1-1四天王ミシェリー・ヒート【挿し絵あり】
ウチの名前はミシェリー・ヒート。
魔王軍四天王が1人や。
こー見えて前魔王、バウアー様の右腕として活躍しとったんやで。
ウチが仕えるよーになって四代目の魔王様で、総司令と言う立派な役職をもろーとったんやけど、バウアー様が突然亡くなってもーた今、ウチの立場も危ういんや。
これからどうなるんやろ。
左遷されても良えんやけど、ウチ、人見知りやからなぁ。できれば独りで黙々とできる仕事が良ぇわ。
誰かと一緒やと、うっかり素でお喋りしてまうんや。
この訛り、誰かに聞かれるんの恥ずかしいんやもん。
魔王生誕の儀が始まりおった。
四天王は玉座の間に集まり、ウチらの姿の再形成が終わるんや。
これでどないなタイプの魔王か分かるんやで。出来れば可愛い姿が良ぇなぁ。
あらぁ、限りなくゆーか、ほとんど人間やん。
見た目が可愛いのは良ぇんやけど、魔王様も人間ってことやん? 弱々しい人間が魔王になれるんかいな?
「我々の取り決め、覚えているな?」
黒髪長髪の腹黒イケメンになってもーた謀略の大魔導師ギリ・ウーラ。
「もちろんでございます。ほっほっほ」
老執事になってもーた孤高の最強龍族ドラン・ハミンゴボッチ。
「弱い魔王なら殺す。だよなっ? 忘れそうだからまた声かけてくれよっ」
頭の悪そうな雌ガキになりよった不屈の最強拳闘士ノウン・マッソー。
「ええ、まずは『魔王の系譜』を読ませてからね」
そしてウチ、不滅の焔帝ミシェリー・ヒートが、新たなる魔王を見極めたる。
そうして新しい魔王は顕現しよった。
見た目は少年やな。
何ちゅうか、ひ弱やん。
せやけど、見た目だけで判断できへん。
魔王の両サイドにサキュバス姫、インキュバス王子を置いとるから、まずはテンプテーションゆう魅惑魔法をかけてもらおーかな。
男やから、メインはサキュバス姫やんな。インキュバスも必要かもしれへんから待機や。
「テンプテーション」
あらー? 反応あらへん。
テンプテーション掛かっとるはずやろ。
『魔王の系譜』を読まんと、新たな魔王はこの世界の理に組み込まれへん。
つまり、魔法も使えへんし耐性も付かへん。種族によっては、すぐ読まんと死んでまうこともあるんや。
せやなのに、テンプテーションが効かへん。
「テンプテーション」
「テンプテーション」
「テンプテーション」
「テンプテーション」
うぅわぁ、四重掛けやん。
龍族で魔法耐性の高いドランでも、危ういやんな?
「並のサキュバスでは問題ありませぬが、姫のテンプテーションではやられかねませんな」
だそうやで。
「テンプテ……テン……テン」
そうこうしとる内に、姫の心が折れそうになっとる。
なるほどなぁ、この魔王、男好きなんやな。
良ぇ趣味やで。
すかさずインキュバスにテンプテーションを掛けさせよった。
バッチリ決まったと言わんばかりのポージングやけど、あれって意味あるんやろか?
「お前、我に腰巻きを」
「!? ハハァ!」
驚いたんはインキュバスだけやない。
ウチら四天王も同じや。
まだ『魔王の系譜』に手ぇかけてすらないんやで。
せやのに、インキュバスのテンプテーションも効かへん。
この魔王様、一体何者や?
「今、我が魔王国の版図はどうなっている?」
新たな魔王様の一声に、ギリが冷静を装いつつ進言しよる。
「ま、魔王様。まずは『魔王の系譜』をご覧に……」
「我が名はジェイド。ジェイド・フューチャー。その名をしかと魂に刻め。新たなる魔王の名。お前達の新たなる主よ。『魔王の系譜』は後で良い。先にやるべきことをやる」
先にやることやて?
人類軍との戦争っちゅー意味かいな?
いや、それは正しいんやけど、前魔王バウアー様の強行軍のせいで兵は疲弊しとるし、士気は最悪や。
こないな状態で戦争の続行は厳しいわ。
いや、まずは軍の現状を知ってもらわへんとな。
「分かりましたジェイド様。ではこちらを」
ウチはすぐに魔法でモニターを作った。
出来れば褒賞用の資産や食料である魔石の残量も気にしてもろたらええんやけど。
「現状は理解した。1年前、2年前と順に10年前まで出せ。資産と兵站もだ」
「はっ! こちらでございます」
この魔王、いや、ジェイド様有能やん。
お仕えしてもええんやないかな。
いや、ほぼお仕えしてもええんやないかなに言い直しとこ。
少なくとも敬うべきお方なんは間違いあらへん。
この現状を打破してくれるんなら、喜んで身も心も……でへへ。
仕事以外やと極度の人見知りやから、時間は掛かるけどな。
「今すぐ、全世界に我が姿を映すことはできるな?」
「ジェイド様……いったい何を? いえ、失礼しました。わたくしの力で可能です」
何を? と思ぉたけど、ジェイド様とドランに任せとこ。
ドランの部下、ワイバーン達を介した通信魔法、『ワイバーン・モバイル・システム』。それが起動されたようやな。
「相手は人類軍の、王だ。その様子を全世界にも映せ」
「かしこまりました」
いきなり敵のど真ん中へ!?
