7-0魔王様、魔本を貰う

 僕は掴まれている。


 僕は耳長の少女に手を掴まれ、魔王城を飛び出していた。

 ドレスの裾を踏みそうになるが、彼女は華麗に避けながら、僕の手を引き、魔の森を駆ける。


ーーーー 少し前 ーーーー


 僕は魔王城の執務室での仕事に一息をつきに、外の空気を吸いに出た。

 そこに耳長の少女が図鑑みたいな大きい本を持って歩いているのを目撃してしまった。


 少女は僕に駆け寄り、ニコッと笑い、手を取ってここまで駆けてきたと言う訳だ。


 魔王城の敷地から外には、魔鉱石の一件でしか出たことが無かったので、ちょっぴりワクワクしている。


 知らない少女に連れられて何処まで。


 ちょっとロマンチックである。


 もちろん、僕は魔王なのでそんなことは口が裂けても言えない。


「ふふっ、新しい魔王はメルヘンチックなのね」


 初めて言葉を発したかと思えば、いきなりそんなことを?


 うーん、心、読まれていますよね?


「気ノセイヨー」


「心を読んでいるではないか!? ええい、ステータス・フルオープン!」

「フルオープン!? やーん!」


 何がやーんなんだろう?

 僕は自分のステータスを見せているだけ。

 みんな僕がステータスを見せてあげると見せてくれるからね。

 この子は違うのかな?


 耳長少女は足を止め、およよおよよと座り込んで泣き真似をする。


 でも、ステータスは見せてくれた。


フーリム・D・カーマチヨーLv600

『エルフの姫』『混沌種』『半不老』『風魔法最大強化』『真詠まことよみ』『隠朧かげおぼろ

力:5000 魔力:50000


 エルフ? 混沌種? ハーフエルフかな?


「うぅ、その通り。ソッコーでバレるなんてぇ。んもう! ハーフエルフなんて、なにくそぅって感じなの? 新しい魔王も一緒なの!?」


 え?

 ハーフエルフって人間とエルフの間に産まれた子ってだけだよね?

 何がなにくそぅなのかよく分からないけど、まずハーフエルフって響きが最高だよね。

 一般論で言えば、可愛いところ勢揃いだし、フーリムで良いのかな?


 うん、とても、可愛い。さすが姫だけあるね。


「やったっ! 今回の魔王は好感触! 私のことはフーリムって呼んでね!」


 急に元気になったなぁ。しかもすり寄ってきたし。


「ねぇねぇ、私のこと、お嫁に欲しくなーい? ハーフだから、純エルフのまな板と違ってナイスプロポーションだよ? 歳もそんなに違わないはずだしぃ。魔王さまは歳いくつ?」


 エルフって長命なイメージだけど、歳近いのか? フーリムはいくつなんだろ?


「じゃ、せーので言おっか。せーのっ!」


「17歳」

「170歳」


 ん? 170?


「思った通り、歳近いね!」


 なんでやねん!


「10倍差が近いとはどういうつもりだ? からかっているだけにしか聞こえぬぞ?」


 む、ちょっと凄み過ぎた。

 フーリムは腰を抜かしてプルプルしている。


「なんでやねんって、すごいツッコミだね。キレッキレ過ぎて腰抜けちゃった。ちなみに、私の前で取り繕っても無駄だよ? フルオープンで見たと思うけど『真詠』の前では心も本性も丸出しなんだから」


 驚いてるのはそっちかーい。


 フーリムは裾を払って立ち上がり、僕の前でニコッと笑った。

 また心を読んでいるとみた。


「ふんっ、我の心を読んでも面白いことは無いぞ?」


 だって魔王軍の機密情報とか何にも知らないもん。

 そもそも魔王になって数日だよ?

