4-1四天王ドラン・ハミンゴボッチ【挿し絵あり】

 私はドランと申します。

 どうぞ、お見知りおきを。


 私は歴代魔王の世話役にして監視役。

 全ての魔王は、ただの四天王である私を恐れました。


『龍王』


 この称号と付随するスキルを知れば、ジェイド様ですら、例外では無いでしょう。


 今、私は魔王城敷地内の離宮にある魔王様専用の執務室の前でジェイド様を待っているところです。


 なぜなら、執事として傍にいる方が、よく見えますから。


 執務室に『龍の眼』を向けます。


 これは中々に陰湿ですな。

 手始めに、扉の持ち手には『発火』付与の罠。

 一歩踏み込めば、『幻痛雷槍』付与の罠が複数。

 トドメに、最奥部の椅子には『強酸毒』付与の罠。


 魔王様の執務室なのに罠だらけですな。


 発火はともかくとして、幻痛雷槍は全ての防御力を無視する強烈なダメージが入ります。

 私やミシェリーでも死にはしませんが、かなり痛みます。

 強酸毒は私の龍鱗でも溶けてしまうでしょう。


 誰がこんなものを用意したのか?


 見当は付きます。

 ですが、首謀者の他にも複数の協力者がいることでしょう。


 必要があれば手助けするつもりではいますが、ジェイド様のお手並み、拝見させていただきましょうぞ。


「おはようございます、ジェイド様。おや? お一人なのですね?」


 サキュバスの姫が一緒かと思いましたが見当違いでしたな。


「おはよう、ドラン。あぁ、そのようだが、お前がいてくれるなら問題無いだろう?」

「もったいないお言葉でございます」


 不敵に笑うジェイド様。

 このお方の考えは、まるで読めませぬな。


「そういうのは良い。ドラン、扉を開けよ」

「はっ、かしこまりました」


 これは想定の範囲内ですな。

 執事のような私がこの場にいる。ならば、私が扉を開けるのは自然な話。

 私の龍鱗に発火は効きません。


「ジェイド様、開きましたのでどうぞ」


 私は深い礼をして、ジェイド様に促します。

 さぁ、どう出ますかな?


「何を言う、ドランよ。お前が開けたのだ。お前から入れ。初めてなのでな、案内せよ」


 は?

 と、声を出さなかった私を褒めてやりたいと思います。

 ジェイド様は気付いておられるのか?

 この罠だらけの執務室を。


 いや、先ほど『お前がいてくれるなら問題無いだろう?』とは、つまり全てお見通しの上でと言うことですか。


「分かりました。わたくしめが、ご案内、させて、いただきましょう」


 執務室に一歩踏み入れれば、 その度に激痛に襲われます。


 ジェイド様は、私に全ての状態異常トラップを踏み抜けと、その目で訴えられております。


 私の防御力でさえ、この痛み。

 まだ問題ありませんが、強酸毒付与の椅子はどうしましょうか。


 今はまだ痛みを表に出さずに罠を踏んでいますが、この毒は私にも堪えます。


「なるほど、思いの外普通の執務室のようだな。ドランよ、ご苦労」


 しかし、ジェイド様は私を労い、私の前に出て顔色1つ変えず、幻想雷痛の罠を2つ踏み、強酸毒の椅子に腰掛けます。


 まるで罠が効いていないかのような佇まい。

 あんなに深く座ってしまえば、私ですら死が見えると言うのに。


 感服致しました。


 ジェイド様は、計り知れない力をお持ちのようですね。


「ドランよ、どのようになっている?」


「ど、どのように、とは?」


 私の不意を突く質問。

 いや、この罠だらけの執務室のことを考えれば当然のことでしょう。

 もしや、私が疑われているのでしょうか?

 遺憾ではありますが、致し方の無いこと。

 私もジェイド様を試したのですから。


 どのような処罰もお受け致します。


「ふふっ、今のは忘れよ。軍がどうなっているか? と言うことだ。戦線は下がっているな?」


 ジェイド様は笑って赦してくださいました。

 これは全てを悟られているとしか考えられない発言。

 とても寛大な御方です。

 私も応えましょう。


「はい、昨日の内に総司令ミシェリーの指揮の下、ギリやノウンと連携して撤退を始めております。そのため、本日は四天王の内3名が魔王城内にはおりませぬゆえ、何かあれば私に申し付けください」


