第二章 魔王VS勇者
9-0魔王様、魔本を失くす
ヤーバン帝国から挑発的な書簡を受けた翌日。
とても懐かしい夢を見ていた気がするんだけど、寝起きにドランのアップ顔を見たせいで、何の夢か忘れちゃった。
「報告が二つございます。まずですが、帝国から全面降伏の書簡が届きました。これを受諾しようと思いますが、よろしいでしょうか? 本来はこちらに総司令であるミシェリーが来なければならないのですが、急な降伏だったためミシェリーも現地へ出発してしまいまして……私が確認させてもらっております」
え?
帝国、降伏したの?
昨日の今日で?
ナニしたのさ?
「即日の降伏か……」
「はい、あの映像の通りとなれば、降伏は当然かと」
映像の通り?
まさか、あの映像送りつけたの?
しかも、それを見ただけで降伏したって?
あんな書簡送ってきといて?
「大したものでは無いだろう。帝都を溶かしただけなのだが」
帝都をドロッドロに溶かしたとは言え映像だけで降伏しちゃうかな普通……。
まぁ中々にリアルな映像だったけどね。
それとも誰か出来るのかな?
ギリとか?
集団魔法とかでもできるのかもね。
ドランがガチでブルブルと震えている。
誰かできるみたい。
怖いなぁ。
でも僕の部下ならいずれは仲良くならないと。
さて本題へ。
「降伏は受諾せよ。無益な殺生は好ましくない。これから統治する上では尚更な」
せっかく戦争が終わったと思って息をつき始めた頃にこれだもんな。
下手すると魔王軍のみんなが反発して暴動を起こしちゃうかもしれない。
「魔王軍にも余力はあるまい。基本的には今までと同様に統治させよ。最低限の者を現地に駐屯させ、ワイバーンモバイルシステムで速やかに連絡が取れるよう通信網を優先的に整備せよ。威圧的な政策はかえって統治を困難にすると知れ」
人間相手にもちゃんと対応しとかないとレジスタンスができちゃうからね。
こっちがどれだけ良政をしようが反発する人間は絶対出るんだけど、その規模は小さくするよう努める。
甘やかすことはしないけどね。
だから通信網の整備は最優先だ。
「かしこまりました。今の文言はワイバーン電報局より、速やかにミシェリーまで届けさせます」
電報局? そんなのあったんだ。
頑張って魔王組織図を覚えようとしてるんだけど、下部組織って細分化され過ぎてたくさんあるんだもん。
僕の知ってるどのゲームより細かいよ。
まぁ、こっちはリアルなんだけどね。
「それでは二つ目の報告なのですが……入りなさい」
ドランは僕の寝室に勝手に他者を入れた。
普通なら怒るところ。
でも、僕は固まった。
「やほー」
ハーフエルフの姫、フーリム・D・カーマチオーが恥ずかしそうにモジモジと、そして手を降りながら入室してきたからだ。
「ごっほぉんっ!」
ドランのわざとらしい咳払いが一つ。
「失礼しました。本日より、フーリム・D・カーマチオー、ジェイド様の侍女として精一杯務めさせていただきます」
そして優雅に一礼するフーリム。
僕は知っている。
フーリムと出会い、その別れ際に『魔本』をくれた。
それはとんでもなく貴重な物だったらしく、それが消えたことで騒ぎになっているのだ。
昨日、会議の後でやたらとミシェリーやドランが焦っており、有休を取っていたはずのギリが夕方に帰って来て『あの魔本がなぜ魔王城図書館の禁書庫から持ち出されているのだぁ!』と叫んでいたのだ。
魔本、図書館、持ち出し、となれば、僕だって容易に気付く。
犯人はフーリム、そして共犯者は僕。
そんな貴重でヤバい本を、僕はフーリムから貰い、僕が紛失してしまったのだ。
つまり、真犯人は僕。
だってどこ探しても無いんだもん。
もしかするとあの本があれば、昨日の映像の通りヤーバン帝国を吹き飛ばせるのかもしれない。
まずはドラン辺りに相談でもして……って思っていたら、もう目の前にフーリムがいる。
僕、詰んだ?
「今、本人が申しましたように、本日よりエルフの姫に侍女として働いていただきます。ご存じとは思いますが、例の『魔本』のためです」
フーリムが僕に向かって手を合わせ、ごめんなさいのポーズをしている。
どうやら僕はもう詰んでいるらしい。
もう良いよ。後は野となれ山となれだ。
もはや清々しい気分と言っても過言じゃないね。
「ジェイド様、よろしければ、ステータスを見せていただけませんか? 『魔本』の状況が分かるかもしれませんので。ね?」
「なっ! なんたる失礼をっ! 分を弁えなさい!」
「良い、ドラン。フーリムの言う通りにしよう。ステータス・フルオープン」
ジェイド・フューチャーLv1952
『魔王』『全属性魔法使用可』『錬金術』『全テヲ砕ク者』『木?魔法(装填中)Lv1952』『星ノ眼』『???技?Lv1952』『??新?Lv850』
力:10 魔力:10000
感情ステータス:清々しい
んん?
んんん?
