6-0魔王様、史上最弱と知る
山を吹き飛ばした翌日。
四天王が緊急招集となり、僕は謁見の間にて叱られることになった。
厳密に言えば叱られると決まった訳じゃない。
でもさ、昨日の今日でさ、朝っぱらからさ。
「ミシェリー様、ノウン様、ギリ様、ドラン様より、すぐ、謁見の間、来い、と、伝達、ありました。昨日のこと、詳しく、です」
テンテンから寝起き一発目にコレですよ?
そりゃ背筋も伸びますよ。
何か怒ってるの伝わってくるもん。
現に謁見の間に言ったら、もう勢揃いだし。
みんな、眉間にシワ寄ってるし。
「はぁー」
思わずため息が出ちゃったよ。
テンテンにどう振る舞えば良いのかって聞いたら、
「いつもの、ジェイド様、らしく。むしろ、強気で」
って言ってくるんだよ。
僕、怒られる側だよね?
魔王の椅子、階段の上だから高い位置にあるんだけど、みんなを見下ろす形になっている。
良いのかな?
もういいや。
なるようにしかならないし、今後気を付けると誠意を持って、いつも通りにやろう。
「それで? 我を呼び出して何用か?」
一応、別件であることを期待して聞いてみる。
「ジェイド様が、とってもすごいことをやってくださったそうで」
笑顔のミシェリー。
でも、目は血走っている。
これは怒っていますねー。
「テンテンより聞き及んでおられると思いますが、昨日のソクシ山爆破の件です。事の顛末をジェイド様からも確認させて頂きたいと思いまして……その……」
ミシェリーが目をギラギラさせながら歯切れの悪い言い方をしてくる。
他の三人と合わせるためかな?
一人だけ激怒してても効果が薄くなるって?
うん、分かるよ。
でもね、ミシェリーだけでも十分怖いんだよ。
「我からも? つまり……ドランからすでに聞いたという事だな? ドランが知る以上の事は無い。我からは以上だ。ドランの言い分を第一にせよ」
僕は震えそうな声を頑張って抑え込む。
って言うか、ドランから聞いているんだよね?
ドランが一番の被害者だから、ドランの言葉が最も優先されるよね。
だから僕はそれ以上の事を、言い訳がましく言うつもりは無いよ。
それにしても昨日ドランに言ったけど、僕にできる補償って何だろう?
錬金術で雑貨作りかな?
みんなの名前入りコップ作ったくらいじゃ許してもらえないよね。
歯切れの悪いミシェリーに代わって、今にも歯軋りをギリギリ言わせそうなギリが聞いてくる。
ギリもキレッキレですね。
「ドランの話はすでに聞かせていただきました。しかし、不明な点がいくつかありましたので、そこをジェイド様に確認したいのです」
つまり事情聴取ですね。
分かりました。なんなりとどうぞ。
「良いだろう。好きに申せ」
するとノウンがとっても軽いノリで手を挙げてきた。
「じゃ、はいはーい。あたしでもちょー頑張ってヒビしか入らない魔鉱石を、どーやって破壊してんですか?」
ノウンは何か楽しそうだな。怒ってないのかな。
「でも、難しい話はよく分かんないんで、ジェイド様、とりあえず殴り合いしよっ?」
語尾にハートマークが付きそうな笑顔でめっちゃ怒っている。
しかも腕捲りをしながら、ドカドカと階段上ってくる。
僕は命の危機を感じた。
「慌てるな、ノウンよ。ステータス・フルオープン」
だからステータスを公開する。これを見ればノウンは落ち着いてくれるだろう。
ジェイド・フューチャーLv1001
力:10 魔力:10000
『魔王』『全属性魔法使用可』『錬金術』『全テヲ砕ク者』『???技?Lv1875』『??新?Lv800』
昨日の錬金術のせいでレベルが1000を超えてしまった。
でも見て。
レベル1000を超えたのに、力と魔力がたったのこれっぽっち。
力なんて初期値のまま成長していない。
しかもハテナ増えてるし、一文字だけ解禁されたし。
もう訳が分からないよ。
昨日、そんな中で色々と考察した結果、僕は史上最弱の魔王である可能性が高いと判明した。
人間レベルで言えば、力なんて普通の大人レベルだし、魔力も少将レベルである。
ノウンの力は99999、僕は10。
これが何を意味するのか?
