5-1鉱夫長ヒデオ・ラッシュ
おいらはヒデオ・ラッシュ。
この道20年働いてるチャッキチャキの鉱夫でぇい。
ガキん時から働いてっから、知らねえこたぁ何にもねぇ。
だからかよ、26の歳で鉱夫長になっちまったぜぃ。
鉱夫って何すんだって?
決まってらあ、魔鉱石の採掘でぇい!
魔鉱石ってなぁ、砕けて小さけりゃ良いもんなんだが、でっけぇととにかくやべぇ。
近くでうっかり魔法を使って魔鉱石に当てちまった日にゃ、自分の魔力まで吸い出されて、下手したらおっ死んじまう。
だから鉱夫は、魔法をほとんど使えねぇ力自慢がたくさんいんだぜ。
使える魔法って言やぁ、物質そのものを強化する『物質強化魔法』くらいよぉ。
これでツルハシ強化できっから、滅多と壊れねぇツルハシを使えるんだぜぃ。
まぁこんなもん魔法の内に入らねぇがな。
それでも、この鉱夫の仕事には誇りを持ってたんだぜぃ。
だがよ、それも昨日までの話だ。
バウアー様がやってきて、おいら達を全員坑道の外へ出したと思えば崩落しちまった。
しかもバウアー様が死んで新たな魔王様が顕現される。
その上、おいらの姿も人間みたくなっちまった。
夢に決まってらぁな?
目の前に新しい魔王様が来たって言われても信じられねぇよな!?
「てやんでぃ! べらぼうめぇ! どこの誰だぁ!? ここが魔王軍直轄の魔鉱石採掘場と知ってのことかぁ!?」
だからおいらは酒の勢いに任せて、いきなり空から降ってきた男に突っ掛かった。
「我が名はジェイド・フューチャー! 新たなる魔王である! 鉱夫長はどこだ!?」
「鉱夫長ヒデオ・ラッシュとはおいらのことでぇい!」
どこのどいつか知らねえが、目の前にいるおいらを無視たぁ良い度胸だ。
勢いだけなら魔王様にも負けねぇぜ。
「魔王様の名を騙りやがってぇ! こんの偽者めぇ! 魔王様が……魔王様が……こんな
自分で言ってて泣けてきちまった。
だが、おいらの酔いはもう醒めた。
ドラン様が自称魔王様の隣に立っておられた。
つまり、この魔王様を騙る男は本物の魔王様。
「不敬罪でございます。消しましょう」
消されて当然でぇい。やるなら一思いにやってくれぇ。
「待て、良い」
は?
「ですが……」
「2度も言わせる気か?」
「かしこまりました」
おいら、許されちまったのか
思わず腰を抜かしちまったが、この魔王様……ジェイド様の男気、痺れちまったぜ。
「ヒデオよ、現場まで案内せよ」
「あったぼうよ! ついてきな!」
それでもおいらを案内役にしてくれるたぁな。
分かった。
あんたが大将だぜぃ!
だがよ、現場は悲惨なもんだ。
崩落現場は坑道入口からすぐそこ。
お先真っ暗たぁこの事だな。
「うむ」
ジェイド様、何を確めてんだろうな?
そんなでっかい魔鉱石、もうどうにもできねぇだろうに。
「我はこれより術式の構築に入る。時間はかなり掛かるが、ノウンでも無理だったのだ。期待はするでないぞ?」
ドラン様に倣って、礼をして100メートル下がる。
まさか、ジェイド様なら何とかなるって?
そんなバカなこたぁ起きねぇよ。
「ヒデオ鉱夫長、先程の態度は看過できませんでしたが、身の程は弁えているようです。さすがのジェイド様と言えど、あの魔鉱石はどうすることもできないでしょう」
「それは分かっちゃぁいますよ。バウアー様ですら叩き割るのにかなりの力を使うって聞きやしたもんで。実際はできねぇと思いやすが。だから、ジェイド様は慰問に来てくださったんすよね。それでもおいら達のために何かをしてくださろうとして……くぅ、感激でさぁ」
ドラン様の目線が、最初は突き刺さるんじゃねぇかってくらい痛かったが、今は和らいだ。
おいらのジェイド様への尊敬や感謝の念を感じてくださったんだろうよ。
しばらく経ってもジェイド様が出てこねぇ。
何されてんのかと、ドラン様に顔を向けるもドラン様も首を傾げられる。
その時だった。
おいらでも感じられるとんでもねぇ
その中心は、ジェイド様?
