7-1エルフの姫 フーリム・D・カーマチヨー【挿し絵あり】

 私はハーフエルフ。


 姫として扱われているけれど、ハーフエルフは忌々しき穢れた血。

 純粋なエルフから見ればそうなのだろう。


 歴代魔王からも、汚れたモノを見る目で見られた。


 私が生きていられたのは、『真詠』のおかげ。

 他者の心、本質が見える力。

 心を読み、本質を色で捉える私の呪い。


 私に仇なす者は『赤』のオーラが見え、私にとって益ある者は『青』が見える。それ以外は『無色』。

 意思ある者であるならば、その顔を覗けば心の声さえ見ることができる。

 体だけならオーラだけなんだけどね。


 村の者は全て『赤』で、私の力を知る者も全て『赤』。


 私は全ての者が怖い。

 でも、私を知る者は、全て私を怖れていた。


 だから、私の友達は本だけ。


 本は良い。

 色んな知識を私にもたらし、私を色んな世界に連れていってくれる。


 でも、村に図書館なるものは無い。

 魔王城にしかないの。


 だから私は、『真詠まことよみ』を駆使し、見張りの巡回ルート、交代時間を頭に叩き込み、魔狼まろう蔓延はびこる魔の森を安全に抜けるルートを開拓して、今日も忍び込む。


 今日はついに、『真詠』で読めない文字はないはずなのに全く読むことのできない本をゲットした。


「やたっ! これで2冊目! さぁて、これはどんな禁書かな?」


 私は浮かれていた。


「いつか私を迎えに来てくれる白馬に乗った空みたいに青いオーラの王子様を召喚できる禁書でありますよーに……」


 そんな『魔本』な訳ないんだけどね。


「夢見る少女じゃいられなーいのは分かってるけど、夢を見るのがオトメなんだもー……んげっ!?」


 だから、広場を駆け抜ける時に魔王の存在を見落としてしまった。


 だって、小鳥や野うさぎと同じ『青』なのよ?

 とってもキレイな、空のような青。

 

 すぐに隠れれば良いのに、私、思わず見惚れちゃった。


 あくびをしながら、両手を天に伸ばしている人畜無害そうな少年。あなた、ホントに魔王なのかな?


 あ、私に気付いたみたい。

 ボーッと立ってるんだから、当然バレるわよね。

 私は魔王に駆け寄って、ごめんなさいスマイルをプレゼント。


『カワイイ……しかも綺麗な子だなぁ』


 真詠で魔王を見て、私はすぐに魔王の手を取った。

 赤くなる顔を隠すように引っ張って走る。

 だって、『青』のままでそんなセリフ言われたことなかったんだもん。大抵『赤』に変わるのに。


『わわっ! 急にどうしたの!? って裾、踏む! あっぶな! うわわわわわ!』


 魔王の心は終始混乱していた。

 私の心を掻き乱した罰よ。


 でも、私ごどきに連れ去られるなんて、今回の魔王大丈夫?


 しばらく走ったら、ちょっと落ち着いたみたいね。

 私もだいぶ落ち着いたわ。


『知らない少女に連れられて何処まで。ちょっとロマンチックだな。もちろん、僕は魔王なのでそんなことは口が裂けても言えないけど』


「ふふっ、新しい魔王はメルヘンチックなのね」


 この魔王、今までの魔王と全然違う。

 全部違う。

 面白いわね。


『うーん、心、読まれていますよね?』


 でも鋭い。

 気付かれちゃった。

 洞察力は高いわね。

 単にアホな訳じゃない。


「気ノセイヨー」


 こんな誤魔化しは通用しないかな?


「心を読んでいるではないか!? ええい、ステータス・フルオープン!」

「フルオープン!? やーん!」


 やっば! やり過ぎた!