なーにこれー?
またレベル上がってるじゃん。
やっぱりレベル上限って1000じゃないのね。
あと魔法が増えてる。
『木?魔法(装填中)Lv1952』と『星ノ眼』だ。
またハテナ魔法だよ。
しかも今回は今までと違って、部首の木偏みたいな細い木と半角ハテナだ。
何これ?
木偏で何か強力な魔法ってあるの?
林魔法かな?
それならいっそ森魔法で良いし、それだったら木魔法で良くない?
いや、そもそもとして、まさかこれ。
「これが『魔本』による力か」
僕、知らず知らずの内に『魔本』使ったってこと? それでこの二つの称号スキルが手に入ったって?
「さすがジェイド様でございます。見事なまでに、至高の魔王に相応しき魔法でございましょう」
いやいやドランさん、あなた僕をべた褒めしますけど、僕はこれが何の魔法か知らないんですよ。
「さすがはジェイド様です。『魔本』を解読し、これ程までに早く我が物とされるとは、さすがの私でも想定外でしたわ」
フーリムくん?
つまり君は、ある程度、事が起こると想定していたということかな?
ドランに見えないようにして、てへぺろ、じゃないんだけどなぁ。
おしおきして良い?
プルプルしながら青褪めてドン引きしなくても良いじゃない。
遠慮なんていらないよ?
「ではフーリム、貴女は自らの役目をこなしながら、ジェイド様の世話を行うように。では私も所用の後、しばらく魔王城を留守にしますのでよろしくお願いします。何かあれば、テンテンを頼りなさい」
「畏まりました。ドラン様もお気を付けていってらっしゃいませ」
そうしてドランは出ていった。
ドランも忙しいのに大変だな。
「そんなこと無いわよ。四天王ドランと言えども、娘には甘々みたいね」
あ、いつものフーリムに戻った。
「ドランに娘いるの? 僕、初耳なんだけど」
フーリムはニタりと笑って僕を見る。
僕の喋り方が変わったせいだろう。
心を読まれるなら、このままでも良いかなって思っただけだよ。
戻そうか?
「ううん、そのままでいて。普段のジェイドは本物の魔王っぽくて怖い」
僕、こう見えて本物の魔王なんだけど。
フーリムは笑って誤魔化した。
「ふふっ、一応上司だからドラン様ってことにしとこうかな。ドラン様には一人娘がいるの。奥さんは亡くなったみたい。私も詳しくは詠めなかったけど、娘さんのことは大事にしてるみたいよ。それから仕事ってのは本当だけどね」
ふーん。ドランに娘か。
どこにいるんだろ?
挨拶に行かないとな。
でもその前に……。
「フーリムの役目って何さ?」
「私の役目は、ジェイドの新しい魔法についての情報を引き出すことよ。だって、ジェイド自自身もよく分かってないんでしょ? その魔法のこと。それを表に出さないジェイドも凄いんだけど」
「え? 僕、ナニやったの?」
僕には前科がある。
ソクシ山爆破の件が頭を過る。
「あなた自身は、まだ何もやっていないわ」
何かすっごく意味深な言い方だなぁ。
「大丈夫。いずれ教えてあげるから」
腑に落ちないけど、今はそういうことにしておいてあげよう。
「って言うか、僕のこの謎の称号スキルのこと解るの?」
僕は食い入るようにフーリムに言ったのだが、自信無さげに言われた。
「私の『真詠』は物事の本質を見抜く力があるの。でもね、私が理解できる内容ならの話。さっきジェイドのステータスから『真詠』で見ようとしたんだけど、さっぱりだったわ」
「じゃあどうしようもないってことじゃん」
「そんなことない。ジェイド、あなたの膨大な知識を教えて。ジェイドの元居た世界の知識を私に身に付けさせて。そうすれば、『真詠』で見えるようになる」
「つまり、フーリムはダンジョンの宝箱は開けられるけど、その場所まで行けないから、僕に案内しろってことね?」
「よく分からない例えだけど、多分そう言うことよ」
やれやれ、みたいなジェスチャーをされた。
何か僕、バカにされてない?
「バカになんてする訳無いわ。だって、あなたすっごく賢いもの。だから私に、しっかりあなたの世界のことを教えてね」
僕にだって拒否権あるよね。
「無いわ。だって『魔本』使って失くしちゃったもんね」
そうだ。
僕は、形はどうあれ、『魔本』を失くしたのだった。
だったらやるしかない。
「じゃあ、『宇宙』から『地球』が出来る歴史から行こうかな」
僕は教師用の指示棒と黒板、チョークを錬金術で作り出し、ヤケに張り切るフーリムに早速地球のこと教えることにした。
ーーーー Norinαらくがき ーーーー
ステータス表記、ちょっと変更で。
ジェイドの賢さについて。
共通学力テストを受けさせても偏差値50そこそこ。
養護教員の派遣にて、最低限の義務教育は受けている設定。
あとはゲームと独学。専門書も相当読み込んでおります。
特に医療は、入院中に法に反しない限りの見学をしております。オペやら司法解剖やら。
生物や化学の医療分野のみ点数高い系。
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