第109話 千種のプロデュース

 村の外れで、浮桟橋を作った。


 箱形の土台に、アンカーをつけたものを浮かべる。その上に橋板を渡して、ロープで連結しただけだ。ちょっと揺れる。


 揺れを抑えるために『固定』してしまってもいいけど、それはそれでなんだか不自然な気もする。


 その桟橋の先に、船を係留した。


「まあこんなもんか」


 とりあえずの処置だ。すぐにできた。


 ここから、さらに拡張していこうと思う。


 とりあえずもう一つ土台を作って、それに上に建てる施設も考えてある。 


「ソウジロウ! お仕事終わった?」


「ああ、これで終わり。ミスティアも千種も、手伝ってくれて、ありがとう」


「それなら、これからちょっと遊べるわね」


 にんまりと笑うミスティア。おや、なにか企んでいるような。


「良いもの見せてあげる。ね、チグサ?」


「あっ、えっ、い今からここで?」


「ダメなの? ちょうどいいじゃない」


 なにやら揉めている。


「えーっと、なにを?」


「ほら、これよ」


「ぎやぁあ!!」


 千種の悲鳴が上がった。


 後ろに立ったエルフに、セーラー服を上下に思い切り開いたせいだった。


 ブラウスをまくられてスカートをずり下げられたそこには、千種の細い腰と黒いお腹が晒されている。


 真っ黒だった。


「水着! ニホンだと、水辺で泳ぐ時はみんな着てるって、チグサが教えてくれたの」


「あ、あー、びっくりした」


 千種のセーラー服の下には、ワンピースタイプの水着が仕込まれていたらしい。


 いや、わざわざ下に着なくても。


「どう、懐かしい? 私も着てるのよ、ほら」


 上着をちょっと引っ張って隙間を作ったミスティアが、その下にある水着の布地を見せる。


 良いものって、懐かしいものって意味か。


 いや良いものだけど、そういう感じのものではないんだ。言語化は難しいけど。


「ひぃぃ……放してくださいぃ……」


 エルフのパワーにまったく勝てない千種が、蚊の鳴くような声で訴えていた。





 千種が俺がいなくて暇そうなムスビに頼んで、水着を作ってもらったらしい。


 それを『日本人はみんな着たことがあるもの』という下手くそな説明で、ミスティアは民族的な衣装だと勘違いした。


 そして、せっかくだから俺を驚かせよう、とみんなで着てここで泳ぐことにしたらしい。


 なるほど。


「泳ごう?」


「お、およぎましたが……?」


 ぜえ、ぜえ、と陸に上げられた魚のように苦しげに倒れている。

 船の上に、即席で作った屋根の下。千種はそこに敷いたタオルの上で、ぶっ倒れていた。


 たしかに泳いでたけど、すぐに帰ってきたのに。


「授業で百メートル泳ぎきれなさそう」


「が、学校で、そんなに泳ぐ授業ありませんが……?」


「えっ」


 今は小学校で個人メドレー種目ないの?


「あの、私が見てますので、あるじ様はどうぞ水練を……」


 ヒナがそう言ってくれる。

 そんなヒナも水着姿だった。赤いセパレートが眩しい。


「ヒナは?」


「あの、浮いたことなくて……」


「浮いたことがない」


 初めて聞いた。そんな言葉。


「ボクに任せれば、矢よりも早く泳がせてあげるよ?」


「それ泳いでないだろう」


 アイレスが真っ白なパンツスタイルの水着で現れる。尻尾がびたんと千種の足を打った。こら、いじめるな。


 船を少し沖に出して、泳いで遊んでいた。飛び込める程度の深さだ。


 しかし、


「ミスティアは逆に、何キロでも泳いでそうだけど」


「えっ、なに? 私のこと?」


 緑と白のビキニを着たミスティアは、遠くへ泳いでいって深く潜ったりと、忙しないが勢いが衰えない。


 ちょうど、ばしゃんと上がってきていた。


「もうちょっとで、魚が捕まえられそうなのよね」


「素手で?」


 すごいことを言ってる。


 湖の上に、影が走った。

 上を見上げると、飛竜が飛んでいる。あれは、と思った時には急降下してきた。


 そして、着水。激しい水しぶきが起きて、寝転がっていた千種がぎゃあと鳴いた。


「はいお待たせ。日焼け止め、作ってきたわ。それと、飲み物も」


 いつものフード付きマントの下に、黒と紫のビキニを身に着けたイルェリーが、鞄からあれこれと出してくる。


「……今の、楽しそうよね」


 飛竜の着水を見ていたミスティアが、ぼそりとつぶやいた。


「ミスティアは、カイトボーディングとか好きそうだよな」


「なあにそれ?」


「でかい凧を飛ばして、それで引っ張られながら水面をボードに乗って走る遊び」


「ええっ、なにそれ楽しそう!」


 目を輝かせるミスティア。


 確か水中翼付きフォイルボードなら、小さいボードでも微風くらいで走れたよな。


 などと、つい作ってあげる方法を考えてしまう。魔法で風が起こせるなら、凧も小さくて短く取り回し良くしておけば、自分で操れるのでは。


「うまくいくか分からないけど」


「やってみたい!」


 ミスティアに、新しい技が増えたのだった。


「高速水上走行!」


「おおお!」


 その後、二人乗りタンデムすら乗りこなしたミスティアと、湖を滑走することになった。


 こういうことに関して、ミスティアは天才すぎる。


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