 知り合いだってまだほとんどいないし、友達だってまだいないし。


 フーリムは何か嬉しそうに目をキラキラさせている。


「ところで、我をどこに連れていく気だ? 夕食の時間もある。それほど遠くへは行けんぞ?」


「別にフツーに喋ってくれれば良いのにー」


 魔王も大変なんだからさー。


「そうね、おさは大変だもんね。また今度二人っきりになることがあったら、ちゃんと普通に話そうね」

「機会があればね」


 おっと、思わず普通に喋っちゃった。


「ふふっ、ありがと。目的地はもうすぐそこよ。私たちの村へご招待。口止め料としてイイモノもあげるからね」


 そうして、僕はフーリムに背中を押され、森が開けて大きな広場になっている村へとやってきた。


「ひめぇぇぇえええ! いったい何処へ行っておられたのじゃ!」


 村へ一歩入るなり、耳長の老婆が全力で駆けてくる。


「この人、私の世話役のバァバね。バァナ・D・ベルバーラよ。こう見えて800歳生きるこの魔王国最古参の1人よ」

「捕虜の身じゃあ最古参でも嬉しかぁないのじゃ! ところで誰じゃこのなよなよしいわっぱは? はて? 最近どこかで……」


 魔王のマントを置いてきたから威厳が霞んでいるのだろう。


 僕は咳払いを1つして口を開いた。


「我が名はジェイド・フューチャー。新たなる魔王である。ここは捕虜の村か? 顕現してまだ間もないため、この村の事情を知らん。バァナ・D・ベルバーラよ、我への不敬、その説明を以て償いとする」


 バァバ、僕が名乗った瞬間から、土下座しながらバックオーライしている。

 多分、ドランのワイバーン・モバイルシステムで僕のことを見たんだろうね。

 懐から小太刀出して切腹しようとするからすぐに止めた。


 まずは説明、お願いします。


「ははぁ! ありがたき恩赦、しかと承りましたじゃ!」


 バァバに倣い、村のみんなも出てきて土下座しまくってくる。

 フーリム?

 僕の横で真面目な顔して突っ立ってるけど、笑い堪えてるのバレてるよ?

 なーにがそんなに可笑しいのかなぁ?


「面を上げよ。他の者もだ。日常生活に戻れ。我はこの者に案内を受ける。普段通り、生活している様を見せよ」


 僕がそう言うと、村の住人達は地面に擦り付けるように土下座して立ち上がり、元の生活に戻っていく。

 こちらをチラ見するのは良いけど、見てから泣きそうな顔しないでほしいな。


「大変失礼しましたですじゃ。ではこれよりこの村の生い立ちを説明させていただきますじゃ」

「簡潔にな」

「畏まりましたじゃ。この村の名は『エルフDの里』。名は初代魔王様より賜りましたじゃ」


 村を見る。茅葺き屋根の家屋がほとんどで、石造りの家がポツポツとある。

 エルフの数は200人くらいかな?

 小麦畑もあるし、川も流れてるね。

 良い立地じゃないか。


「初代魔王様が顕現され、我々エルフは魔王様の庇護下に入りましたじゃ。その際、エルフは26に分割され、その内、このD村が質として魔王城の近くに据えられたのじゃ」


 26分割? アルファベットかな?

 だからD村なのね。

 それにしても……。


「ハーフエルフは姫のフーリムだけなのか?」


 僕がこう言った瞬間、村の空気が凍った気がした。

 フーリムは、どことなく寂しそうな顔をしている。


「魔王様には包み隠さずお伝えしますじゃ。フーリムの母はエルフ。父は、『救』の元勇者じゃ。勇者がフーリムの母を囚われのエルフと勘違いし、人間の村へ連れ帰り、情事を重ねた結果、身籠りおったじゃ。フーリムの母は戦火に紛れてD村へと戻ったじゃ。そこで、周囲の反対を押して出産。その際、命を落としたじゃ。本来であれば忌み子として処分するはずなのじゃが……」


「『真詠』に目が眩んだということだな? それで姫として手厚く保護していると」


「……返す言葉もございませぬじゃ」


 そりゃ、心を読めるとなったら手放せないよね。

 フーリムは僕を寂しそうに見ている。

 別にフーリムを取って食おうって訳じゃないから安心してよ。

 フーリムは頬を膨らませて笑いを堪えている。しかも涙目で。

 また僕をからかったな?

 もーゆるさん。


「しかし不用心だな。我がたまたま散歩に出ていたからよいものを。魔王領とは言え、このような可愛らしい姫が1人出歩くのはいかがなものか?」

「ははぁ! きつく言うておきますので、ご勘弁をですじゃあぁぁああ!」


 バァバは再び土下座。

 案内してもらっているので、周囲の村エルフ達も土下座。


 さぁ、ちょっとはフーリムも参ったかな?


