇者よ、ついに魔王である我を倒し、お宝を手に入れたようだな。よって、勇者と魔王の物語は閉幕となる。しかし、うつむく暇は無いぞ。前を見よ。すでに新たな物語の幕が上がろうとしている。さぁ、ゆけ。勇者よ。新たな世界が、お前を、ミーシャ・ヴァーミリオンを待っているぞ! なぁに、心配することはない。嘗て言ったことを覚えているか? 我は、いつだって、君の傍にいるよ。だから、頑張れ、夕暮美紗ゆぐれみさ。僕の分まで、生きてくれ。門音未来かどねみく〜君に名付けられた魔王、ジェイド・フューチャーより』


 ひどい男だよ、みーくんは。

 魔王なら最後まで魔王でいてくれよ。

 どうして最後にいつものみーくんに戻っちゃうかなぁ。


 今読んでもボロ泣きだよ。

 昨日泣いたよ。

 思い出しただけで泣きそうだよ。

 俺、こう見えて女の子なんだぞ?


 それにしても早いなぁ。

 もう3年か。

 俺は20歳になった。

 みーくんのお陰で、こうして成人式に、無事に出ている。


 みーくんには散々バカにされたけど、ちょっとはお姉さんらしく成長したんだぞ?

 胸とかな。

 ショートだった髪も、少しだけ伸ばした。肩にはかからないくらい。おかっぱじゃないぞ? 似たようもんだけど。

 それを変えるなんてとんでもないと言われたが、八重歯も絶賛矯正中だ。子供っぽいからな。


 綺麗な振袖なんだ。

 みーくんには隣で俺を見て欲しかったよ。

 胸の中にいたら見えないだろ?


 出て来ても良いんだぞ。


 って痛い痛い。

 ちょっとみーくん、優しくして……。


「がふっ……」


 俺は式典の最中に血を吐いた。


 薄れゆく意識の中、病院に担ぎ込まれ、『拒絶反応』『薬が効いていないのか』などと聞こえた。


 違う。

 逆だ。

 拒絶なもんか。


 みーくんが、俺を、呼んでいる。


 あぁ、みーくんに会えるなら、喜んで、差し出そう。


 さぁ、俺を連れていけ。

 俺の全てを持っていけ。


 この俺、夕暮美紗……いや、ミーシャ・ヴァーミリオン、『勇者の教典』とやらに、呼ばれてやる!


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

俺系肉食メインヒロイン、爆誕。


挿絵公開(近況ノートに飛びます)

https://kakuyomu.jp/users/NorinAlpha/news/16817330659813699145


夕暮=ヴァーミリオン

美紗=ミーシャ


イメージキャラ:完全オリジナル(むしろ似たキャラいたら教えて)


外伝では?

ふっ。

ただの外伝と思うなし。


いつか、きっと、その内、ねぇ?

野暮なことは、書きませんぜ!

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