ドランはすかさず返答しよるけど、額に脂汗が滲んどるわ。
それでもドランは命を成す。
立派やわ。
程なく、モニターには憎きネンキーン65世が映し出されよった。
慌てふためく姿が滑稽やな。
これだけでも映す価値はあったなぁ。
「貴様、無礼であるぞ! 我を誰と心得る!? ネンキーン王国が国王、ロゥガーイ・ネンキーン65世であるぞ!」
「無礼であったか? 顕現したばかりでこのような姿だが、いの一番に声を掛けてやったのだ。光栄に思え。我が名はジェイド・フューチャー。新たなる魔王である。此度は停戦を申し込みに来た」
無礼はどっちやねんとおもーたけど、ジェイド様の発言には四天王揃って白目を剥きかけてもーた。
「なん……じゃと!?」
ウチらも同じ気持ちや。
まぁこの話は無い訳やない。
停戦が疲弊と士気の回復に最も効果があるんやもん。
せやけど、双方の利益があらへんと停戦は有り得へん。向こうに利益なんて出す訳にはいかへん。
それやのに、どないやって……。
「そちらにも益のある停戦だぞ? 詳細を詰めるとややこしくなる。今回は簡潔なモノよ。魔王軍は今現在の侵攻を止め、おおよそ100km戦線引き下げる。以降、村にも町にも王国にも、軍勢を率いて攻め入ることはせん。もし仮に攻め入ることがあれば、魔王軍が直々に殲滅する」
「はぁ!?」
ウチらも同じセリフやで!
せっかく獲得した領土をむざむざ返すやて!?
「但し、引き下げた防衛線から魔王領に入れば問答無用になぶり殺す」
「なっ!?」
え? ちょい待ちぃや! ジェイド様!?
「下げる戦線の細かい場所はこちらで勝手に決めさせてもらうが、停戦の期間はそちらが決めて良い。魔王、ジェイド・フューチャーの名の下に、貴様らの提示する期間、今言った事案は確実に履行される。もっとも、無限にしても構わぬが、我が存命する期間の保証しかできぬぞ?」
魔王の名の下に!?
魂の契約を!?
こないなことに!?
ネンキーン王の後ろに家臣達が慌ただしくやってきて、あれやこれやと言っているが、言いたいのはウチらも一緒や。
「あかん、ジェイド様、1回しばいたる」
「ミシェリー、素が出ているぞ。落ち着け。ジェイド様の手腕、今ここで見極めようではないか?」
ウチとしたことが素が出てもうた。
勢い無くなってギリに止められてまう。
せやけど、ギリは笑っとった。
こいつが笑う時は危険な時や。
バウアー様も、ギリが笑った後に亡くなってもーた。
その前の魔王様も、その前もや。
せやけど、ジェイド様が聡明なんは、この短い間でよぉ分かった。
それなら、ギリの言う通り、見定めたろ。
ダメなら殺せば良ぇもんな。
「い、今すぐには決められん」
「今決めろ。決めねば話は無しだ。今決めぬのなら、即座に侵攻を開始し、我が魔王の力をも存分に振るって真っ先にネンキーン王国を撃滅する。我が力、まだ試してはおらぬが、感じるぞ? 前魔王を凌ぐ、強力な何かを」
ジェイド様の言葉に、ネンキーン王国の者だけやなく、ウチも凍り付いたわ。
ギリ然り、ドラン然り、全く話についてこれずアホな顔をしていたノウン然り、当然ウチもや。
前勇者共を戦場であっという間に亡き者にしよった史上最強の魔王と言われたバウアー様をも凌ぐ強力な力を感じとる?
魔王の系譜にも触れていない状況やで?
おぞまし過ぎるやろ。
いや、ハッタリの可能性も、否定できへんな。
停戦期間は即座に『現魔王が健在の限り無限』言われたよーやけど、それを気にする者はここにはおらへん。
それよりも、『魔王の系譜』にようやっと手をかけたジェイド様が仰られた言葉。
「所詮は、『まやかしの停戦』よ」
眠りにつかれる寸前の、『停戦』の真意を知り、ウチの反逆の意志は殺されたわ。
ーーーー Norinαらくがき ーーーー
ミシェリー・ヒート 人見知り
不徳の某漫画キャラと1文字違いでビビってる。
ミ:大丈夫や。どうせ見られへん。
イメージ:赤髪ロングの完全無欠に見えて隙だらけの生徒会長。
脳内CV:○笠さん。
2023/7/4挿絵公開(近況ノートに飛びます)
https://kakuyomu.jp/users/NorinAlpha/news/16817330659814134489
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