第3話 アウト!! ついで  (8月29日)

 昨日も行ったのにまた来てしまった。

 何となく店の中を覗くと奥のカウンターにはおじさんが一人で座っている。


 表を二~三回ウロウロしてから意を決して店内に入る。

 文庫本の棚を見て回る。

 角川文庫の金田一耕助シリーズがずらりと並べられているので、一冊手に取ってサッと目を通す。

 ”悪魔の手毬唄” 映画見たしなあ。オニコウベオリンの出てくる奴だよなあ。

 ”獄門島”は、今映画館でやってるやつだったかな。たしか岸田が読んでたから今度貸してもらおう。


 それよりSFだ。

 創元社文庫もハヤカワSF文庫も少ないなあ。持ってない本は…。

 有った! ”デューン/砂漠の救世主”。

 章太郎の挿絵が凝ってるんだよな。点描でさあ…。

 文庫本を手に取るとレジに行きお金を払いながらそれとなく声をかける。

「えっと、ハヤカワ文庫の”大宇宙の魔女”って本有りますか? ないですか…。それから、あの…。茜さんはいますか?」


 茜のお父さんは笑いながら文庫本にカバーをかけてくれて、茜を呼んでくれた。

「あっ、片桐君来たんだ」

「オッス」

「おい、茜。それじゃあ店番頼むわ。父さんチョット出てくるわ」

「ねえチョット! パチンコじゃないでしょうね。さっさと帰ってきてよ!」

 茜のお父さんは表に出るとタバコを咥えて、ブックマッチで火を付けると歩いてどこかへ言ってしまった。


「もう、本当に。直ぐにああして出ていっちゃうんだから」

「なんか、ゴメン」

「片桐君のせいじゃないから気にしないで…。何買ってくれたの?」

「デューン」

「えっ? 漫画じゃないのよね。その表紙は仮面ライダーの?」

「うん、石森章太郎。このシリーズは挿絵も表紙全部、石森章太郎だぜ」

 そう言って ”砂の惑星” 三部作を指差すと茜は手にとってパラパラとめくった。


「私は少年漫画はあまり…小コミとか別マとかかな。モー様やドジ様が…萩尾望都とか竹宮惠子とか知らない? SFも描いてるわよ」

「うーん? SFなら読んでみてもいいけど」

「別マのポーの一族はどう? ほら、今少年チャンピオンに連載してる人」

「あっ、百億の昼と千億の夜のひとか。なら読んでみようかな」

「明日、持ってる本貸してあげるわ。面白かったら続きは買ってね」


「チャッカリしてるなあ。それじゃあハヤカワSF文庫増やしてくれ。お前は小説は読まないのかよ?」

「読まないことはないけれど、そのデューンみたいな分厚いのは勘弁だわ」

「それじゃあ、N・W・スミスシリーズを入れてくれよ。短編集だし、挿絵と表紙は松本零士だぜ。俺そのシリーズ”異次元の女王”しか持ってないんだ。何冊かシリーズが有るはずなんだよ」

「待って、カタログを見てあげる」


 そう言って分厚いカタログを調べてゆく。

「大宇宙の魔女と暗黒界の妖精、同じ作者で暗黒神のくちづけって本も出てる」

「じゃあ、注文してよ。読むなら貸すし」

「わかった。発注しておくわ。それじゃあ、明日の約束も忘れないで」


 文庫本三冊も注文してしまった。

 結構な散財だよなあ…あっ!

 多分、注文した小説って、俺の持ってる異次元の魔女と同じ装丁だったらまた女のヌードシーンじゃないかな。

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