誰何Ⅵ-Ⅱ
「なんの話か知らんが、待たせたな、すまん」
悪びれもせず言う犬の頬は
「帰ったら酒をおごれよ」
山下さんが右肘を上げ、犬が右腕を軽く打ちつけて応える。
目黒書店の一番大切な取引相手である倉庫、その輸送車の護衛がなぜ俺みたいな新米に任されているかといえば、間違いなく<誰何>の力が大きい。しかし上は何を誤解しているのだろう、べつに俺と
俺は茉莉花の安全と生活さえ保証されていればそれでよかった。自身は<
「そろそろ倉庫の圏内を外れるぞ。……なんでもいいが、今日は特にひどいな」
「え」
「心ここにあらずというか、……まあ、あれだけ派手なドンパチがあったあとだ、野盗もおとなしくしてるとは思うけどな」
「勝って兜の緒をしめよ、ですよ」
おまえがいうな、と呆れ顔で犬が言った。
前衛と後衛を交替し、そろそろ<
『オニイチャン……』
声が聴こえて、俺は咄嗟に身構えた。犬が即座に反応して警戒体制に入る。手信号で大丈夫だ、と伝える。
声は茉莉花のもののように思えたが、<誰何>には声を伝えるような機能はない。いや、ないはずだ。
おまえは誰だ。
笑声が聴こえた。
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