少女が店番している本屋

仁志隆生

少女が店番している本屋

 それは、俺が近所の住宅街で散歩していた時だった。

 

 以前まで空き地だった所にいつの間にか小さな木造の建物が出来ていた。

 どうやら本屋さんのようだが最近にしてはやけに古ぼけているなあ。


 そう思った時だった。

 店の中から小学校低学年くらいで赤いスカートに白いシャツといった服装の女の子が出てきた。


「あ、いらっしゃいませ~」

 その女の子が俺を見上げて言う。

「え? あの、ここの子?」

「うん。今誰もいないからあたしが店番してるの」

「へえ、偉いね」

「エヘヘ。ねえお兄さん、ちょっと寄ってってよ」

 そう言って俺の手を引いてきた。

 まあせっかくだし覗いてみるかと思い中に入った。




 中はコンビニくらいの広さで本棚もたくさんあるが、図鑑みたいな分厚い本しかない。

 とりあえず一冊を手にとった。

 背表紙と表紙には作者名なのかタイトルなのか、人の名前しか書いてない。

 他のもそうだった。


「お兄さん、気になるのがあったら読んでいいよ」

 女の子がそう言ってきた。

「え、立ち読みお断りじゃないの?」

「いいの。だってそれじゃ中身わかんないでしょ」

「まあそうだけど。うん、じゃあ読んでみるかな」


 その後、幾つかの本をざくっとではあるが読んだ。

 どうやらどれも伝記で知らない人のばかりだったが、なかなかいい。

 主人公目線で事細かに書かれているが、もしかして本人が書いたものかな?

 そう思えるほどだった。



 しばらく経ち、最後に手に取った本の名前は偶然にも俺と同姓同名。

 それもあってどんな事が書いてるのか気になり、もしいいものだったら買おうかと思いながら開いてみたら……あれ?


 どのページも真っ白で何も書かれていなかった。

「ねえ、これは売り物にならないと思うよ」 

 俺が女の子にそれを見せた。

「いいのいいの。だって

「はい? ……うわあっ!」

 本が急に光ったかと思った時、俺の意識は途切れた。




「ぬふふ、また一ついいお話が出来たねえ」

 少女は床に落ちていた本を手に取り、本棚に戻した。

「……さて次はっと、そうだ」

 少女が振り向き、ニタァと笑みを浮かべて言った。


にしようかねえ~」

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