アウト!!
ヌリカベ
第1話 アウト!! (8月27日)
いつもは高校の最寄り駅近くの大きな書店で買うのだが、夏休みで定期券も更新していない。
わざわざ月刊雑誌を買うために電車賃を払っていつもの書店に行くは、カネのない高校生としては出来ない相談だ。
8月号はまだ定期が残っていたので7月末に買いに行くことが出来たが、9月号が手に入らない。
近所の書店を回るがあんなマイナーな雑誌は、どこにも置いていなかった。
こんな事になるなら先月末にどこかの書店に注文しておくべきだった。発売日に成ってしまっては、注文しても9月号は手に入らないかもしれない。
月明けを待っていつもの書店に行ってももう売り切れているだろう。
悔しい思いを噛み締めながら自転車であちこちの書店を回る。
4月に創刊してから毎号買ってるんだ。
8月号はまた宇宙戦艦ヤマトの特集号だった。今までアニメの記事を取り上げてくれる雑誌なんてなかったから今月号も期待してるんだがな。
そう思いながらいつの間にか隣の駅まで来てしまっていた。
汗だくになりながら自転車を漕いで4キロ以上走ってきていた。本屋を探してウロウロしていたから実際はその倍近く走っていたのだろう。
滴り落ちる汗を前かごのカバンに突っ込んでいたタオルで拭う。
喉が渇いてカラカラだ。駅の水道で水でもと思ったが、人が見ているので恥ずかしい。思い切って売店に行きコーラの自動販売機に虎の子の百円玉を入れると扉を開く。
そしてよく冷えたコーラの瓶を引く抜く。栓を開ける前に額や頬に当てて冷たさを味わってから栓抜きにかけて線を抜いた。
顔や首に当てて揺らしていたものだから吹き出した泡を大急ぎで啜った。
ヤッパ、コーラはウメー!
クラスの奴らは缶コーヒーが良いとか言ってるがコーラ一択だろう。
そんな事を考えながら駅前を見回すと通りの角に本屋の看板が見えた。
急いでコーラを飲み干して瓶をケースに突っ込むと本屋に向かう。
置いてるかなぁー? ヤッパ無理なんじゃねえかなあ。
そんなことを思いながら店の中に入る。日差しが無い分、店内は少し涼しい。
「すみません。ちょっと聞きたいんですけど」
俺の問いかけに扇風機に当たりながらレジでなにか本を読んでいた店員が顔を上げる。
若い女性、というか俺と同じくらいの年齢の女の子だ。
「なんですか。なにかお探しですか?」
「えっと。今日発売の雑誌なんですけれど…。月刊誌で」
「それで、タイトルは?」
女の子が読んでいた本を畳んでこちらを見上げた。
「あっ! それ! その雑誌」
「えっ! これですか?」
「そう、その雑誌。それです。…売り物ですよね」
女の子は口ごもり、しばらくして少し悔しそうに返事をする。
「ええ、そうですけど…。まだ読んでないし…」
「9月号は何の記事ですか」
「劇場版ヤマトの特集ですよ。うちこの一冊しか入ってないんですよね」
「お願いしますよ。創刊から全号買ってるんです。売ってくださいよ」
「…明日でも良いですか? 全部読んでからでも良いですか?」
しばらく逡巡してから意を決したように女の子は言った。
「分かった。それで良いよ。明日また来るから絶対だよ」
「うん、…それから。…それからね。創刊から持っているなら6月号を貸してくれないかな。第一回目のヤマトの特集なんでしょ。私先月から読み始めたから」
「いいよ。貸してあげる。ひどい特集なんだぜ。全然ヤマトを見ていない漫画家にパロディーを書かせたりして」
「それ聞いている。デスラー総統がチョビ髭はやしてるとか友だちが言ってた」
「俺、連載してる漫画がすきでさ。アメコミみたいでかっこいいじゃない。ただ題名の意味がわからないんだけどね」
「えー、そうかなあ。私は趣味じゃないんだけど…」
何か気の合う話題で二人で盛り上がってしまって、本屋に長居してしまった。
その娘は本屋の子で、俺と同い年の高校生だそうだ。
日が傾きかけた道を自転車で走る。
明日は創刊号から全部持っていってやろうかな。世界の料理ショーのパロディーも面白かったんだよな。
そんな事を考えながら走っていたら、ふと思い出した。
ヤベー、6月号ってグラビアが森雪のヌードじゃんか。こりゃーアウトかもしんねえな。
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