 ん?


 どうして、顔も耳も真っ赤にして顔を抑えているんですかね?


 横に顔をブンブン振って、違うって?


 何が? もう訳ワカメですよ。


「そろそろ時間が差し迫っている。フーリムよ、我に貢ぎ物があるとのことだが、それは何処だ?」


 バァバはギョッとした顔で僕を見る。


「それは、こちらでございます。ジェイド様、どうぞお納めください」


 フーリムは恭しく礼をして、さっきからずっと手に持っている分厚い本を僕に渡した。


「これは?」

「私の『真詠』を以てしても読むことができなかった『魔本』になります。かなりの魔力で封がされておりますので、ジェイド様であればあるいはと」

「ふむ」


 フーリムが真面目な言葉使いになっていることにも驚いたが、この分厚い魔本のページ全てが真っ白なことにも驚いた。


 これを僕にくれるって?

 嫌がらせじゃん。

 確かに魔力を感じるから、すごそうな本だとは分かるけど、もうちょっと小さくならない?


 すると、魔本はシュルシュルと手帳サイズになった。


 僕は懐に魔本を片付け、周囲を見渡す。


「事情は理解した。初代魔王と同じく、この『エルフD村』はジェイド・フューチャーの庇護下に置く。フーリムよ、また遊びに来る。それまで大人しくしておけよ」


 僕はフーリムに釘を指しておく。

 少しシュンとなったが、魔王城外の森には野生の魔狼が生息していると聞く。

 危ないんだから、魔王城に遊びに来ないよーに。


 僕? 僕は飛べるから大丈夫。


 そろそろ晩御飯の時間だ。


「ではまたな。フーリム姫よ」


 僕は風魔法で舞い上がり、魔王城へと帰った。



 夕食は、魔王の寝室で食べる。

 テンテンも一緒なのだが、すんすんと鼻を鳴らしている。


「ジェイド様、女、匂い、する」


 心臓を貫かれたような殺気を感じた。

 大人しく白状しよう。


「魔王城周囲を散策したのだ。するとバッタリエルフD村の姫に会い、村の案内をさせた」

「エルフD村……」


 嘘は言ってないよ?

 テンテンさん、目のハイライト消しながら顔を近付けないでくださいな。


「あの村の、ハーフエルフ、危険。ジェイド様でも、心、読まれる」


 みんなエルフD村のことは知ってたのね。


「案ずるな、読まれて困ることは無い」

「さすが、ジェイド様、です」


 だって僕に機密情報なんて知らされてないし。

 ってゆーかさぁ。


「テンテンよ、我に言っておかねばならぬ案件は他に無いな?」


 僕が知っていればそれなりに対応できた案件だよね?

 フーリムが良い子だから良かったものを、これがスパイとかだったらどうするのかね?

 まぁその心配が無いにしても、僕の心構えも、ちょっとは違っていたかもしれないんだよ?


「も、申し訳、ありません。この罪、如何様にも」


 そんなに僕って怖い?

 テンテン震え過ぎじゃない?


「では、テンテンよ。ベッドに寝よ」

「え? っは、はいっ!」


 僕だって、心を鬼にすることがあると知ってもらおう。

 例え泣いて喚いて叫ぼうとも、風魔法を3分間持続設定したから僕の意思でも止められないのだ。


「ではテンテンよ、声を出すなよ」

「は、はいっ!」


 じゃ、くすぐりの刑、執行。

 テンテンの笑い声、聞かせてもらうよー。


 結果、僕にとって地獄の3分間が始まった。


 テンテンの嬌声のみが魔王城中に響き、僕の鬼畜な噂が広まったことは、この行為を始めた瞬間悟った。


 僕はこういったことを二度としないと誓った。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

レベルが上がったので、ジェイドはもう飛び放題です。

風魔法を重点的に鍛えている最中です。

風魔法で防音障壁を張れると知ったのは、テンテン事件の直後らしいっすよ(鼻ほじ


テンテン事件の詳細?

R指定は設けておりますが、あくまで念のためです。

今後も微エロ程度(のつもり)なので、18禁シーンは書きません(Maybe)

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