8-0魔王様、緊急会議に出席する

 ここ2ヶ月、みんなが僕を見るなり距離を取る。

 誰も声すらかけてくれない。


 テンテンとの一件のせいに違いない。


 完全なる自業自得だ。


 でも大丈夫。


 ドランとの遊覧飛行で時間は潰せたし、地方の支持は固めた。

 毎日の日帰り旅行だったのでちょっと疲れたけれど、地理も分かったし、色々見れて楽しかった。

 ソクシ山から出た大量の魔石のおかげで、どこも少し潤ってきたのが効いたんだろうな。


 しかし今日、緊急放送が流れた。

 魔王城内部放送で緊急会議が行われると告知された。


 君達どこに居たの? と言わんばかりにたくさんの魔族が現れ、大講堂へと消えていく。

 まだ入ったことが無いけれど、屋内演説でよく使う場所らしい。


 僕も行かなきゃダメだよね?

 魔王なんだから、行くべきだよね?


 僕は入るべきか迷っており、大講堂の大扉の前で右往左往していた。

 数分間はそうしていたかもしれない。

 僕は決心してチラッと中を覗いてみることにした。


 でも、それは無理だった。

 覗き見るだけのつもりだったのに、大扉が勝手に全開になるんだもん。


 魔族全ての視線が僕に集まっている。


 地下に向けて広がっている大空間。

 1万人収容できるコンサートホールみたいな会場だ。


 僕は焦る気持ちを抑え、魔王らしく、風魔法で飛んで壇上へと向かう。


 ありがたいことに、僕の席はちゃんとあった。

 ゆっくり座ろう。


 司会進行役はドランで、ミシェリーが主に話していたらしい。


 お? 舞台袖にシッシがいる。

 僕が追い払おうとしてシッシって言っちゃったせいで名前が付いてしまったインキュバスの王子。


 本当に申し訳ないことをしたと思っている。

 ゴメンよー。


 さて、状況がよく分からないけど、緊急会議なんだから、そういうことだよね?


「状況は、良くないようだな?」


 僕の言葉に驚くミシェリーとドラン。

 そして悲しそうに頷いた。


 ふぅ、合ってたみたい。

 良かったー、とは言えないけど。


 ワイバーンモバイルシステムの映像なのか、モニターに僕の知らない人類の国が映されている。

 そこから推察すると、これかな。


「人類軍の協定違反か?」

「ぐっ、その可能性があります。つい先ほど、こちらの書状が届きました」


 やたらと達筆……というか汚い字で書かれた書状が僕に渡される。すでに写したのか、国の映像の横に書状が映し出されている。


 要約すると、『我々は人類軍と魔王軍で結ばれた協定には従わない。積年の怨み、魔族どもの命でしか晴れることはない。ヤーバン帝国、ヒャッハー・エンドセントリー7世』とのこと。


 ふむ。

 事実なら許さない。

 でも、まずは確認だ。


「ドランよ、ホットライン起動。ネンキーン王国へ繋げ」

「はっ! かしこまりました」


 僕はドランに指示を出し、協定を結ぶ際に繋いでいた人類軍の王様との間に設けたホットラインを起動する。


 映し出されたロゥガーイ・ネンキーン65世は、部下と共に待ち構えていたようだった。


 いきなり繋いだにも関わらず整然としている。

 知っていたな?

