第33話 避難
頑強な肉体のお陰か、ぷよぷよとした不安定な足場で、そこそこの重さとはいえ人一人を抱えた状態でも問題なく走れる。
仲間たちの様子を伺う余裕すらあった。
獣人の血の混じっているシジーとミリサリサがそれぞれテルトナとシスター・リニの手を引いてくれている。
──助かる。珍しい組み合わせだが確かに合理的だ。よっと、ここから斜めになるのか
「傾斜っ!」
俺は皆に注意喚起をのため、一瞬立ち止まると小声で告げる。そのままスライムのふちを滑るようにして通路へと進む。
──よく滑る。バランスとるのに苦労しないとちょっと楽しいなこれ。
他の仲間たちも続いて滑り降りてくる。
「あっ」
テルトナが盛大にこける。
「えっ。あ、あねさんー」
手をつないでいたシジーも巻き込まれるようにして転ぶと、二人は折り重なるようにして俺の足元まで滑り降りてくる。
色々とよろしくない。
俺は礼儀正しく、二人から目をそらす。
シスター・リニは最初から一人で座って斜面を滑り降りてくる。
ミリサリサはしんがりを勤めてくれているようだ。その気配り具合に、俺は内心でミリサリサの評価を追加しておく。
俺はアズルマイカを下ろすと、滑り降りてきたシスター・リニの手を取り立たせてあげる。
「れ、レキの兄貴。こっち! こっちもっす!」
シジーとテルトナは転んだ弾みでスライムの体の一部を抉りとったのか、折り重なった体にさらにスライムの粘体が巻き付いてしまったようだ。
「急いで。敵認定された」
たったまま滑り降りてきたミリサリサの警告。
「そっちのシスター・リニの知り合いを頼む!」
俺は絡まったままのテルトナとシジーを掴むと、力付くで持ち上げ、通路の奥へと走り込む。
「うぎゃ、ちょっ。た、たんまっすー」「れ、レキ? それはさすがに──うっぷ」
後ろをちらりと確認する。シスター・リニとミリサリサが左右からアズルマイカを支えている。幸いなことに足元がしっかりしていれば、アズルマイカも小走り程度には動けるようだ。ただ、腕が動かないように、反対の手でおさえて走る姿は痛々しい。
俺たちが落下した巨大スライムの体が、うぞうぞと蠕動を始めているのが、そんな三人越しに見える。しかし幸運なことに、直ぐに通路は曲がり角になる。
巨大スライムが本格的に活動を始める直前、俺たちはその通路の角のかげへと、無事に滑り込むことができた。
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