第2話 アウト!! おかわり (8月28日)

「ねえ、どうしてそのページを抑えているの?」

「いや、何でもないよ。せっかくのグラビアが変に皺になるのが嫌だから…」

 俺が応えると彼女はけげんな表情を浮かべて言った。


「別に汚したりしないわよ。それってヤマトのグラビアでしょ。見せてよ。くれなんて言わないから。わたしが欲しがると思って警戒してるんだろうけど大丈夫だよ~」

 そんな事じゃあないんだ。

 別にこのグラビアを変な事に使ったとかそんな事も無いし…、ただちょと気恥ずかしいだけなんだよな。


 今日八月二十八日は日曜日なので書店は休みだった。

 家に上がらせて貰って月刊〇UT!の創刊号から八月号までを畳に並べている。

 そして六月号のグラビアページを抑えているおれの手を彼女がペシペシと叩く。


「ねえったら」

「わっ分かったよ。ほら」

 そう言ってグラビアを開くとヤマトのワープシーンのグラビアが広がった。

 そう、森雪の服が無くなって画像がズレて行くあのシーンだ。


「えっ?!」

 彼女は驚きの声を上げた後、意味深な笑みを浮かべ俺の顔を見る。

「違うぞ! 違うからな! 別に深い意味は無いんだからな」

「どうだか。別に私は黙っていてあげるし、良いんだけどね」

「何だよ。俺の名前も知らねえくせに」


「そう言えばそうだったね。わたしも学校は言ったけど名前は言って無かったね。河本茜っていうんだ」

「えっ、苗字は”あかしや”じゃなかったの? 看板にアカシヤ書店って描いてあるのに」

「ナニよ、明石家って落語家みたいじゃない。書店名はアカシアの木からお爺さんがつけたんだって、育った満州のアカシア並木を思い出して。昔の人だからアカシヤって発音してたんだね」

「そうか。俺は片桐省吾、昨日も言ったけど家は隣町だ」


「それで南高だったよね。南高の片桐君は森雪のヌードグラビア見て喜んでます!」

「止めろよ! それより約束の九月号売ってくれよ」

「えっ…ええ、約束だもんね…」

「なんだよ。煮え切らないなあ」

「うん、特集記事が凄くってね。わたしも欲しくて父さんに在庫無いか依頼して貰ってるんだけど…」

「約束だからな。俺創刊から買ってるんだから…。良いよ! 分かったよ、それじゃあ明後日迄貸してくれよ、古いのを貸すから。その代わり新しいのが入ったらそっちは俺が買うからな」

「うん、ありがとう。エッチな事に使っちゃダメだからね」

「使うかよ! バカ!」


 そしてしばらくは二人でヤマト特集の記事を読んで書店を後にした。

 明後日は借りた九月号をあいつに返しに行かなけりゃあ。

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