第128話 獣人の村人たち

 天龍ラスリューが治める新天村だが、鬼族の他にも村民を増やそうという話が、以前からあった。

 農村を支えるのに、人手が足りないからだ。

 鬼族の知己だという獣人傭兵団が、ようやくこの土地にたどり着いた。ブラウンウォルスから森に入って進み、ラスリューがこの最奥まで保護して連れてきたという。


「団長のシオウでーす。こっちは副長のキムン。これから傭兵団は解散して、この地にて新たな生に邁進したく思います。新天村の住人として、受け入れてくださるようお願いします」


 俺の前に居並ぶ獣人傭兵団。いや、解散らしいので元傭兵団。それを率いたのが、シオウとキムンという獣人だという。


「傭兵隊長って、もっとすごく怖そうな人が来るかと思ってた」


 シオウは童顔で小柄な青年だった。頭の上に三角でふさふさの耳があるせいか、愛嬌すらある。

 傭兵団を率いる怖い男かと思いきや、


「怖そうな顔はほら、キムンの担当だから」


 朗らかな笑顔と共に受け答えが返ってくる。


「若、困ります」


 シオウより大きな身体をしたキムンが、諌めるように短く告げた。


「一つ聞いていい?」


「どうぞっ」


「なんの獣人なんだ? ふたりとも、違う獣だよな」


 シオウは人間に近いが三角耳が頭にあって、耳の毛はふさふさ。なのに足元を見ると、腰のあたりから蛇のような尾が生えている。

 キムンはかなり大柄で筋骨隆々としており、やはり頭部に丸い耳。顔のあたりまで毛皮があって、だいぶ野性味がある女性だ。

 言うだけあって、黙って獣性のある瞳でにらみを利かせていると、たしかに怖い。


「団長のボクは鵺でーす。キムンは主にクマだけど、オウルベアの末裔で声が特別って感じかな」


「特別って?」


「叫ぶと敵が吹っ飛ぶ」


「強そう」


「強いですよ!」


 鵺とオウルベア。奇妙な集団だ。


「戦場で傭兵やってると、いろいろあるんで~」


 あはは、とか笑うシオウ。

 まあ、いいか。傭兵団を見てみるけど、みんな仲良さそうだし。


「種族的に食べられないものとかない? 大丈夫?」


「大丈夫です」


「そうか。良かった。いろいろ作るから、ぜひいっぱい食べてくれ」


 俺が言うと、きょとんとするシオウ。


「普通は、あの、無駄飯を食べるなって言われるところなんだけど~……」


「収穫を手伝ってくれれば、分かるよ」


「ならやりまーす。今日は収穫ある?」


「あるある」


 さっそく手伝ってくれるなら、話が早い。

 獣人たちの顔見せは、そのまま農作業に移行した。

 村の畑に行ってコタマたちを撫でて挨拶。一匹を抱っこして収穫できる畑に案内してもらった。

 キムンがリドルズの姿にびっくりしていた。精霊獣は初めて見るらしい。シオウは顔に出してなかったが、ちょっと緊張してるような気配があった。


「可愛いアルマジロなのに」


「幻の精霊獣で、大地の申し子。硬い岩盤を粘土同然に貫く爪があるのに、アルマジロは無理があるかも」


 可愛い見た目じゃなくて、すごい爪に注目されていたらしい。


「爪かあ。こだわりが獣人だねやっぱり」


 そういえば硬いかも、と思ってコタマの爪を握ったら、そのまま精霊獣がぶら下がってきた。小さい精霊獣は、楽しげに揺れていた。


 野菜の収穫を手伝ったシオウが、掘り出したものを手に言った。


「大根?」


「人参なんだ」


 もっさりと繁茂した畑の野菜。掘り出していくと、農協があったら市場に出せないサイズの人参が育っている。


「これって、食べられるのかな……?」


 不安げに言う。気持ちは分かる。


「若。まず私が」


 大きな手と顎で、キムンがかぶりついた。


「うわあ。で、どう?」


「甘い……!」


 土ごといったけど、そこは気にしないらしい。


「味は大丈夫だ。でも、皮は硬いから厚めに剥いた方がいいけど」


 木が硬く大きく成長する、神樹の森の地力。野菜もその恩恵を受けて育ったものだ。

 倍の早さで育ち、倍の大きさで収穫できる。


「普通より何倍も早く多く育つのは嬉しいけど、収穫や加工の作業も何倍も必要になる。人手が増えるのは、助かるよ」


「はえ~」


 シオウは感心しきりという顔だ。キムンは、残りの部分を食べてる。葉まで。

 雑食?


「その、もちろん食べるのも、何倍も必要になってるけど、葉っぱまでいかなくてもいいよ?」


 肥料にできるし。


「食べるなら獣人の得意分野でーす!」


 シオウが得意げな顔で言った。

 そして、キムンが怖い顔で言う。


「我らはてっきり、戦闘力を当てにされたかと」


「農作業メインかな、たぶん。でも、少し戦士も必要だって言ってた気がする。それはそっちの担当に聞いてみて」


「分っかりました」


 シオウが人参を掘り出して、うわあと嬉しそうに見つめる。

 他の獣人たちも、喜んでくれるといいが。

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