第37話 一夜を過ごして
さんざん飲み食いした翌朝。
なのに、胃もたれしてない。
若返った体って最高!
「女神様ありがとうございます……!!!!」
力いっぱい神殿と女神像を拝んでおいた。
あー、やっぱり祈る場所があるとしっくりくるかも。
「マスター、あれをどう思いますか?」
「あれって?」
「今朝方はとてもよく赤くなる、乙女エルフのことです」
「あれかー。……俺って酒癖悪かったか?」
「なるほど。優秀な妖精はそれもまた好しと思考します。80点です」
「ありがとう……?」
ミスティアは、ちょっと様子がおかしかった。
たとえば沐浴の時。
いつもすっと着替えて川に飛び込んでいくのに、今日はなぜかちょっと岩に腰かけて何かを考えていた。
ちらちらとこちらを見ていたのも珍しい。
目が合うと、顔を赤くして水面を叩いていた。
千種がミスティアをおろおろしながらなだめるという、珍しい光景を見た。
一晩、ガールズトークして仲良くなったのかな。
そんな話をしていたら、二人が姿を現した。
「マツカゼとムスビのご飯あげました」
「おつかれさま。俺たちもご飯食べよう」
その答えに、微妙な顔をする二人。
「……昨日、いっぱい食べすぎたかも」
つい笑ってしまう。
「安心してくれ。俺もだよ。軽い汁物しか作ってない」
食べすぎたせいで、あんまり空腹感が無い。
「え、でもそれは?」
「ああ、昨日の残り物と、お米があるなら作ろうと思って」
テーブルの上に、布をかぶせた皿がある。
「小さいおにぎりだよ。夜まで残してくれていい」
「オニギリ……?」
「おにぎり!?」
案の定、千種がかぶりついた。
「三角が塩で丸い方は鮭」
「鮭いたの!?」
「いないけど、なんかニジマスっぽいやつの身を具にしたから、代用食材シャケおにぎり」
「コンビニのおにぎりだ! ふへへぇ!」
ニジマスで代用されていると噂のコンビニ鮭おにぎり。
二人してけらけら笑う。
「むー、ちょっとソウジロウ。私は仲間はずれ?」
ミスティアがすねた。
あれ、すねた? 珍しいな。
こういう時、よく分からなくても笑ってノってくるタイプなのに。
「えーっと、ただの出身地のネタだよ。シャケの身をニジマスで代用するところを、最初からニジマスしかいないのにシャケおにぎりって言ってるだけっていう感じで」
ギャグの説明するの恥ずかしいなちょっと。
「そ、そう。……なんかごめんなさい! 良くないわね私! これは良くないやつです!」
ミスティアが急に謝った。
「いいよいいよ。小さく握ったから、食べられる時に食べてくれ」
お腹が空いてなければ、初めて聞くおにぎりが入らなくても仕方ない。
どれくらい腹にくるのか分からないしな。初めての料理。
「うう……そうじゃないんだけど、ありがとう……」
ミスティアが、顔をそらして気まずそうにしている。
気にしなくていいのに。
「あっ、その、長引くかなって思って……いただいてます……はぐはぐ……」
振り向けば、すでに食べ始めてる千種がいた。
食べ物については、必死になるよな、この子。こう、食べられる時に食べないと無くなる、みたいな危機感がある。
「千種って、兄弟いた?」
「あっ、妹ならいましたけど」
「違うか……」
「?」
兄とか弟とか、ほっとくとなんでも食べてしまうのがいたのかと思った。
……つまり、異世界に来てからの食糧事情のせいということだろうか。
たった三年で、そんなふうになってしまったのか。かわいそうに。
「いっぱいお食べ……」
「あっ、はい」
というか俺も食べよう。
「ミスティアも、お腹すいてなくても汁物くらい入れておきなよ」
「はーい」
「いただきます」「いただき、ます」
手を合わせて言うと、最近ミスティアも真似するようになった。
「温かい汁物は内臓を温めて動かすし、肉の消化に使う水分も補給できるから」
「なんでそんなこと知ってるの?」
「元おじさんだから、衰えててね」
トシ取ると体の不調がけっこう響くようになる。
そして科学や医療に頼るようになり、そういう情報を集め始めるのだ。
まあ、ブラック勤めだったからかもしれないけど。
「それ、ソウジロウは衰えたんじゃないわ。賢くなったのよ」
「……今度から、そう言おう」
俺の言葉に、ミスティアは優しく微笑んだ。
「人間はみんな、歳のこと気にしすぎてて可愛いわー。ソウジロウも人間だったのね」
「どういう意味それ」
「あっ、まれによくある長命種目線ですね……。異世界あるある」
なんだかんだで、いつもの食卓になっていった。
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