第一章 魔王、降臨

1-0魔王様、目が覚める【挿し絵あり】

 まどろんだ夢の中にいた。

 ふわふわしたような、心地良い夢。


「選考結果、貴方は魔王へと転生します」


 抑揚のない機械音声が語りかけてくる。


 それはどういうこと?


 僕は声を発したつもりだが、出なかった。


 しかし、想うだけで伝わるようだ。


「詳細は、目覚めた後に、『魔王の系譜』をご覧下さい。間もなく『魔王覚醒の儀』が完了します」


 なるほど、了解した。

 よく分からないけれど、『魔王の系譜』を見れば良いとだけ理解した。


 すると突然、視界が晴れた。


 僕は、階段があって少し高い位置にあるゴージャス椅子に座っていた。


 素っ裸で。


 足を組んでいるから大事なところは見えていない。

 もぞもぞと動いて完全に隠す。


 そう、隠さねばならない。

 だって見ているのだ。

 階段の下の方で、片膝を付きながらも顔を上げて、こちらを見る男女男女の4名が。


「テンプテーション」


 いや、僕の右側に角を生やした女がいた。

 左側にも男がいる。女は丸い角が2本だが、男は1本の短い角が生えている。


 先ほど、目覚めた後でうんたらかんたらと言われたが、これは夢の続きに違いない。


 魔王とか言う単語が出てきた時点で夢に決まっている。


 僕は病弱で幼い頃から入院生活を送っていたが、まだ死ぬような状況にはなかったはずだ。

 癌の転移が見つかったと言われたが、余命は1年あったはず。

 病院に最新のパソコンを入れてもらって、遊び尽くして死ぬと言う僕の願いを叶えてもらう直前だったはずだ。


 そう、つまり、これは夢。


 魔王になる夢か。


 じゃあ、夢が覚めるまで楽しもうかな。

 なんだかテンション上がってきたし。


「テンプテ……テン……テン」


 右にいる女がなぜか泣きそうだ。

 可哀想だから左で変なマッスルポーズを決めている男に言おう。


「お前、我に腰巻きを」

「!? ハハァ!」


 すごく驚かれてしまったが、すぐに命令を聞いてくれた。

 魔法みたいにパァって光ったと思ったら、真っ黒なバスタオルが僕の腰に巻き付いた。


 これで一安心。


 僕は立ち上がって早速命令を出す。

 まずは状況確認だ。


「今、我が魔王国の版図はどうなっている?」


 僕の一声に、階段下の髪が長くてローブ姿の男が口を開く。


「ま、魔王様。まずは『魔王の系譜』をご覧に……」


 ほほぅ、魔王である僕に口答えとはいい度胸だ。

 しかし、いちいち目くじらは立てない。

 だって夢だし。


「我が名はジェイド。ジェイド・フューチャー」


 僕の名前は門音未来かどねみく


 門+音で闇。だからジェイド・フューチャー。

 厨二レベル高いけど、魔王の夢ならこれくらいはしなくっちゃ。


 そもそも僕が考えた名前じゃないし、闇ってジェイドじゃないし、じゃあ何なの? ってなるかもしれないけど、とりあえず闇=ジェイドで良いんだって。


「その名をしかと魂に刻め。新たなる魔王の名。お前達の新たなる主よ。『魔王の系譜』は後で良い。先にやるべきことをやる」


 『魔王の系譜』を読んだら目が覚めちゃいそうな気がする。

 せっかくのいい気分を台無しにしたくない。


「分かりましたジェイド様。ではこちらを」


 階段下の赤髪の女が魔法でモニターを形成する。


 その世界地図には赤色魔王軍が青色人類軍を押し込んでいた。


 圧倒的じゃないか我が軍は。


 しかし浮かれてはいけない。

 昂る気持ちを頑張って押さえる。


「現状は理解した。1年前、2年前と順に10年前まで出せ。資産と兵站もだ」

「はっ! こちらでございます」


 うーわぁ、浮かれなくて良かった。

 8、9、10年前までは世界の半分が真っ赤。そこから破竹の勢いで押し込んでいる。

 この手のゲームはやりこんでいるからそれなりに分かる。


 ここ5年はやり過ぎ。


 何がって?

