謎解きの続き
「琉斗くん、もう大丈夫なの?」
「はい。だいぶ落ち着きました」
柚葉さんと俺以外が食堂には集まっていたらしい。
「柚葉さんは?」
「柚葉さんなら、シャワールームにいるわよ。あの人、長い間シャワーを浴びるから」
停電中、源太くんが女性のシャワールームに入っていたが、その時は誰もシャワールームにいなかったはずだ。ならば、停電が終わった後に彼女はシャワールームに行ったのか。彼女も姫子さんの死体を見ているはずなのに、一人でシャワーを浴びるなんて肝が据わっているとしか言いようがない。
「柚葉さんには己龍のことは?」
「まだ伝えてないわ」
どちらにせよ、彼女がシャワールームから出てこなければ、落ち着いて話ができない。
いつの間にか、俺が来ているTシャツも汗でべったりと肌にくっついていた。
「……俺もシャワーを浴びようと思います」
「そりゃ、いいな。今日はもう遅いし、動き回ったことだし……ちゃんと鍵を閉めてれば、どうってことないだろ」
シャワーは浴びたいが、それよりも先にしなければいけないことがある。
「これを見てください。さっき、俺が部屋にいた時に扉の下からメモが差し込まれてました」
食堂の長テーブルに俺は先ほどの紙を置いた。
『入鹿島の真相を解明しようとしない者は人魚に魂をとられることになるだろう。』
「……なにこれ、脅迫?」
「真相って謎解きのことか? 確かに、今日は途中から誰も謎解きをしてなかったが……」
「姫子さんは主催者側で謎解きをしてなかったから殺されたって言うんですか? 己龍さんも探偵で、謎解きよりも事件解決に尽力したから……?」
この入鹿島の真相。
謎解きをしないと殺される。冗談じゃない。謎解きする雰囲気をぶち壊したのは、犯人の方だろうに。
しかし、謎解きをしたいかどうかよりも、犯人の言っている入鹿島の真相は、事件に無関係とは思えない。
「皆さん、謎解きはどこまで解けていますか?」
「そこまで解いてないですね」
「私は琉斗くんと達とずっと一緒に行動していたから……」
謎解きはさほど進んでいない。
民謡の答えが分かっている源太くんの除いて、俺たちほど謎解きが進んでいる人間はいないみたいだ。
「源太くん。民謡の答えを教えてもらってもいいかな」
俺の言葉に彼は頷いた。
こんな状況で答えを隠す人間はいないだろう。
「初日の夜に、窓から砂浜が見えたんです。月が出ていましたからね」
「窓から砂浜? 窓から見えるのは林だけだけど……」
俺のチンアナゴの部屋の窓から見えるのは船着き場とそこまでの道のり。そして、反対側の窓から見えるのは林だけのはずだ。
「民謡の内容は覚えていますか?」
いるか いるか どこにいるか まだでてこない
いるか いるか 人魚はどこか まだでてこない
戌が吠えて やっと いるか いるか
背を出す 足を出す
「戌っていう漢字、干支に使われている漢字だなぁと思ったんです。それで、琉斗さんから民謡を教えてもらった時に、戌って十一番目だなと思って……、それで、僕が砂浜を見たのは夜中の十一時だったことを思い出したんです」
夜中の十一時。
とあることを思い出す。
資料館で発見した入鹿島のパノラマ。島全体の形がマナティーの形に似ていた。この島の名前は入鹿島。ならば、イルカの形に似ているのが道理だろう。パノラマの島の形に足りなかったのは、イルカの背びれの部分だ。
十一時に現れる砂浜。そして、入鹿島。
「もしかして、干潮の時にイルカの背びれ部分が砂浜として現れるってこと?」
源太くんはこくりと頷いた。自分の力で解いてほしいと彼が言っていた意味が分かった。彼は先に砂浜を見つけて、砂浜の写真を撮りに行き、その後、民謡を知って、答えを先に見つけてしまっていたことに気づいたのだ。
「砂浜には何かあったんです?」
「砂浜の手前にここに人魚が眠る、って書かれた石碑がありました。それだけしかなかったです」
今のところ、入鹿島の真相には関係がなさそうだ。
ならば、次は犬小屋で見つけたプラカードの意味を考えなければいけないだろう。
「人魚は水の中へ、神は陽の下へ」
満潮になれば、沈んでしまう砂浜に眠る人魚。そして、神は陽の下へ。
神。紙。
これも前の謎解きに関係のあるものだったら、同じ読みで違う漢字を使うのかもしれない。
それにずっと気になっていた。メモ用紙と書かれた文字と枠以外は真っ白な二つ折りの用紙。メモをするだけなら入鹿島調査ノートで十分なのに、何故、こんな小さな紙が一緒に入っていたのか。
俺はテーブルの上に置いた脅迫文の書かれた紙を持ち上げて、蛍光灯の光に翳した。
すると、透ける紙にしっかりと文字が現れていた。
一 九 八 一。
漢数字が四つ、並んでいた。
数字を使う場所なら、一つある。ずっと気になっていた場所。ナンバーロックがある黒い鍵の入ったケース。
「資料館に行きましょう」
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