ふとジェイド様の背中を見ると、ゆらゆらとしばらく動き、一瞬倒れそうになる。
危ねぇと思い、ドラン様も足が一歩出たが、止まる。
ジェイド様が立ち上がったからだ。
ふらふらしながら、ジェイド様がこっちに歩いてくる。
膨大な魔力の渦は坑道の中にあるままだ。
「いってぇ何されたんだぁ魔王様?」
「ふっ、余興にも満たぬ花火よ」
おいらはビビりながら聞いたが、答えを聞いてもよく分かんねぇ。
発破でも掛けんのか?
そんなことしたら完全に坑道が塞がっちまうとも思ったが、そうでもしねぇと道は開かねぇもんな。
そもそも爆破魔法なんて魔鉱石には効きゃしねぇけどよ。
「ドランよ。防御魔法を全体に掛けよ。魔人的被害を出さぬためにな」
は?
100メートル離れてんのに、こんなところまで被害出るっつーのか?
仮に爆発したとしても、全部魔鉱石が吸収しちまうだろ?
だが、ドラン様は命に従い、おいら達に高位の対物、対魔法防御の魔法を掛けてくださる。
「かしこまりました。展開……無事に全ての者に掛け終わりました」
「では、起爆す……」
「念のため完全龍化を……」
ジェイド様はドラン様が何か言い切る前に指を鳴らされた。
その瞬間、爆音と閃光に襲われる。
防御魔法をかけてもらったにも関わらず、鼓膜が破れちまって耳が痛ぇ。
かろうじて目は焼けずに済んだが、辺りが見える頃、そこにあったはずのソクシ山が消えていやがった。
周囲一帯も木々が吹き飛び、更地になってやがる。
しかもだ。
でっかい魔鉱石が20個、空から落ちて地面に突き刺さる。
そして綺麗に数十分割され、さらに割れて加工不要の魔石の山ができた。
遠目に見ても分かる。
その上質な魔石の数々。
それ一個掘り当てるだけで、1ヵ月遊べる金一封が貰えるだけの魔石が、山のように有りやがる。
だが浮かれてっ場合じゃねぇ。
龍化されたドラン様の翼が焼け落ち、瀕死だ。
おいら達なんぞを気にかけてもらったばっかりに。
「治れ」
ジェイド様がそう口を動かした気がした。
ドラン様は一瞬で瀕死の状態から治った。完全回復と言っても過言じゃねぇ。
ドラン様も、おいら達も、ジェイド様をジッと見ていた。
何かある訳じゃねぇ。
ただ、ジェイド様を見ていた。
体が光ったと思ったら周囲の雑音が聞こえてくる。耳が治った。
「皆よ、すまなかった。少し試しただけのつもりだったが、このような結果になって残念だ」
少し試した!? これで少し!? 残念!? この結果で!?
ジェイド様、まさかソクシ山だけじゃなくて、ホラーク山脈まるごと魔石に変えるつもりだったってことか!?
ドラン様を見る。
頷く。
なんてこったい!?
「新たな鉱山が見つかるまで、ゆるりと休暇を取るが良い。幸い、魔石は大量だからな。特別に金一封も出そう。ドラン、手配を。お前には直々に褒償を与える。我にできることであれば、何でも申せ。分かったな?」
え? 休み?
魔労基準法に該当しないおいら達の仕事に休み!?
さらにボーナス!?
こいつぁ夢か?
いや、夢でも頷いとけ!
そしてジェイド様は龍化したドラン様の背に乗って飛び立つ。
もう良いよな?
これ、夢じゃねぇよな。
おいらは部下と頬をつねりあう。
夢じゃねぇ。
「者共ぉ! 今夜は宴じゃあああ!」
苦しい、キツイ、危険な3K揃ったおいら達の仕事に、初めての歓喜が舞った。
ーーーー Norinαらくがき ーーーー
ヒデオ・ラッシュ、由来
ヒデオ→英雄→えーゆー→Au(元素記号)
→金→ゴールド
すなわち、ゴールド・ラッシュ。鉱夫ですから。
26歳妻子持ち。
一般魔族ではあるけど、好感の持てる青年設定(今のところ)
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