8-3帝都落日
我が名はヒャッハー・エンドセントリー7世。
ヤーバン帝国の皇帝である。
第一帝都『ユアーショック』は古風だが美麗な都で、王国、法国からの観光客が多い。
しかし、我らは今、第二帝都『ラーブ・スカイフォール』にいる。
それも第一帝都民の全てが。
なぜか?
法国の勇者に『予言』されたからだ。
人類国家3国による裏協定。
我ら帝国が矛となり、魔王国を撃滅する。
他の2国は物資や兵を寄越す。
魔王国との協定には『協定に参加しない国に援助をしてはいけない』と言う約定は無い。
つまり、王国と法国は最強の盾となる。
そして、その2国から援助を受ける我らは最強の矛。
3国の勇者を一点突破で使えるこの手法は我々人類軍の大いなる一撃となるだろう。
その運用法についての協議を重ねていた時、血相を変えた『時』の勇者に進言された。
『国が滅びかねん時に1度しか発動せぬ予知魔法が発動したのである! ヤーバン帝国、その第一帝都に太陽が落ちる! 何がどうなってこうなっておるのか分からんが、幸い数日の猶予がある。速やかに退避するのである!』
太陽が落ちる?
そんなアホなことがあってたまるか。
しかし、勇者の進言を無下には出来ぬ。
幸い、第一帝都との距離は十数キロ。
第一帝都は平日仕事に向かい、休日に第二帝都に戻って来る者がほとんどなので、住民に思った程の不満は出なかった。
ベッドタウンでもあり、帝都と名を冠するだけあって副首都としての機能も当然ある。
よって、問題は無かろう。
という事で第二帝都の宮殿にいるのだが……。
「あんの生意気娘め。なーにが太陽が落ちるだ。晴天、視界良好、敵影無し。そんな報告聞き飽きたぞ」
我は法国勇者の愚痴を言いながら、左手のワイングラスを揺らし、赤ワインを一気に煽る。
そこにロゥガーイからの通信が入った。
『ふぉっふぉ、暇を持て余しておるのぅ』
「黙れジジイ。お前が変な協定を受諾したばかりにこんなことになっておるのだぞ? キレーヌはどうした?」
『相変わらずの減らず口じゃのう。キレーヌは法国の方で勇者共と会議じゃ。古文書の解析がどうのこうのと言うておったわい』
「ふんっ、あの女狐、歳の割りに見た目も声も良いからな。話し相手としてだけはもってこいなんだが……あの求婚魔め、帝国の勇者が無事でいれば良いのだが」
『さすがの我も、200歳超えのババァはちと無理かのぅ。エルフならまだしも人間でそれはのぅ……ふとした瞬間に魔法が切れたとあっては数日眠れんわぃ』
「ちげえねぇ、はっはっは!」
さぁて、法王様の悪口はここまでだ。
どこに目と耳があったものじゃ無いからな。
「ところでどうした? 他愛無い世間話をしに来たのでは無いだろう?」
この通信機は今は亡き『絆』の勇者の遺品だ。
各国の王にのみ与えられた通信連絡の要。
それを使用して連絡してくるのだ。
大した話でなければ、運用法で反皇帝派の餌にされかねん。
『御主の送った書簡が魔王城に届いた。予想通り、即座に我まで魔王からの直訴があったぞぃ』
伝書鶴の到着時刻は予想していたからな。その時刻と相違無いと言うことだろう。
魔王も慌てていたに違いない。
「それで、魔王はなんと?」
『この件に王国と法国は関与しておらんと言うたら、ならばこちらの好きにすると言いおったわぃ』
くっくっく、これは傑作。
関与しておらん訳が無いだろう。
「まぁ想定通りの反応だな。あとは話し合った通り事を進めるだけか」
『いや、四天王は想定通りなのじゃが、魔王は極めて冷静じゃった。あの魔王は何をしてくるか分からん。用心を怠るな』
いつになく真面目なロゥガーイ。
しかし、我は皇帝。
帝国を統べる者なり。
「忠告感謝する。しかし、我は覇道の中に生き、覇道の中で朽ちるのみよ。この生涯に、一片の悔いも残さぬ!」
我は決意を新たに拳を天へと突き上げる。
「ヒャッハーさまぁ! 第一帝都ショック上空に魔力球が発生しましたぁ!」
そこに、部下が慌てた様子で駆け込んできた。
『む? 王国でも確認したぞぃ! なんだこのふざけた魔力の塊は!?』
王国からも観測できる魔力の塊だと?
「帝都ショックの城上空に、何かある。ん? 発光している。何か魔法が当てられているのか? 光魔法か、雷魔法と言ったところか?」
千里眼の魔法具で第一帝都上空のソレを観察する。
他の部下もわらわらとやってきた。
『第一帝都に人は残っておらぬよのぅ?』
ロゥガーイは恐る恐る聞いてくるが問題ない。
「現在は全て待避している。いるとしたらそれは罪人よ。数日の内に賊の一斉掃討を計画している。帝都の良い掃除の日となるだろう」
しかし、魔法研究に詳しい大臣が狂ったように叫び始める。
「魔力増大! その量、甚大! 暴発の恐れ…… 意図的な暴発の恐れ有り! ば、爆発するっ!?」
嫌な予感は確かにあった。
それがまさかこんな形で実現しようと誰が知っていただろうか。
そうして、第一帝都に陽が落ちた。
目を潰さんばかりの閃光、その瞬間の熱波。
第二帝都には、帝都を覆う高位の障壁が展開されていたにも関わらず、衝撃波が駆け抜ける。
障壁があったからこそ、全員が無事だったのやもしれん。
ただ、無事だったのは身体のみ。
誰もが第一帝都に昇る黒煙を見て、初めて滅亡の意味を知った。
千里眼を持つ者は、初めて地獄を知った。
第一帝都が……城が……溶けているのだぞ?
「我は……いったい……何に手を出してしまったのだ……」
帝都の者、その全ての心はへし折れた。
ロゥガーイ、キレーヌの戯れ言は無視し、ヤーバン帝国は即日、魔王国に全面降伏した。
ーーーー Norinαらくがき ーーーー
ヒャッハー・エンドセントリー7世、由来、要る?
世紀末……ヒャッハー……数字のセブン……。
Norin:あ、北の空の大きな
※作者がひでぶ状態(デバフ)に陥ったため、更新頻度をプロフ通りに致します。
『木曜日』&『土曜日』の投稿で頑張ります。
よろしくお願いします。
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