第32話 幸運五倍
ステータス画面に表示される幸運(小)×五の文字。
次の瞬間、文字が点滅しはじめる。
──なんだ、これ。こんな現象見たことないぞ
点滅していた、幸運(小)が一度消えると、かわりに幸運(並)という文字がステータス画面に表示される。
「えっ、かわった!?」
落下しながら、思わず叫んでしまう俺。シジーたちが何事かとこちらを見る。
こちらを向いた皆の瞳には、まだ強い光が宿っている。この状況下でも、誰一人、まだ生きることを諦めていないのだ。
そしているうちに、ついに大穴の底が見えてくる。
「水面?」
テルトナの残念そうな声。確かに、水のきらめきのように見える。この高さからの落下では、例え落下場所が水面でも致命傷だ。テルトナも、それは当然知っているのだろう。
「違う、あれはスライムだ! 全員、衝撃にそなえ……!」
俺が叫ぶのとほぼ同時。
俺たちは大穴の底一面に広がるように横たわっていた巨大なスライムへと激突する。
ぽよん。
とても柔らかな感触。
そして落下の反動で、再び俺たちに浮遊感が襲ってくる。
ぽよんぽよん。
そのまま、俺たちは幾度かバウンドしながらも無事に巨大スライムの上へと着地していた。
「──皆、無事か? 俺は怪我なし、だ」
落下とスライムの上で跳ねた衝撃で少しバラけてしまった俺たち。
重なりあうように落ちていたら、それだけでも大ケガをしていた可能性がある。バラけたのは幸運だった。
「大丈夫っす」「私も」「問題ない」
「お姉さま! お怪我は?」
「大丈夫よ。アズルマイカ、あなたは?」
「──申し訳ありません。肩を脱臼したみたいです」
シスター・リニに知り合いらしきシスターだけ、怪我をした様子。
「テルトナ?」
「敵意は感じない。でも、早く離れた方が良さそう」
「すまないが移動を優先する。……あちらの通路を目指そう」
部屋にミチミチに詰まっている巨大スライムだが、部屋から伸びる通路はいくつか見える。そのうちのひとつを俺は指差す。
「アズルマイカさん? 手助けはいるか?」
「不要です」
刺激しないように慎重に歩いて近づくと、俺はアズルマイカに訪ねる。しかし返事をして、立ち上がろうとしたところで、アズルマイカは不安定なスライムの足場によろけてしまう。
俺とシスター・リニがとっさに支える。
「仕方ない。すまんが抱えさせてもらうから」
俺は有無を言わせずにアズルマイカをお姫様だっこする。
「きゃっ」
申し訳なく思いながらもその悲鳴も無視すると急ぎ通路へと向かった。
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