第10話 聖水の力
「……聖水?」
「そう、聖水」
手元に渡された聖水がなみなみと入ったビーカーと俺の顔を交互に見ながら、呆けたようにたずねてくるテルトナ。そのポカンとした顔がおかしい。
「……あなた、もしかして聖人なの?」
「いやいや。聖人て。そんなんじゃないよ?」
「だって、今、手から……」
「そういう加護ってだけさ」
「……それが、聖人よ。神へ祈りを捧げ、神より加護を授かりし者ってことでしょ。はあ、ただ者じゃないとは思っていたけど、これは大当たりだった訳ね。……いま代金を支払うわね。バクシーさんの信心する神の御名は?」
「シストメア様」
「シストメア様……。聞いたことがないわ。でも、名をお持ちってことは亜神よね……」
そう呟きながら金貨を取り出すテルトナ。俺はそれが十枚あることを確認すると、ありがたく受けとる。
──テルトナもシストメア様を知らないのか。それにしても聖水だって確認せずに、お金払ってしまってよいのかな。ああ、そうか。テルトナは直感でわかるのか。
俺が一人で納得している間に、テルトナがビーカーの聖水を一気に飲み干す。
「ぐうぅぅ……」
急に、首もとをおさえてつらそうな声をあげるテルトナ。
「テルトナっ!」
「熱い……。これが、聖水の力──!」
「お、おい。しっかり……」
立ち上がり近づこうとした俺を、手をあげて制すテルトナ。
「だい、じょうぶよ。はぁ……はぁ……」
テルトナが、はだけたままだった首もとから手をどける。
テルトナの首のつけねのケガレ自体は健在のようだ。しかし脈打つような動きがすっかり止まっている。それにサイズも少し小さくなったようにも見える。
「すごい、わ。ありがとう、バクシーさん。大きくなるばかりのケガレが小さくなるなんて」
首もとを覗きこみながら、ケガレを撫でるように触れるテルトナ。その言葉に込められた感謝の気持ちが、伝わってくる。
「本当に。本当にありがとう」
「いや、なに。俺も対価をもらっているんだ。実際、この金貨は助かるよ」
「それでもよ。バクシーさんとしてはその加護のことはあまり大っぴらにしたくなかったんでしょ。それをおして取引に応じてくれたじゃない」
「まあ、事情を聞いてしまったからな」
「ふふ。優しいのね」
穏やかな笑みを見せるテルトナ。瞳がこれまでにないほど優しげだった。
「そんなんじゃ、ないんだがな──」
俺はそのテルトナの笑みに、どうにも恥ずかしくなってしまった。
その後、俺はテルトナと週一回のペースで聖水を納品すると取り決めを交わす。期限はどちらかが止めるまで。そして場所はこのテルトナの部屋で、となった。
そうしてようやく帰路につく。家にたどり着く頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。
いつものようにざっと身綺麗にして、夕食は抜きのまま、習慣となっている手紙の開封を行う。
その夜は結局、お祈りポイントが4、貯まったのだった。
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