 フルオープンされると、『隠朧かげおぼろ』まで丸見えになる。『真詠』のステータス表示を隠せる私のスキルなのに。


フーリム・D・カーマチヨーLv600

『エルフの姫』『混沌種』『半不老』『風魔法最大強化』『真詠』『隠朧』

力:5000 魔力:50000


 あちゃー。全部バレたかー。

 まぁ魔王の感情ステータスまで見えるし、おあいこかな。


ジェイド・フューチャーLv1001

『魔王』『全属性魔法使用可』『錬金術』『全テヲ砕ク者』『???技?Lv1002』『??新?Lv800』

力:10(防御貫通) 魔力:10000(+100000)

感情ステータス:一目惚れ(疑惑)


 うーん?

 色々、おかしい。

 今までの魔王と全然違う。

 ヤバみが過ぎる。


 感情ステータスもなーにそれ?

 一目惚れ(疑惑)って、疑惑の一目惚れってあるの?

 私に一目惚れしちゃったけど、疑われてるってことなの?

 でも、どうして『青』のままなのかな?


『エルフ? 混沌種? ハーフエルフかな?』


 うぐっ。

 この反応は、みんな同じなのね。


「うぅ、その通り。ソッコーでバレるなんてぇ。んもう! ハーフエルフなんて、なにくそぅって感じなの? 新しい魔王も一緒なの!?」


 もうやけくそよ。

 じれったいことされるより、直接聞いてやるわ。


『え? ハーフエルフって人間とエルフの間に産まれた子ってだけだよね? 何がなにくそぅなのかよく分からないけど、まずハーフエルフって響きが最高だよね。一般論で言えば、可愛いところ勢揃いだし、フーリムで良いのかな?』


 この魔王、何考えて……。


『うん、とても、可愛い。さすが姫だけあるね』


 んもう! この魔王、ジェイドったら何なの!?

 私のこと誉め殺してナニするつもり!?

 オーラの色は『青』のまま!?

 特にナニする訳でも無いの!?


 ふーん、男なんてみんな一緒のくせに。

 試してやるもんっ!


「やったっ! 今回の魔王は好感触! 私のことはフーリムって呼んでね!」


『急に元気になったなぁ。しかもすり寄ってきたし』


 あっるぇー? 反応薄くなーい?


「ねぇねぇ、私のこと、お嫁に欲しくなーい? ハーフだから、純エルフのまな板と違ってナイスプロポーションだよ? 歳もそんなに違わないはずだしぃ。魔王さまは歳いくつ?」


『エルフって長命なイメージだけど、歳近いのか? フーリムはいくつなんだろ?』


 プロポーションは無視かーい!

 自分で言うの、すっごく恥ずかしいのに!


「じゃ、せーので言おっか。せーのっ!」


「17歳」

「170歳」


 あ、10倍差だ。

 エルフと人間って、だいたい10倍差の成長なのよね。子供の時だけ成長早いけど。

 私もハーフだけどエルフと同じ成長してるみたいだし。


「思った通り、歳近いね!」


『なんでやねん!』

「10倍差が近いとはどういうつもりだ? からかっているだけにしか聞こえぬぞ?」


 エルフと人間にあるあるのギャップから来る文句きたー!

 ジェイドって、魔王だけど、やっぱり人間なんだね。

 見た目通りで納得。


「なんでやねんって、すごいツッコミだね。キレッキレ過ぎて腰抜けちゃった。ちなみに、私の前で取り繕っても無駄だよ? フルオープンで見たと思うけど『真詠』の前では心も本性も丸出しなんだから」


 それでこの反応ということは……ジェイドって、ただのウブ? もしくはニブチン?


 私は驚いたフリで転んでいたので、裾を払って立ち上がり、ジェイドの前に行く。


 よくよく見れば、可愛い顔した魔王ね。


「ふんっ、我の心を読んでも面白いことは無いぞ?」


 そんなことない。すでに、すっごく、面白いよ。


『だって魔王軍の機密情報とか何にも知らないもん。そもそも魔王になって数日だよ? 知り合いだってまだほとんどいないし、友達だってまだいないし』


 しかもボッチ。私と一緒。

 ふーん、しょーがないなぁ。

 私もだけど、初めてのお友達、なってあげる!

 それ以上の関係は……これから次第ね!