ノウンの指先一つで、僕は死ぬ。
という意味だ。
きっとノウンは諦めてくれると、僕は余裕をかましていた。
「ノウンよ、これでも、ヤル気か?」
ノウンは僕のステータスを見て足を止めた。
「……もちろん! ヤらせてくれよ、ジェイド様!」
あ、ダメだ。
僕を殺す気満々だ。
余裕をかましてごめんなさい。
そうだよね、僕は美味しいエサだよね。
あと僕が取れる手段は、実演しか無い。
「良いだろう、少しばかり、実演するとしよう」
僕は錬金術アプリを開いて実行する。
昨日改良を加えたので、僕の任意の座標で即爆発させることができるようになった。
今回はニトログリセリンを、ほんの少しだ。
爆発そのものを手で掴まれたら大怪我するけど、少し離れた位置でなら程よい爆風が発生する程度の威力に調整する。
「ノウンよ、危ないので気を付けよ」
そしてノウンと僕の中間地点で爆発させたつもりなのだが、事もあろうにノウンが爆発位置まで一瞬で移動して手を突っ込んだ。
ボンッと小気味良い音がしたかと思ったら、ノウンの右手が吹き飛んだ。
文字通り、モザイク必須の吹き飛び様。
危ないって言ったのになんで手を突っ込んだのかな?
「治れ」
僕は回復魔法を発動させ、ノウンの手を瞬時に治す。
これも昨日実験したが、大抵の傷は治せるし、自分もしっかり治せる。
よく分からないけれど、通常の魔力より少ない魔力ですごい治療ができると、協力してくれたテンテンが言っていた。
「ジェイド様、もう1回、お願いっ!」
ノウンがまた突っ込んできた。
僕は2度目があるとは思っておらず、すでに階段の中程まで上がってきていたため、ワンステップでもう目の前にノウンだ。
目の前にノウンの頭がある。
頭突きだ。
僕は本気で喰らったかと思ったが、ノウンが額を僕に打ち付ける寸前、爆発を起こした。
そう言えば、僕は防御力が10の紙装甲だと知って、風の障壁2枚とニトログリセリンを魔法で挟んだ魔法式爆発反応装甲を展開していたのだった。
これが完成してから眠りこけてしまったので、展開解除するのを忘れていた。
僕にはそよ風、ノウンには超近距離爆風が炸裂する。
ノウンの頭が吹き飛ぶことは無かったが、額からとんでもない量の血が流れている。
大量出血しているせいか、ノウンの口元が弛んでおり、まるで笑っているようだ。
結果はどうあれ、ドランのみならずノウンまで大怪我させてしまった責任は魔王である僕自身にある。
僕はノウンの傷口が深そうだったので、ノウンの頭を包み込むように抱えて治療する。
「ノウンよ、傷付けてすまなかった。だが大丈夫だ。お前の可愛らしい顔は元通りだ。さぁ、来い。詫びだ。お前の一撃、受けてやろう」
僕は殴られる覚悟を決め、両手を開き、目を閉じた。
一発だけなら耐えられるかもしれない。
耐えられなくてもしょうがない。
僕は女の子を傷付けてしまったのだ。死んでもしょうがないだろう。
しかし待てども拳は飛んでこない。
僕はそっと目を開ける。
ノウンは俯いて震えながら、トボトボと階段を下りていた。
僕、許された?
なんで?
それとも、殴るにも値しないって?
そんなー。
僕は泣きそうな顔を必死で堪えた。
そんな僕を見かねてか、ドランが助け船を出してくれる。
「ジェイド様のお力、披露していただき感謝の言葉もございません。して、確認なのですが、この大量の魔石、どのように致しましょう?」
ドランの部下と思わしき飛竜達が、荷車山盛りの魔石を運んでくる。
何台分あるの?
10台以上あるよね?
と言うか、お叱りタイム終了かな?