 魔王軍資産の減り具合がひどい。軍を運用する資金用の魔石と兵站用の魔石がもう無いよ。


 その場は良くても、後が続かなくていきなり滅亡とかザラにあるんだけど、今が正にそれ。

 ざっと見た限り、戦線の維持はもって2ヶ月だろう。

 手を打たなければゲームオーバーだ。

 できることは限られているけど、まだある。


「今すぐ、全世界に我が姿を映すことはできるな?」

「ジェイド様……いったい何を? いえ、失礼しました。わたくしの力で可能です」


 階段下の老執事みたいな男に一睨み。

 物分かりが良くてヨロシイ。


「相手は人類軍の、王だ。その様子を全世界にも映せ」

「かしこまりました」


 するとすぐに目の前にモニターが現れる。


 モニターには白髪白髭の太っちょ王様の挙動不審な姿が映し出されていた。

 王国の空にもモニターが映っているからだろうな。


「貴様、無礼であるぞ! 我を誰と心得る!? ネンキーン王国が国王、ロゥガーイ・ネンキーン65世であるぞ!」


 言い方はアレだが、自己紹介してくれた以上、こちらもやるのが筋と言うもの。

 僕は無い襟を正し、魔王らしく自己紹介する。


「無礼であったか? 顕現したばかりでこのような姿だが、いの一番に声を掛けてやったのだ。光栄に思え。我が名はジェイド・フューチャー。新たなる魔王である。此度は停戦を申し込みに来た」


「なん……じゃと!?」


「そちらにも益のある停戦だぞ? 詳細を詰めるとややこしくなる。今回は簡潔なモノよ。魔王軍は今現在の侵攻を止め、おおよそ100km戦線引き下げる。以降、村にも町にも王国にも、軍勢を率いて攻め入ることはせん。もし仮に攻め入ることがあれば、魔王軍が直々に殲滅する」


「はぁ!?」


「但し、引き下げた防衛線から魔王領に入れば問答無用になぶり殺す」


「なっ!?」


「下げる戦線の細かい場所はこちらで勝手に決めさせてもらうが、停戦の期間はそちらが決めて良い。魔王、ジェイド・フューチャーの名の下に、貴様らの提示する期間、今言った事案は確実に履行される。もっとも、無限にしても構わぬが、我が存命する期間の保証しかできぬぞ?」


 王様の後ろに家臣達が慌ただしくやってきて、あれやこれやと言っている。

 煩わしい。

 でも、とても気分が良い。


 僕が1つ声を出せば、それだけで人々が踊る。


 2つ声を出せば転がる。


 実に魔王な気分だよ。


「い、今すぐには決められん」

「今決めろ。決めねば話は無しだ。今決めぬのなら、即座に侵攻を開始し、我が魔王の力をも存分に奮って真っ先にネンキーン王国を撃滅する。我が力、まだ試してはおらぬが、感じるぞ? 前魔王を凌ぐ、強力な何かを」


 テキトーなこと言っちゃったけど、僕の言葉にモニターの向こうは凍りついた。


 これが決め手だったらしい。


 停戦期間は即座に『現魔王が健在の限り無限』と言われたが、魔王に二言は無い。

 僕は王様の言ったことを了承し、全世界に、魔王軍、人類軍を含めて『まやかしの停戦』を発布した。


 そして一仕事終えた僕は、ようやく『魔王の系譜』を読む。


 そうして、この世界の現状と、歴代魔王がやってきた数々の業績を知り、この世界が夢じゃないと知ってしまった。


 僕が史上最弱の魔王と知るのは、もうちょっと先のお話。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

挿し絵公開

主人公ジェイド・フューチャー

https://kakuyomu.jp/users/NorinAlpha/news/16817330658844764018

近況ノートに飛びます。


ジェイド=闇

なぜ?

○ークフォース! ○ークフォース! ○ークフォース! クルミ! ○ークフォース! ○ークフォース! ○ークフォース! 以下ry

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