 つまり、この書状は本物で間違いないという事だね。


「ロゥガーイ・ネンキーン王よ、突然のことで我々も驚いているのだが、この書状についてだ。そちらの見解を聞かせてもらおう」


 僕はヒラヒラと書状を見せつける。

 やたらと落ち着き払っているけれど、王様の額に脂汗が滲んでいるのは隠せていないな。


「我々は、この事態に関与せぬ。ヤーバン帝国の独断専行であり、ネンキーン王国、ブーラック法国は人魔停戦協定を確実に履行する。よってーー」

「ヤーバン帝国のことはこちらで対処せよ、と言う訳だな?」

「そ、その通りだ」


 あちらさんは頑張って毅然とした態度を貫こうとしている。

 別に僕としてはそれで何の問題もない対応なのだが、ドランもミシェリーも静かに怒っている。

 王様や部下を睨み殺す勢いだ。


「申し訳ありません、ジェイド様、発言の許可を」

「許可する。ミシェリーよ、申せ」


 ミシェリーは真紅の炎を周囲に纏わらせ、口を開く。


「ネンキーン王国の者達よ。我々は味方が禁を犯した際、責任を持って撃滅すると約束した。そちらには、無いのか?」

「無い! そんな約束、協定には記されておらん!」


 王様は即答。これは打ち合わせをしていたようだね。


「しかしっ!」

「良い、ミシェリー。それまでだ」

「……分かりました。発言させていただき、恐縮でございます」


 僕はミシェリーを退がらせ、王様に向き合う。


「こちらの部下が失礼した。ネンキーン王の言う通り、約束していないのだから、そのようなことをしてもらう必要は無い。ならば、こちらの好きにして良い。そういう解釈で良いのだな?」


「我々は、ヤーバン帝国に関わる事態に関与せぬ。我々とは、ネンキーン王国とブーラック法国のことである!」


 念のために聞いたけど、良い言葉が聞けたね。


「であれば良い。ヤーバン帝国は、我らが対処しよう。時間を取らせたな。では、ドラン」

「はっ、通信は切断しました」


 大講堂は静まり返る。

 僕の言葉を待っているようだ。


「何の問題も無いだろう。むしろ、見せしめにちょうど良い」


 僕は魔王。

 敵は人間。

 戦争なんだから、躊躇なんて絶対しない。


 迷ったら、味方が死ぬ。


 僕は、魔王としてだけど、たくさん笑って、たくさん生きて、寿命まで生きて、そして死ぬ。

 無益な殺しはやらないけれど、必要ならば容赦はしない。


 僕は無意識の内に、懐へ手を入れていた。





 …………。


 あれ?


 僕は一瞬だと思うけど、怒りで意識が飛んでしまった。


 ミシェリー作のモニターがものすごい勢いで引きの絵を撮っている。


 ミシェリーが早速プランをまとめてくれたのかな?

 ガタガタと映像が揺れている。

 映画みたいな臨場感を演出していて良い感じだ。


 ヤーバン帝国の首都上空に一点の小さな光が灯っていた。

 それが一瞬で目が潰れそうな閃光を放ち、爆発した。


 時間差で、爆風? いや、衝撃波を感じた。

 ここ地下だよね?

 4DXってやつかな?

 時間差なのが妙にリアルでグッドだね。


 そして爆発後の映像は、ほぼ跡形もなく溶けたヤーバン帝国が映し出されていた。


 あー、これあれだ。

 熱何とか融合だ。

 名前が思い出せない。


 あ、思い出した! 水素爆弾だ!


「素晴らしい作品だ。あとは善きに計らえ」


 僕は席を立ち、出口に向けて歩きながら、このプランで良いとミシェリーに伝える。


 こんなのを首都上空でやられたらたまったもんじゃないよね。


 ヤーバン帝国の人達には悪いけど、これは戦争で、停戦協定をこちらからお願いしたのに、それを蹴るんだから、やられる前にやるのは当然のこと。


 国際法なんて存在しないし、ネンキーン王国とブーラック法国だっけ? 2大国には許可を取ってるし、何の問題も無い。


 僕の想定通りなら、魔法によるものだから、放射性物質も原爆に比べたらかなり少ないだろうしね。


 一応伝えておこうか。

 僕は振り返って言った。


「分かっていると思うが、ヤーバン帝国はしばらく草木も生えぬ不毛の大地となる。毒をばら蒔くも同然だからな。攻め入る際は各自防御バフ魔法を全て掛け、後方部隊に高位の治癒魔法使いを置くようにせよ」


 ドランやミシェリーだけでなく、全ての魔族が頷くだけだった。


 ん?

 何か変なこと言ったかな?

 今のプランの通り、やってくれたら良いからね。



 僕はシーンとなった大講堂から外に出て、今日も何とか魔王らしく振る舞えたと息を吐くのであった。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

2ヶ月経過。

そろそろ人類軍が動く頃合い。

物語はジェイドのやらかしと共に動き出す。


ジ:え? 僕、なんかやったっけ?

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