 私のできることは限られておりますが、誠心誠意、お仕えしたいと思います。


「ワイバーン・モバイル・システムだったか? それを用いてミシェリー、ギリ、ノウン、そしてその周辺を映せ。我が姿や声は向こうに届かぬようにな」


 早速の御命令。

 なるほど、まずは私の言葉が真実かどうか確かめるのですね。

 ギリが心配なところですが、昨日の今日ですので、これ以上のことは無いでしょう。


「かしこまりました。それではこちらを」


 私が手をかざすと、四天王専属モニターと軍部専属モニターが表示されます。

 軍の再編に忙しいため、この程度の数しか用意できません。


「申し訳ありません。周囲に展開しているのはこの15名のみとなります。これで満足頂けましたか?」

「ドランよ、素晴らしい働きだ」

「恐悦至極にございます」


 不十分な働きにも関わらず有難い御言葉。

 隊列も乱れておりますな。

 後でノウンとミシェリーに言っておかねば。


「皆も良い働きをしているな。生産系はどうなっている?」

「魔鉱石の採掘や淫魔達の働きであればすぐにでも」

「それで良い。出せ」


 ジェイド様は軍部のみならず、生産部にも関心を持たれています。

 必要性を説明する前から、生産部の事を知ろうとされる魔王様は、私の知る限りジェイド様が初めてですな。


 計り知れぬ力を持ちながらこの慧眼。

 ステータスは歴代最弱のようですが、知略は歴代最強の魔王様となられるかもしれません。


 しかし、モニターできる場所は現在2ヶ所のみ。


 魔鉱石の採掘場は閑散としており、ところどころに見える鉱夫の顔色も良くありません。


 もう一方の淫魔達が、なぜこれ程まで精力的に働いているか若干気になりますが、魔鉱石の現場は何か手を打たねばなりません。

 今は軍部の再編が忙しいので中々に手が回りませんが。


「淫魔達は良くやっているようだが、魔鉱石の方は一体どうなっている?」


 当然、ジェイド様は気にされます。

 包み隠さず真実を伝えましょう。


「実は、昨日ジェイド様が顕現される直前に崩落事故がありました。崩落により採掘ルートが寸断されており、今現在稼働を停止しております」

「皆は無事か?」


 第一声が現場の心配。

 ジェイド様は魔王ではなく、魔神様なのではないでしょうか。


「被害は確認されておりません。ちょうど前魔王様の指令で全ての鉱夫が外に出ていたようです」

「それは不幸中の幸いだったな。それで、採掘ルートの確保はできないのか?」

「魔鉱石は大きければ大きい程、その硬度も増します。崩落したのは巨大な魔鉱石でして、誰も割ることが出来ないのです」

「ドラン、お前でさえもか?」


 期待されているようにも見えますが、さすがに応えられません。


「多少のヒビを入れる程度なら数日あれば可能かと。ただ、今朝方、私よりも力のあるノウンが赴きましたが、ヒビが入っただけで力を使い果たしたとのことでございます。軍の撤退任務もありますので、最低限の力は残していると思いますが」


「ノウン以外に対応できる者に心当たりは?」

「ございません」


 私よりもパワーのあるノウンでこの様ですので、もはや魔王軍の中に坑道をこじ開けられる者はおりません。


 別の採掘ルートを検討するのが最善でしょう。

 もっとも、都合良く別ルートが見つかるとは限りませんので……。


「では放置、もしくは放棄するしかないと?」

「現状ではそうなります」


 ジェイド様の仰る通りです。


「では、我が直に対応しよう」


「なんと!?」


 聞き間違いではありません。


 ジェイド様が直々に対応されると?


 この状況、何とかできると言うのですか?


「ドランよ、お前は『龍王』だったな?」


 ジェイド様はいったい何を?

 私はもちろん龍王でございます。


「は、はい」


 意図を計りかねて声が上擦ってしまいました。


「普段の移動は龍化して飛んでいるのだろう?」

「左様でございます」

「では、その背に我を乗せよ。現地までな」


 いや、ジェイド様、待ってください。

 私は『龍王』なのですよ?

 まだ誰からも聞かれていないのですか?


『龍王』は孤高にして至高の存在。


 ゆえに、『龍王』に触れればどのような者であっても『龍鱗』の状態異常ダメージを負うのです。


 魔王であっても例外ではありません。

 現に、今まで私が関わってきた歴代魔王は、誰もが1度私に触れた後、2度と触れることはありませんでした。


 むしろ私を遠ざけるようにしておいででした。


 そうして、私は常に独り。


 この度の軍の再編も、私は遠隔より支援をするための、ただの予備。


 あわよくばと、ジェイド様のお傍で仕えようと思っておりましたが、浅ましいですね。


 ジェイド様が顕現された昨日の今日で、私の特性など、まだ耳にしておられなくて当然なのに、私は隙を突き込むように……うぅ。


「その背に誰かを乗せてはいけぬ掟でもあったか?」

「いえ、そう言う訳ではありませんが……」


 少し覚悟をする時間をください。

 私は、明日からまた独りなのですから。


 ……覚悟は決まりました。


 全てをお話しましょう。


「その、私に触れると……」

「ん?」


 ふぁぁぁあ!!!??


 ジェイド様が私に触れておられるうぅう!?


 あれ?


 無事なのですか?


 何とも無いのですか!?


 ジェイド様は、にこやかに笑っておられました。


「ドラン、大丈夫だ。我ならば、問題無い」


 ジェイド様は、何度も私に触れますが、何とも無いようです。


 私は声にならない声を出していました。


 もはや、叶わぬと思っていました。


 触れてもらえました。


 拒絶されませんでした。


 嗚呼、ジェイド様。

 あなたの手は、こんなにも暖かいのですね。


 私は頬を伝う暖かいモノを感じ、無礼と知りながらも背を向けました。


 そして龍化しました。


 数十年ぶりに完全龍化させていただきます。

 普段は翼だけの部分龍化で十分ですので。


 私の名前は『銀龍王ドラン・ハミンゴボッチ』。


 これより、夢にまで見た『魔王様を背に乗せての飛翔』を開始します。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

ドラン・ハミンゴボッチ

ハミンゴ……ボッチ……(´;ω;`)ウッ

龍種ゆえのつらたん生を送る御老体。

若者よりは、よく働きますがね。

イメージ:オ○ロのセ○ス


R5/7/9挿絵追加

https://kakuyomu.jp/users/NorinAlpha/news/16817330660070495963

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