第9話 ケガレ
「理由は、これよ」
服の首もとをはだけたテルトナ。
喉元のすぐ下辺りに、何か黒い塊が見える。大きさは手のひらより少し小さいぐらいだ。
「……腫瘍か?」
「正確には違うわ。これ、私の一族で何代かに一人に体の一部に現れるの。私たちは
「それは……」
ケガレとテルトナが呼んだものを見ながら、俺は言葉につまる。
「でも、母はとても鋭い直感を持っていたの。どうやら、そういった感覚が鋭いほど、ケガレも酷いみたいでね。預言者だった祖先から続く、私の一族の宿命なの」
どくどくとテルトナの首もとでケガレが脈打っているようだ。
「……そのケガレに、聖水が効果があるのか?」
「そう。でも滅多に手にはいらないから。母も一度だけ名も無き神の聖水を使えたみたいね。そのお陰で寿命がのびたって聞いたわ。それでも、私が大人になるまでは、もたなかった」
自らの首もとを見下ろすテルトナ。その瞳はどこか憎々しげにすら見えた。
──最初にテルトナの瞳に感じた強い意思は、これか。彼女はこんな状況でも、全く諦めてないのか。
俺が考え込んでいる様子をみて、テルトナが告げる。
「ああ、支払いなら安心していいわ。このケガレは厄介だけど、逆にこの力のお陰で一族は裕福なのよ。占いとかでね」
「確かに有用そうだな。……テルトナが占いの道ではなく、錬金術師になったのは?」
「ふふ。そうね。母の命を奪ったこのケガレをなんとかしたいと思っているわ。諦めるのは性にあわないの」
そういって笑うテルトナ。その笑みの力強さに、思わずドキリとしてしまった。
「……よくわかったよ。さて、そのビーカーを借りても?」
「いいけど? ああ。バクシーさんも飲む? 健康に良いのよ?」
そういってピンク色の液体をすすめてくるテルトナ。彼女が言うなら、その口からピンク色の煙が出る液体は本当に健康に良いのだろう。当然俺は粛々と辞退すると、空のビーカーを受けとる。
そのままステータス画面を開く。残っていたお祈りポイントは1。
俺はそのお祈りポイントを捧げる。聖水を生み出すことを選んで。
──何度も聖水を納品するとしたら、必ず怪しまれる。ならいっそ最初から見せてしまっても変わらないだろう。定期的に金貨十枚が手にはいるとするなら、そのリスクは許容範囲内だ。
手のひらから聖水が沸き出してくる。
俺は両方の手のひら合わせてお椀の形にする。その隙間からビーカーへと聖水を滴らせていく。
「えっ、一体どこから!」
俺の手元を驚き顔で見つめるテルトナ。
沸きだした聖水を一滴たりともこぼすことなく、俺は全てをビーカーに注ぎきる。
──うまくいった。良かった良かった。
「はい、聖水の納品」
そういって俺はビーカーをテルトナへと差し出したのだった。
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