第2話 加護

「熱っ!」


 俺は飛び起きると、部屋のなかを見まわす。すると、惨状が広がっていた。


「……夢、じゃない?」


 しまっていたはずの箱という箱が、部屋中に散らばっている。

 ただ、箱のなかに入れていた不採用を告げる手紙だけが、一つも見当たらない。


 俺は、ベッドに腰かけると、深呼吸をして落ち着く。それから、まさかなと思いつつ左手を掲げて呟く。


「ステータス」


 左手の手のひらの上に現れる、半透明の枠。ステータスウィンドウだ。


 俺は、履歴書に自身のステータスを書きこむときには、習慣のように必ずこのステータスウィンドウを表示させている。つい先日も、新しく履歴書を書く際、その内容を確認したばかりだ。


「……なんだよ。何も、変わってないじゃないか」


 気落ちして、呟く。

 ステータスの数値は前に見たときと変わっていなかった。いまいましい成長限界をむかえた、低い数値のまま。


「ははっ。そりゃそうだよな。シストメアなんて名前の神様、聞いたことないし」


 俺が苦笑いしてステータスを閉じようとしたときだった。


 指が、滑る。


 次の瞬間、ステータス画面が縦にスクロールする。

 見たこともない画面が、はじめて現れた。


「ぅおっ!」


 驚きのあまり思わず声がもれてしまう。


 そこには、【加護】の文字。


 さらにその加護と書かれた欄には、『健勝』と『活躍』と書かれている。

 そしてその下。

 そこには『お祈りポイント』なるものも表示されていた。


「すごい。あれ、本当だったんだ……」


 俺は何度も何度もステータスの画面を上下にスクロールさせる。今、見ているものが夢じゃないことを確かめるように。


「『健勝』か。そういや、不採用通知にいつも『ご健勝をお祈りします』って書かれているけど。……まさか、それでっ!?」


 思いつくまま呟く俺。

 そして、何かわからないかなと、『健勝』の文字に触れてみる。

 反応して、ポップアップウィンドウが開く。


「あ、開いた。なになに。『健勝:頑強な肉体を得る』と…………いや、いいんだけどね。さすがに、そのまんま過ぎませんかね。しかも、後半は文字が変になっているな。これは読めない」


 『健勝』について、それ以上今わかることは無さそうだと、俺は次に『活躍』を見てみようと手を伸ばす。


 期待のあまり、指が少し震える。


『活躍』の文字に手が触れると、ポップアップ画面が再び現れる。


「なになに。『活躍:レベル、ステータスの成長限界を突破する』……」


 読み上げた内容に、俺は思わず立ち上がる。こみ上げてくるものが多すぎて、言葉がでない。


 涙すら、少し、にじんできた。


「──良かった。ああ。本当に、良かった」


 呟いたはずみに、ついに涙が一筋、したたる。


 低いまま成長しなくなって久しい俺のレベル。それは、いくら俺が冒険者ギルドに応募しても不採用通知を受けまくっていた、最大の原因。


 そのことは、俺が自覚しているよりも相当強い、コンプレックスになっていたみたいだ。


 今まさに、そのコンプレックスが解消された。これまでの不採用通知を受け取り続けてきた日々の、嫌な記憶が頭のなかをかけぬけていく。


 気がつけば、あふれるように流れる涙。

 俺は強めにごしごしと顔をこする。


「はぁ」


 気を取り直すと、考察を続けることにする。


「この『活躍』の加護。たぶん、不採用通知の文面では、『更なるご活躍をお祈りいたします』の部分だ。それから与えてくれたんだろう。──そしてやっぱり、後半に書かれている文字は読めない、と」


 俺はそこで、ふう、と大きく息を吐く。


「さて、最後はこれか」


 俺は最後に残っていた『お祈りポイント』の文字に指を伸ばした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る