5-0魔王様、錬金術を使う
銀のドランの背に乗って、魔鉱石を採掘していたホラーク山脈のソクシ山に到着した。
「てやんでぃ! べらぼうめぇ! どこの誰だぁ!? ここが魔王軍直轄の魔鉱石採掘場と知ってのことかぁ!?」
威勢の良い髭面鉱夫だ。
酒瓶を持っていなければ良いセキュリティだと褒めていたのに残念だ。
安全第一のヘルメットが気に入ったので許してあげる。
「我が名はジェイド・フューチャー! 新たなる魔王である! 鉱夫長はどこだ!?」
「鉱夫長ヒデオ・ラッシュとはおいらのことでぇい!」
マジで? この酔っぱらいが?
この様子だと昨日から飲んでますよ?
だから僕のこと知らないんだね。
「魔王様の名を騙りやがってぇ! こんの偽者めぇ! 魔王様が……魔王様が……こんな辺鄙で落ちぶれたところに来てくれる訳がねぇんだよおぉ!」
そしてオンオンと泣き叫ぶ鉱夫長ヒデオ。
相当荒れているね。
上空で翼だけを出して見回りをしてくれていたドランが僕の隣にやってくる。
「不敬罪でございます。消しましょう」
「待て、良い」
「ですが……」
「2度も言わせる気か?」
「かしこまりました」
ドランもいきなり物騒なんだから。
ほら見てよ。
ヒデオが腰を抜かしてるじゃん。
「ヒデオよ、現場まで案内せよ」
「あったぼうよ! ついてきな!」
ヒデオ、急に元気になったね。
もしかして、何とかしてくれると思ってる?
そりゃ無理だってー。
四天王で無理なら僕も無理。
だってまだレベル1だよ?
そして現場に到着。
崩落現場は坑道入口からすぐそこ。
「うむ」
これ無理。ちょっと叩いてみたけど、硬さが鉄とか岩のモノじゃない。
なんだろう、砂をギッチギチに固めたような感じに近い。
背中に視線が突き刺さる。
魔王ならなんとかなるでしょう的な視線だ。
このまま帰るつもりだったけど、そうはいかなくなった。
僕に何ができるって?
魔法は全ての属性が使えるけど、火魔法とかマッチだし、水魔法も飲み水出せるくらいだよ?
あとは錬金術だけど、まだ全然試してないんだよね。
あ、そうか。
ここで錬金術を試せば良いんだ。
そうすれば、何かやってる雰囲気は出せる。
「我はこれより術式の構築に入る。時間はかなり掛かるが、ノウンでも無理だったのだ。期待はするでないぞ?」
自信無さげに苦笑いしながら言ったら、ドランもヒデオもその他大勢の部下達も、
そんなに危ないことするつもりないのに。
まぁいいや。
まずは『錬金術』を起動する。
魔法は念じれば良いんだけど、錬金術は起動するとアプリみたいにモニターが出てくる。
簡単に説明するとやることは2つ。
①作りたい物の形を決める。例えばコップの形を作る。
②何で作りたいかを決める。例えば、ガラスのコップにするのか、鉄のコップにするのかだ。
ぶっちゃけ①は無しでも良い。
その場合、例えば金なら砂金かインゴットかで出てくる。その基準は僕の思い込みらしい。
材料は僕の周囲100メートルから、魔力で勝手に採取してくる。
逆に言えば、山のような金塊を作りたくても周囲に『金』という物質が無ければ作れない。
ちなみに、このことは『魔王の系譜』が教えてくれたよ。
という訳で、早速作る。
僕は魔王の仕事をちゃんとやっているとみんなに見せるため、爆弾を作ることにした。
危ないと思われるかもしれないが、そんなことはない。
なぜなら、僕のレベルは1である。魔力もそんなにない。
だから爆弾を作ったとしても、家族で遊ぶような花火程度の物しか作れないのだ。
魔王の系譜がそう言っていたので間違いない。
花火程度の爆発が起これば、何かやったアピールにもなる。
よって、モニターを見る。
「炭素と窒素と酸素はいっぱいあるけど、硫黄はほとんど無いか。黒色火薬が作れないぞ。うーん」
花火と言えば火薬のイメージだったけど、これじゃ線香花火も作れないな。
「爆発……うーん、ん? ダイナマイッ!」
僕は閃いた。
ニトログリセリンは硫黄なんて必要無いはずだ。
吸熱反応? 触媒?
そんなもの、魔力のおかげで何とでもなるんだよ。
ニトログリセリンは固形化するのにニトロセルロースが必要だったはず。
「C3H5N3O9がニトログリセリン、C3H5N3O9×3がニトロセルロースっと。よしよし、作れるね!」
あとはどこに設置するかだけど、よく見るとでっかい魔鉱石と壁の間に隙間がある。
ここから向こうに作れるだけ作ろう。
僕は2つの物質を設定して、出現場所を決め、作れる量を『魔力が尽きるまで』と設定した。
僕の魔力は100。
ちょっとした爆風が発生するくらいの爆発は期待しても良いよね?
