第129話 増える翼
天使族のラフィが、なぜか獣人を伴って現れた。
「ソウジロウ様に、こちらの二人をお仕えさせていただけますか」
にこにこしながら、その二人を前に出してくる。
「ホロウです」「フウラです」
それは、羽角を持つ双子の少女だった。
ぺこり、と同時にお辞儀してくる。おお、ユニゾン。
双子はラフィのように背中に翼を備えていて、メッシュの入った髪に羽角を生やしている。
そして、メイド服を着ていた。
「えっと、なんで急に?」
「ソウジロウ様は、獣人の奉公人を増やされたとか」
「あー、新天村の元傭兵団のこと?」
「はい! 思い上がった古龍の手先のことです」
「『はい!』の後ろが不穏だから、そういうのやめないか?」
「は、はい。申し訳ありません。つい」
ラフィをたしなめると、慌てて頭を下げられた。きっちり九十度で。
「ご寛恕を願います。なにしろ、天使族は古龍に付け狙われ、多くの同胞が牙にかけられて食べられておりますゆえ。積年の因縁が、つい出てしまいました」
「……いや、なんかごめん。俺の方こそ」
よく知らないのに、気軽に言うべきじゃなかったなこれ。
この世界の長寿族、殺し合いしすぎじゃないかな。
「俺は、ラスリューに助けられてる。ラフィにも、助けられてる。だから、その、二人の仲が悪くなるようなこととか、お互いの悪口とかを言いたくないし、同調できないよ」
ラスリューにはずっと世話になってるし、ラフィには女神様の神殿を建立してもらっている。
どちらが欠けても、そしてどちらかを肩入れしても、アナ様は悲しむ気がする。
困る。
「ふふ」
そんな俺を見て、ラフィがなぜか嬉しげに笑った。
「え、あ、なに?」
「いいえ。癒やしと浄めの女神アナ様も、我が子らに諍いがあれば、どちらにも癒やしを施したという話があるので。そっくりだと思いまして」
そんなに立派なアレではないと思うけど。
「お気持ちは分かりました。以後、気をつけます」
こほん、とラフィが仕切り直した。
「ともあれ、この双子をお仕えさせてください」
「ホロウです」「フウラです」
双子はまったく同じ調子で、再び自己紹介をした。
なんというか、動じない子達だ。
「この郷の雑用は、全て鬼族が担っていますね」
「うん」
「しかし、魔法も苦手な鬼族だけを頼りにするには、少し広すぎるように思います」
「あー……そうだね。最近は手が込んだ料理を増やしてるし」
最初こそシンプルな料理ばかりだったが、ヒナと一緒にレシピを開拓するようになり、調味料や食材も増えた。
掃除や家畜の世話から三食のメニューまで、ヒナだけに負わせるのは過酷な仕事量だ。
バジリスクの小屋は毎日卵を取って掃除しないといけないし、厨房では味噌と醤油の管理もある。そして食材の在庫管理や、新たに収穫した野菜の整理。
千種やアイレスがおやつを要求することもあるし、ミスティアがいつお肉を持ち込むか問題もある。
……あれ、厨房だけでもわりと大変だな?
もちろん、俺とミスティアと千種が、それぞれ掃除やら収穫やらは手を動かしているけど。
「ソウジロウ様は、料理に重きを置いているご様子です。こちらの双子に、料理以外をお任せください」
「なるほど」
ヒナを料理長に据えておいて、他の家事は双子に任せればいい。
そういう提案だ。
「それは確かに、ヒナも助かるな」
意外と、かなり真っ当な指摘だった。
「ありがとう。気づかなかったよ」
「フフフフフ、とんでもございません」
ちょっと嬉しそうにするラフィ。
「この双子には、必要な家政仕事はひととおり叩き込んであります。どうぞ、どのようなことでもお申し付けください」
「へえ、プロフェッショナルだ」
俺は双子に歩み寄る。
「俺は桧室総次郎。ここの郷長だ。二人とも、働いてくれるか?」
話しかけてみると、双子の少女は羽角をピンとはね上げて俺を見た。
「フクロウの獣人です」「双子です」「あるじ様」「お仕えします」
「おお、すごい。被らない」
「練習しました」「それ言っちゃダメだよフウちゃん」「ホウちゃんが姉です」「あるじ様今のなしだから」「フウはホウちゃん大好きです」「えへへーあたしもー」
わあすごい。
「すっごい……やかましいなこの子達……」
「口を縫い付けておきます」
「まあまあまあまあ。元気があっていいから。大丈夫だから」
怒った顔で双子の口を鷲掴みしたラフィをなだめる。
元気だった双子が、いきなり顔面蒼白になってるじゃないか。
その流れで、そのまま双子を採用した。「ちょっと考えさせて」とか言ったら、口を縫い付けられてしまうかもしれなかったので。
「ホウの口が消えちゃうとこだった」「ホウちゃん助けてくれたので、あるじ様好きです」
やっぱりやかましいけど。
料理長がヒナであり、掃除や洗濯や家畜小屋の掃除やその他諸々の、家事全般を双子が担当することに。
双子は仕事を分担するのかと思いきや、いつも一緒に同じ場所で作業していた。
それでも見事なコンビネーションで、別の場所を一人ずつでやるより遥かに早く仕事を終わらせていた。
「従業員小屋を増築しないとなー」
「部屋は一つでいいです」「いいですー」
「了解」
メイド服の双子がパタパタ走り回る姿を、毎日どこかで見かけるようになったのだった。
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