第95話 新規イベント重課金勢
接ぎ木というのは極端に簡単な言い方をすれば、二つの木の白い部分をむき出しにして、ぴったりと合わせるだけだ。
後は植物が勝手にくっついてくれる。
樹木ばかりでなく、野菜もできるけど、野菜の苗を接ぎ木するのは難易度が高いらしい。
同系統の樹木を接ぎ木で増やすのは、古代からずっと行われている。
台木となる根っこの方は、森の中からウカタマに持ってきてもらった。
ドリュアデスから離して植えてほしいと言われたので、俺の家の裏庭に植えた。
指くらいの太さの小さな木を切断して、真ん中に切り込みを入れる。これが台木になる。
次に穂木を用意する。台木に接着する霊樹だ。それはお箸くらいの大きさの、霊樹の枝である。
先端部をV字に尖らせて、切り込みに挿す。
最後に、ムスビにぐるぐると糸を巻いて、台木や穂木の断面を包んで、固定と保護をしてもらう。
あとは、待つだけだ。
「気の長い話だな……。弓が作れるようになるまで、どれくらいかかるんだ?」
「そんなには。この土地では、神樹の成長はとても速いもの」
イルェリーはそう言うが、二~三年くらいの時間を、エルフは”すぐ”と言うらしいし。
ミスティアに黙っておく期間としては、ずいぶん長い。
「早く育ってほしいなら、竜種や魔石の肥料を使うことと……お祈りでも、してみればいい」
冷たく言われてしまう。呆れられてるのかもしれない。
人間は短気ですまない。
とりあえず、肥料はウカタマに頼もう。
「早く元気に育っておくれ」
言われたとうり、霊樹に向かって両手を合わせてお祈りする。
と、俺の頭にムスビがもふんと乗った。
髪をまさぐられる。撫でられてる?
「ムスビも協力してくれるのか」
心強い。
頭の上の精霊獣を、もふもふと撫で返しておいた。
一緒に成長を願おう。
「……芽が出てる」
翌日だった。めちゃめちゃに早い。
枝葉の無かった霊樹の接ぎ木は、翌日には芽を出して葉を作っていた。
「霊樹って、侵略的外来種みたいにならないよな?」
「失礼よ。……でも、私も驚いた」
イルェリーも目をぱちぱちと何度も瞬いていた。どうやら、エルフにとっても驚きの様子らしい。
そこへウカタマが、のっそりと現れた。
芽が出た霊樹を見て、俺を見て、ツンと上を向く。
どうやら胸を張っている。
「うん、ありがとう。ありがとう」
台木と肥料を用意してくれたのは、ウカタマである。喜んで褒めさせてもらう。
硬い爪を握って上下に振ると、ウカタマは機嫌良さそうに頭を振った。
やはりこの精霊獣は、農家として一流のようである。
自分も自分もとムスビまで降ってきたが、問題無い。両方と一緒に喜んでおこう。
「ムスビが作ってくれた飛竜の鞍だ」
「ありがとう。訓練するわ」
ということで、拾ってからけっこう大きくなってきたヒリィ。ラスリューに吸われる以外の仕事が始まった。
そのラスリューも、ヒリィを訓練すると伝えたらそそくさやってきている。
「いいでちゅ──いいですよー。かわいいかわいい」
鞍をつけた背中を気にしてもぞもぞする飛竜を、ラスリューが嬉しそうになだめている。
イルェリーと二人がかりだ。
しかし猫カフェの新しいイベントじゃないぞ。
いや、待てよ。
「こちら、訓練の後に用意している飛竜のお水。ヒリィが好きなちょっと柑橘類で疲労回復用です。これをあげる権利を買えます」
「金貨でお願いします」
「嘘だから即答しないでくれ」
「やはりお金では買えませんか。なら──」
「いや渡すからあげてやってくれ」
条件を吊り上げようとするな。
「総次郎殿……ありがとうございます」
バケツサイズの木の桶を受け取りながら、にっこにこのラスリューである。
頬を赤らめないでほしい。そんなに飛竜が可愛いのだろうか。
ヒリィが鞍を気にしなくなるまで、イェルリーと一緒に歩き回らせていく。
最初はちょっと変な反応をしていたが、ずっと歩かせるうちに気にしなくなっていった。
「今日はここまで。あとは、遊んでおいで」
「よく頑張りましたねー、ヒリィちゃーん」
ガブガブと水を飲む飛竜を、嬉しげになで回すラスリューだった。
「今日は乗せるだけか」
「飛竜は賢いから、とっても簡単よね。馬なら乗せるまでに、何日かかかるわ」
そういうものらしい。
このまま数日ほどで、飛竜に乗れるようになるだろうとのこと。
順調だ。
街まで買い出しに行ってもらえるようになる。
「そうだ、総次郎様。新天村でも、味噌や醤油というものを作ってみたいのです。良ければ、鬼族にヒナを貸してやってくれませんか?」
ラスリューがそんなことを言い出す。
「教えてほしいなら、俺とヒナの二人で行くよ。遠慮しなくていい」
「ありがとうございます」
深々と礼を言ってくるラスリューである。
「そんなに頭を下げなくても」
「私には教えられないどころか、手伝うこともできませんので……」
ちょっと無念そうに言うラスリュー。
「鬼族と私ばかりでは、手の届かないこともあると痛感いたしました。村に、新しい者達を招こうと考えております」
思ったより余裕がありそうだ、新天村。
「それは楽しみだな」
あそこの田んぼも見に行きたいし、ちょうどいい。
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