「ところで、我をどこに連れていく気だ? 夕食の時間もある。それほど遠くへは行けんぞ?」


「別にフツーに喋ってくれれば良いのにー」


『魔王も大変なんだからさー』


 もう心で会話できてるし。

 順応力はとんでもなく高いのね。

 魔王たる所以ゆえんかな?


「そうね、おさは大変だもんね。また今度二人っきりになることがあったら、ちゃんと普通に話そうね」

「機会があればね」


 あーもう、可愛いっ!

 私を悶死させる気?

 一応、私がお姉さんなんだから、歳上のレディとして振る舞わせてよね。


「ふふっ、ありがと。目的地はもうすぐそこよ。私たちの村へご招待。口止め料としてイイモノもあげるからね」


 お友達の印に、村にご招待。

 ついでに免罪符も貰っちゃおっと。


「ひめぇぇぇえええ! いったい何処へ行っておられたのじゃ!」


 村へ一歩入るなり、バァバがすっ飛んできた。


「この人、私の世話役のバァバね。バァナ・D・ベルバーラよ。こう見えて800歳生きるこの魔王国最古参の1人よ」

「捕虜の身じゃあ最古参でも嬉しかぁないのじゃ! ところで誰じゃこのなよなよしい童は? はて? 最近どこかで……」


 さ、先にジェイドの紹介した方が良かったかな?

 でも私が魔王のこと紹介しても、どうせ誰も信じてくれないし。


 ん? ジェイドの雰囲気が変わった。


「我が名はジェイド・フューチャー。新たなる魔王である。ここは捕虜の村か? 顕現してまだ間もないため、この村の事情を知らん。バァナ・D・ベルバーラよ、我への不敬、その説明を以て償いとする」


 わぁお、ちゃんと魔王出来るじゃん。

 私、黙ってよーっと。


 バァバ、土下座バックしてるし。

 こんなバァバ初めて見た。


「ははぁ! ありがたき恩赦、しかと承りましたじゃ!」


 バァバに倣い、村のみんなも出てきて土下座してる。

 ぷぷぷっ、良い気味よ。


「面を上げよ。他の者もだ。日常生活に戻れ。我はこの者に案内を受ける。普段通り、生活している様を見せよ」


 ジェイドの言葉で立ち上がり、元の生活に戻っていく。

 みんなが私を恨めしく見てくるからジェイドの陰に隠れとこ。


「大変失礼しましたですじゃ。ではこれよりこの村の生い立ちを説明させていただきますじゃ」

「簡潔にな」

「畏まりましたじゃ。この村の名は『エルフDの里』。名は初代魔王様より賜りましたじゃ」


 ジェイドはバァバの話を聞きながら、村をじっくり見ている。

 魔王城と比べると簡素なものだけど、村の規模としては立派なモノみたい。


「初代魔王様が顕現され、我々エルフは魔王様の庇護下に入りましたじゃ。その際、エルフは26に分割され、その内、このD村が質として魔王城の近くに据えられたのじゃ」


「ハーフエルフは姫のフーリムだけなのか?」


 さすがジェイド、よく見てるなー。

 でも、それ禁句なんだよね。

 まぁ、魔王が言うなら問題無いんだけど。


 久しぶりにお母様の話が聞けるわ。


「魔王様には包み隠さずお伝えしますじゃ。フーリムの母はエルフ。父は、『救』の元勇者じゃ。勇者がフーリムの母を囚われのエルフと勘違いし、人間の村へ連れ帰り、情事を重ねた結果、身籠りおったじゃ。フーリムの母は戦火に紛れてD村へと戻ったじゃ。そこで、周囲の反対を押して出産。その際、命を落としたじゃ。本来であれば忌み子として処分するはずなのじゃが……」


 そう、私は、この村に殺されるはずだった。


「『真詠』に目が眩んだということだな? それで姫として手厚く保護していると」


 さすがジェイドね。


「……返す言葉もございませぬじゃ」


 私の『真詠』は心を読める。

 当然、魔王の心も例外ではない。

 魔王が求めることを為す。魔王が嫌うことは避ける。

 私は、魔王の機嫌を取る最高の道具。


 魔王に知られれば、私は最高の道具として、色々使われる。


 今は良くても、きっとジェイドだって……。


『別にフーリムを取って食おうって訳じゃないから安心してよ』


 私は食べ物じゃないわよっ!

