誰何Ⅵ-Ⅰ

 本当なら今日はあと一往復する予定だったが、突然の敵襲があったせいで押している、戻り次第終了だろう、という話だった。


「こういうことってよくあるんですか?」


 年長の警護ガードである山下さんが、煙草をくわえたまま、あ、と言った。

 倉庫の車庫ガレージに我々はいる。犬待ちだ。


「よくはないなあ。おまえさん、……きじだっけか? 入ってから初めてじゃないか、こんなの」


「雉はまだ入って半年ですよ」


 ほとんど話したことのないワンさん(山下さんの<結束バンド>だ)が口を挟む。


「お……おまえ、しゃべれたのか!」


 なんで山下さんが驚いてるんだ、と思ったが<結束>には<結束>のやり方がそれぞれある。もっとも山下さんと王さんの<結束>は長かったと記憶しているが。確か目黒書店でも一二位を争う熟練ベテランの組み合わせだったはずだ。


「まあ王に声帯がちゃんとついていたことはあとあと寿ことほぐとして、よく起こるようなことではないが全くないわけでもないぐらいの頻度だな」


「雉が入るちょうど三日前に似たような事案がありましたよ」


「あれは違うだろ、明らかに持続可能主義者サスティナブリズムの兵だったぞ。しかも本屋ウチが狙われたのと倉庫ここが襲われたのでは意味合いがまるで違う。おまえ、なんで今日はそんなに喋るんだ?」


 いかつい感じに髭を蓄えた小柄な山下さんと、ひょろっとして色白、どことなく面妖な雰囲気を漂わせた王さんが話していると、なんとなくドワーフとエルフ(物の本で読んだ)の会談といったおもむきがある。


「おい雉! おまえが訊いてきたんだろ、いまの話聞いてたか?」


「え? なんです?」


「犬のことだよ。おまえ、もうったのか?」


「はぁ?」


「犬さんはですねえ、早く子供が欲しいらしいですよ。わたしも誘われたことがありますが、断りました。タネなしなので」


「やりもしねえでタネなしもなにもねえだろうにな? 知ってるか、雉。コイツ、童貞なんだぞ」


「ちょ、え。なんの話なんですか、コレ?」

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