誰何Ⅴ–Ⅰ

 内戦は終わった。散々煽り立てられた民衆の想いや犠牲などは全く忖度そんたくもされず、いわゆる政治的な決着がつけられて内戦は終わった。もっともそこに人の想いなどを載せようと思ったら殲滅戦しかない。ましてや人種の違いなどもないのだから。

 だが近いからこその憎悪というものもあったりする。水よりも濃い血の繋がりがあるからこその骨肉の争いといったような。

 殺しこそはしないが完膚かんぷなきまでにぶっ叩き格の優劣をつける。それは、いわゆる後顧こうこの憂いを断つ、というやつだ。


——というようならちにもあかないことを考えながら俺は前線にくわわる。


 管内の倉庫に襲撃をかけるとは、一体どんな相手なのか。自信の程を窺わせるだけの戦力が確かにあった。いや、あるように思えた。<誰何シーカー>の有効範囲は茉莉花まりかを起点として周囲3Km。助けはないが、助かった、というのが本音だ。妹は巻き込まれない。


 戦争には法がある。

 野蛮人ではないのだから当たり前だ(のクラッカー)。

 倉庫は中立で資本主義キャピタリズム持続可能主義サスティナブリズムの双方から独立している。だが第三の勢力なんて俺の知る限りはなかった。

 半島からの刺客、ぐらいしか思い浮かばなかった。奴等も出島となっている倉庫の恩恵を受けているはずだが、もし侵略戦争を始めようというのなら恰好の獲物ではある。

 いや半島ならば管内などよりもっと手近な、裏日本の島とかもあるはずなのに。


「おまえな」と犬が呆れたように言う。

「脳みそを目の前のこと以外に使うな。敵の目的とかはどうでもいい、大切なのは生きることと敵を倒すこと、だ」


 俺はため息をいた。

「本当にあれは敵なんですか?」

「敵というのは」

 犬が視線を前に向けたまま言う。

「元々そういう存在じゃなく、状態としてどうかだ。愚問にもほどがあるだろ」


        *


 中華街の地溝油ディゴウヨウを存分に使ったギトギトした料理に舌鼓したづつみを打ち、戻ってきた途端に管内全域で警告が発せられた。

 敵襲だという。

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