 それとも魅力的な体だからそっちの……訳無いよね。だって『青』のままだし。


 もー、ジェイドって何なの?

 変人! 面白過ぎ!

 ふふっ、ありがとね。

 ずっと『青』でいてくれて。


 ホント、ありがとう。


「しかし不用心だな。我がたまたま散歩に出ていたからよいものを。魔王領とは言え、このような可愛らしい姫が1人出歩くのはいかがなものか?」


 まーたそうやって可愛いとか言ってくるし。

 ねぇジェイド、私をどうしたいのかな?

 本当は、私を困らせたいんでしょ?


 ねぇ、どうして、ずぅーっと『青』いままなのかな?


『さぁ、ちょっとはフーリムも参ったかな?』


 参りました、降参です。


『どうして、顔も耳も真っ赤にして顔を抑えているんですかね?』


 知らないもん。

 そんなの私、知らないもんっ。


「そろそろ時間が差し迫っている。フーリムよ、我に貢ぎ物があるとのことだが、それは何処だ?」


「それは、こちらでございます。ジェイド様、どうぞお納めください」


 私は、今日いただいてきた『魔本』をジェイドに差し出した。


「これは?」

「私の『真詠』を以てしても読むことができなかった『魔本』になります。かなりの魔力で封がされておりますので、ジェイド様であればあるいはと」

「ふむ」


 解読には時間がかかるだろうけど、ジェイドなら何かやってくれそう。

 これを解読してくれたら、もう一冊も……。

 いつになるやらだけどね。


 ジェイドが魔本を受け取って眺めていたら、シュルシュルと音を立てて小さくなった。


 んんんんん?

 もう解読したの?

 ジェイドって、知将型魔王?


「事情は理解した。初代魔王と同じく、この『エルフD村』はジェイド・フューチャーの庇護下に置く。フーリムよ、また遊びに来る。それまで大人しくしておけよ」


 あー! 私から脱走の楽しみを奪ったなーっ!


 あーーん! バァバと他のみんなの視線が怖い!

『赤』だらけじゃん!


『魔王城外の森には野生の魔狼が生息していると聞く。 危ないんだから、魔王城に遊びに来ないよーに』


 私は子供じゃなーい!

 そう言うジェイドはどうなのよ!?


『僕? 僕は飛べるから大丈夫』


 まーた心で会話してるし!


「ではまたな。フーリム姫よ」


 絶対、また会いに来てよね。

 待ってるからね!


 そうして、ジェイドは魔王城へと帰った。


 バァバにこってりと搾られた後、私は本だらけの自室へ押し込められる。


 そして、一冊の本を開く。


 『真詠』でも読めない魔本。

 こちらは白紙ではなく、見たこともない言語でびっしりと記された本。


 そこから、1枚の紙がヒラヒラと落ちる。

 そこに書いてある字は読める。


 何度も読んだけれど、もう一度声に出す。


「早きに知れば自滅を招き、遅きに知れば破滅が訪れん。きたる時、この『魔王の系譜』を授けん。初代魔王チゥ・ファウストより、後世の選ばれし魔王へ」


 エルフD村にて、代々引き継がれてきた『魔王の系譜』の原典。


 私には予感がある。

 この本と一緒に、ジェイドが私を迎えに来てくれるって。


 私、良い子にして待ってるから、あんまり待たせないでね。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

フーリム・D・カーマチオー、由来。

かまちょ・フリーダム、以上。


自由が名前の元ネタなのに、軟禁生活を送るハーフエルフ。

いつでもどこでもハーフエルフは不憫扱い。

そんなハーフエルフを救いたい。

果たしてこの作品では救えるのか?

救ってあげてね、ジェイドくん!


キャライメージ:S○○の明○○


R5/7/11挿絵公開

https://kakuyomu.jp/users/NorinAlpha/news/16817330660171539144

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