魔石を前に、ノウン以外のみんなの目の色が変わっている。
ノウンは背中で語ってくれている。読み取れない僕を許してほしい。
でも、話が逸れるなら好都合。
「魔石は兵站だけでなく、普段の食事・配給にも使われているだろう? 古い物は魔力の質が落ちると聞く。必要な予備分を残して交換せよ。ある程度のサイズがあるものは褒賞とし、先の大戦の功労者や遺族への補填として使え。だが、最優先は鉱夫長ヒデオ・ラッシュ以下の鉱夫だ」
「だ、誰の一存で決めていきましょうか?」
ミシェリーの息が荒い。調子悪いのかな?
「もちろん、ミシェリー。お前に一任する。総司令なのだから当然であろう? 任せたぞ」
「はひぃ! お任せあれぇェィェェッスッ!」
ミシェリーが柄にも無くはしゃぎ、ガッツポーズを決めている。
よく分からないけど、喜んでくれているなら良かった。
「お待ちください! この魔石の所有者は、魔鉱石を砕いた魔王様自身にあります 安易にミシェリーに預けて宜しいのでしょうか!?」
しかし、ギリが強い口調で異議を唱える。
「待ちぃや! ギリ! ウチが不正なんかする訳無いやろ! 絶対無いわぁ!」
「絶対無い、と言い切れる方が怪しいな」
ギリとミシェリーの間で火花が散っている。
と言うか、素のミシェリーって訛りが関西風なんだね。
「分かった。ではギリよ。お前を監査役に任命する」
「は? 監査役とは?」
「監査役とは、監査役なのだが……んー、ミシェリーの配分決めの監査をせよと言うことだ。何か問題があれば我に、ギリが、報告せよ。その報告に問題があれば、我が直々に対応する形になる。もちろん、ミシェリーで決めかねる案件があるなら相談にも乗ろう。以上だ。他に何かあるか?」
「グッ……監査役、承りました」
「ジェイド様の恩賞が広く知れ渡ることを主とし、魔石配布を執り行いたいと思います」
ギリはギリギリ、ミシェリーはフッフーンと言った様子だ。
なんかギリに損させちゃったみたいだな。
今度何かしてあげよう。
「では最後ですかな? 私からジェイド様に、よろしいでしょうか?」
最後にドランから何かあるらしい。
あれかな?
「昨日の補償の件だな?」
「そうです、褒賞の件です」
ん?
何かニュアンスが違うような気がするけど、大丈夫かな?
「ジェイド様、手をお借りしたいと思います」
「我の手を?」
貸すだけ?
どーぞどーぞ。
ドランは僕の手をニギニギしてくる。
ドランの手は龍の鱗のせいか、ひんやりしていて気持ち良い。
「ドランよ」
「はっ!? 不快でございましたか?」
「いや、むしろ心地好いくらいなのだが、これだけで良いのか?」
ドランはなぜか感動している。
そしてミシェリーとギリはあんぐりと口を開けている。
ノウンは、また怒っている。殺気が僕に……じゃない? ドランに? なんで?
「まぁ良い。手ぐらい、いくらでも触れ。他にも我ができることなら何でも申せ」
「では近い内に私の背中にお乗りいただいても宜しいので?」
「ふむ、魔王領の遊覧飛行か。悪くない。だが、数回に分けねばならんな。負担にはならぬか?」
「望むところでございます」
「ではその件はドランに任せる。予定を組み次第報告せよ。他にも何かあれば申せ」
「かしこまりました」
ドランが手を離して退いていく。
終わった?
僕のお叱りタイム、完全に終わった?
みんな笑顔で僕を見ている。
ぃよしっ!
「以上のようだな。では、執務室へ行く。用事があれば訪ねてくるが良い」
僕は風魔法を使って体を浮かせ、そそくさと移動した。
ーーーー Norinαらくがき ーーーー
魔王ジェイド、ついに最弱と知る。
素のステータスは、人間数人の兵士にやられる程度のザコ。
ちなみに、魔王の系譜から貰ったスキルはステルスゆえに、フルオープンでも見えません。
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