第13話 重要な一室
俺としたことが、とんだミスを犯していたことに気付いた。
今はそれを挽回するために、O形に切り出した木材の表面を可能な限り滑らかに仕上げてる。
〈クラフトギア〉のヤスリによって、大理石のようにツルツルにしていく。
その部品ができあがれば、あとは体力仕事だ。
「やり直しはしたくない。一発勝負だ……!」
俺は〈クラフトギア〉をシャベルにして、立ち上がった。
トイレをアップグレードするために。
今までどうしてたのかは聞かないでほしい。
デリケートな問題だが避けては通れないので、俺とミスティアは気まずい思いを隠して話し合い、不都合が無いようにしていた。とだけ。
しかし、椅子を作って座った時に、ふと思ってしまった。
普通のトイレ欲しい、と。
というか、トイレ事情の解決は早ければ早いほど良いと思う。
優先順位を間違えていた。それが俺のミスだ。
そんなわけで、俺はO形の便座と蓋付きの便器を取り急ぎ原木から掘り出した。
水洗にはできないので、便器の穴は真っ直ぐ下に通る形だ。
あとは、これを設置する場所があればトイレは完成する。
「〈クラフトギア〉、本領発揮だ」
まずは穴を掘る。
テントサイトから五十メートルほど離れた場所だ。
かなり深く掘る。最終的におがくずなどを投入し、溜まったものを生分解してから埋めるかもしれない。
まあ、後のことは置いておく。
とりあえずけっこう深く広く掘った。
穴の周囲に石で基礎を置いて、その上に小屋を作っていく。
壁は薄くて枚数の多い板材を簡単に立てていき、床は厚めの板を渡しておく。天井はお馴染み樹皮シートをロールで作っておいたので、それを使う。
二メートル四方の小屋がすぐにそこに建てられた。
壁・床・天井のすべて、耐久や構造を度外視して『固定』して突貫で建てた。
見た目は床以外薄くて頼りなく思えるのに、〈クラフトギア〉の力でどんな建材より頑丈だ。
そして、床の板材に唯一ぽっかりと開いた穴に、便器を置いて『固定』する。
壁には手を洗うための水のタンクと容器を設置。
グリフィンの爪を水の容器に入れておいて、衛生もよし。
手を拭くタオルも吊しておこう。
「壁を〈クラフトギア〉で『固定』しておけば、モンスターの襲撃も平気……まあ、扉だけは動かないと困るから、分厚くて硬い木で作るか。また後日に」
今日は突貫工事すると決めてる。
扉にいちおう、簡単な鍵だけはつけておいた。
「これでよし、完成」
俺は腕組みしてうなずいた。
そして、
「早くテストしよう。早く」
作業の途中からずっと我慢していた。
使った感想。
やっぱり、野外じゃないのは良い。たとえ拭くのが葉っぱでも、個室で安心感が味わえるのは良い。
ミスティアにはちょっと引かれた。
「い、一日でこんな立派なはばかりを作ったの? ソウジロウ、ちょっと頑張りすぎじゃない?」
「いや、T◯TOのこだわりに比べれば全然だと思う」
とは言いつつ、ミスティアも入って出てきた後の感想だったんだが。
さて、残るはマツカゼのことだと思う。
「お前用のも、作らないとな……砂桶とか? それは猫か」
「マツカゼなら、教えれば決まったところでしてくれるわよ。ソウジロウがこだわりたいなら、それこそ掘った穴に」
「まじか。すごいなマツカゼ」
トイレの躾ができる犬。それだけでかなり褒めてやりたいポイントだ。
マツカゼを撫でてやると、嬉しげに鳴いた。可愛いやつだ。
「魔獣ってすごいんだなー。よしよし、お前のトイレする穴も掘ってやろう」
俺が言うと、くるくる回りながら少し吠えた。なんだ?
ミスティアが言った。
「……自分も壁つけてほしい、だって」
「本当にすごいな!?」
まあ、トイレの時って無防備だからな。
しかしこのぶんだと、板材は本当にどれだけあっても良さそうだ。
たくさん作っておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます