4-0魔王様、初仕事を決める
ここは魔王の執務室。
寝坊したと思われたくないので急いで来たのだが、それは顔や態度には出さない。
僕は社長が座るような黒い革張り椅子に、余裕を持って座っている。
座り心地は良いけれど、仕事はやりにくそうだ。
それでも僕は魔王っぽく仕事をしなければならない。
そうしないと部下に示しが付かないからね。
「ドランよ、どのようになっている?」
早速、目の前に立つドランに軍の進捗状況を聞いてみる。
なぜドランが執務室にいるのか?
執務室の前にドランがいたからだ。
執務室の扉がごっつい感じで開け方が分からなかったので、教えてもらった。
頑張れば1人でも開けられそうだったが、ドランとも仲良くなりたいからね。
招待する感じで先に入ってもらっちゃった。
ドランはそれで喜んでくれたみたいだ。
震える程喜んでくれるなんて、もう仲良くなったってことで良いよね?
「ど、どのように、とは?」
「ふふっ」
おっとごめんごめん、主語が抜けていた。
思わず失笑。
今の忘れてくれないかな?
「今のは忘れよ。軍がどうなっているか? と言うことだ。戦線は下がっているな?」
「はい、昨日の内に総司令ミシェリーの指揮の下、ギリやノウンと連携して撤退を始めております。そのため、本日は四天王の内3名が魔王城内にはおりませぬゆえ、何かあれば私に申し付けください」
執事っぽいから僕のお世話担当ってことかな?
テンテンが後ろにいると思ったらいなくなっていて寂しかったからね。
心強いよ。
せっかくだから、色々聞いて僕の仕事のヒントを探そう。
あ、そうだ。
「ワイバーン・モバイル・システムだったか? それを用いてミシェリー、ギリ、ノウン、そしてその周辺を映せ。我が姿や声は向こうに届かぬようにな」
まずは参考までに、みんながどんな感じで働いているか見せてもらおう。邪魔はしないようにね。
「かしこまりました。それではこちらを」
ドランが手をかざすと、僕の前に横並びに3つ、その周囲に12台のモニターが表示される。
15台のマルチディスプレイ。これは死ぬ前の世界でも出来っこないね。
「申し訳ありません。周囲に展開しているのはこの15名のみとなります。これで満足頂けましたか?」
「ドランよ、素晴らしい働きだ」
「恐悦至極にございます」
僕の目の前のモニターには檄を飛ばすミシェリーが映っている。
カッコいいじゃん。
他のみんなもカッコいいよ。
一糸乱れぬとまではいかないけれど、隊列も行軍速度も悪くない。むしろ良い。
うん、僕が頑張る必要無いねコレ。
軍事関連は四天王に丸投げっと。
生産系はどうなっているのかな?
「皆も良い働きをしているな。生産系はどうなっている?」
「魔鉱石の採掘や淫魔達の働きであればすぐにでも」
「それで良い。出せ」
魔鉱石って言うのは、魔石のでっかいバージョンね。
生産系は他にも魔肉の畜産、魔植物の栽培、魔海の漁がある。
今回は2つだけ。
しかし、その2つは対称的だった。
魔鉱石の採掘場は閑散としており、ところどころに見える鉱夫の顔色も良くない。
逆にサキュバスとインキュバスは一緒になって色んな者達の魔力を吸い上げ、空になった魔石に次々と魔力を補充している。
喜々として働く姿が印象的だ。
どこに行ったかと思えば、テンテンがそこにいた。姫だもんね。自分の仕事もあるよね。がんばれテンテン。
「淫魔達は良くやっているようだが、魔鉱石の方は一体どうなっている?」
ドランは残念そうに答えた。
「実は、昨日ジェイド様が顕現される直前に崩落事故がありました。崩落により採掘ルートが寸断されており、今現在稼働を停止しております」
「皆は無事か?」
「被害は確認されておりません。ちょうど前魔王様の指令で全ての鉱夫が外に出ていたようです」
「それは不幸中の幸いだったな。それで、採掘ルートの確保はできないのか?」
「魔鉱石は大きければ大きい程、その硬度も増します。崩落したのは巨大な魔鉱石でして、誰も割ることが出来ないのです」
「ドラン、お前でさえもか?」
「多少のヒビを入れる程度なら数日あれば可能かと。ただ、今朝方、私よりも力のあるノウンが赴きましたが、ヒビが入っただけで力を使い果たしたとのことでございます。軍の撤退任務もありますので、最低限の力は残していると思いますが」
四天王でさえも砕けない魔鉱石ってやばいよね。
魔鉱石って、大きいと魔法攻撃も無効化されるんだってさ。
今まではどうやって採掘していたかと言うと、魔鉱石じゃない部分を叩き割って採掘していた。
大きさの丁度良い魔鉱石が採れる山は貴重だ。採掘ができる山は非常に少ない。
なぜなら、魔鉱石と土や岩が良い具合に混ざり合っている山なんてほとんどないからだ。
魔鉱石ばかりの山では採掘が困難だし、魔鉱石が少ない山ではそもそも採掘する意味がない。
ばかでかいらしい魔鉱石から魔力を直接取り出す手立ても考えられているが、大きいままだと魔力放出量が少ないばかりか、逆に魔力を吸いとられて危険なのだとか。
だからヒビを入れられるだけでも凄いことらしい。
ノウンって見た目とは違ってパワータイプなんだね。
「ノウン以外に対応できる者に心当たりは?」
「ございません」
「では放置、もしくは放棄するしかないと?」
「現状ではそうなります」
ノウンに任せっきりにすると今度は四天王の業務に差し支えるもんな。
「では、我が直に対応しよう」
僕の魔王としての初仕事が決まった。
「なんと!?」
いやそんなに驚かなくても。
どうせ放っておくしかないんでしょ?
視察くらい良いじゃん。
でもどうやって行こうかな。
風魔法使えるけれど、まだ空を飛べる程じゃないし。
あ、そうだ。
「ドランよ、お前は『龍王』だったな?」
「は、はい」
「普段の移動は龍化して飛んでいるのだろう?」
「左様でございます」
「では、その背に我を乗せよ。現地までな」
「…………」
ドランが口を開けてフリーズしている。
何か変なこと言った?
「その背に誰かを乗せてはいけぬ掟でもあったか?」
宗教上の問題かな? そうだったら悪いことしたなぁ。
「いえ、そう言う訳ではありませんが……」
やったぁ! 龍騎士ごっこができるぞぉ!
「その、私に触れると……」
「ん?」
僕はテンションが上がり過ぎてドランの手を取ってしまっていたのだが、触れると何かあるのだろうか?
特に何も感じない。
龍族という事で皮膚が硬い気もするが、角を生やしたり額に宝石が埋め込まれている者もいる中で、その程度気にすることも無いだろう。
もしかして、そーゆーの気にするタイプなのかな?
「ドラン、大丈夫だ。我ならば、問題無い」
「あ……あ……」
ドランは声にならない声を出していた。
やっぱり気にしてたんだなー。ゴメンよ、デリカシー無くて。
魔族社会をもっと勉強しないとな。
ドランは突然、背を向けて龍化した。
でっかい銀色のドラゴンだ。
どれくらいでかいかって?
魔王の執務室の天井があった場所がドランの膝くらいだったよ。
20メートルはあるんじゃないかな?
吹き抜けになった魔王の執務室で優雅に佇む銀龍ドラン。
僕は銀龍ドランの背に乗って、初仕事へ出発した。
ーーーー Norinαらくがき ーーーー
魔王就任2日目にして、ようやく初仕事。
魔王軍、魔王様がいなくても、自給自足できております(辛うじて)
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