決めた設定で実行ボタンをポチッとな。
一瞬、頭から血の気が引いてしまい、僕は数秒間意識を失っていたと思う。
思うと言うのは、僕は座って作業していたのだが、横に倒れかけた時に目を覚ましたからだ。
どれだけ長くとも1分は経っていないだろう。
僕は坑道から入ってすぐの場所にいるので、背中がみんなに丸見えになっている。
何かあればドランだって気付いてくれるはずだろうしね。
「ステータス・フルオープン」
ステータスが暗くてよく見えないが、僕の魔力が残り2なのは確認できた。
マッチ程度の火魔法を発動し、シャボン玉のような水魔法を発動させて火を包む。
それを魔石と壁の隙間から向こうへ飛ばす。
酸素がなくても燃え続けるから、魔法ってすごいよね。
僕はだるい足を引き摺りながら、ドランとヒデオ達の待つ場所へ向かう。
「いってぇ何されたんだぁ魔王様?」
恐怖で震えるヒデオに僕は言う。
「ふっ、余興にも満たぬ花火よ」
僕のちょっとしかない魔力でちゃんと爆発してくれるかな?
それが一番心配だよ。
それでも安全のため、念のために声をかけておく。
「ドランよ。防御魔法を全体に掛けよ。魔族的被害を出さぬためにな」
ちょっとした爆発が起きたとして、石が飛んできたら危ないもんね。
「かしこまりました。展開……無事に全ての者に掛け終わりました」
「では、起爆すーー」
「念のため完全龍化をーー」
「え?」
僕はドランの準備が整っていないのに指を鳴らしてしまった。
これでシャボン玉の水魔法が弾け、マッチの火魔法がニトロ爆弾に落下する。
そして、僕の視界は白に染まった。
音は何も聞こえない。
『暴音』の状態異常を無効化したからだ。
辺りが見える頃、そこにあったはずの山が消えた。
なんで? 僕の魔力100だよ?
代わりに歪な円形ではあるが直径数百メートルのクレーターが出来ていた。
どうしてこうなったの?
しかも、超でっかい魔鉱石が、空から20個くらい降ってくる。
完全龍化したドラン並にでっかい魔鉱石が、僕の目の前の地面に突き刺さるなり、綺麗に数十分割されて、使いやすい魔石となって山となった。
完全龍化したドランの翼が焼け落ち、気絶していた以外の被害は無かった。
「ドラン!? すぐに手当てを!」
僕は焦ったが、治れと念じて魔法を使ったら一瞬で治った。
回復魔法もレベル1のはずなのに?
ドランは人型に戻り、自分の身に何が起きたのか確認する。
そして、無言で僕を見た。
ドランだけじゃない。
ヒデオやその部下達もだ。
みんな揃ってシーンとしている。
僕が何かを言うのを待っているのだ。
そりゃそうだ。
何がどうあれ、これだけ盛大に『鉱夫達が働いていた魔鉱山を吹き飛ばす』なんてことをやらかしたのだ。
しかもドランには大怪我をさせてしまった。
言うべきことはきちんと言わなければならない。
まずはドランと同じように回復魔法を全体に掛ける。
「皆よ、すまなかった。少し試しただけのつもりだったが、思うような結果にならず残念だ」
ご迷惑をおかけしました。大変申し訳ございません。
あとは、今後についてだ。
「新たな鉱山が見つかるまで、ゆるりと休暇を取るが良い。幸い、魔石は大量だ。しばらくは困るまい。特別に金一封も出そう。ドラン、手配を。お前には直々に補償を与える。我にできることであれば、何でも申せ。分かったな?」
僕は思い付く限りの補償を提案する。
ドランにはもう出来ることなら何でもする。
治ったとは言え大怪我させたんだもん。
当然だよ。
ドランも、ヒデオやその部下達も、コクコクと頷いてくれた。
僕は早急に補償を用意するため、病み上がりではあるけどドランに頼み、魔王城へ帰ることにした。
飛び立った瞬間、ヒデオやその部下達がはしゃぎながら手を振ってくれたので、怒っている訳じゃないと知れて安心した。
また今度改めて、お詫びを兼ねて労いに来よう。
と言うか原因って何さ?
なんでこんな大爆発を起こしちゃったの?
僕は原因を探るため、まずはステータスを開いた。
「ステータス・フルオープン」
僕は見た。
「うぅわぁ」
一目見て驚愕し、そして理解した。
どうやら、錬金術で何かを生成する度に経験値が入るらしい。
そしてレベルアップすると魔力が全回復するらしい。
それを延々と繰り返していたみたいだ。
僕のレベルがヤバいことになっちゃった。
どうしよう?
僕は魔王城に帰るまで、一生懸命考えることにした。
ーーーー Norinαらくがき ーーーー
ジェイド:やってくれたな?
魔王の系譜:ウソは言っておりません
ジ:予測はついたであろう?
系譜:てへぺろ
ジ:いつか覚えていろ……
系譜:まだ序の口なんて本が裂けても言えません
ジ:(∩゚д゚)アーアーきこえなーい
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます