探偵の助手は死ぬ
三階の柚葉さんのクマノミの部屋の扉は固く閉ざされ、中から返事もなかった。
「扉をぶち破るか?」
「待って! とりあえず、柚葉ちゃん、他のところにいるかもしれないからさ……。部屋に戻ってきた時に扉が壊れていたら柚葉ちゃんもびっくりすると思うし」
柚葉さんが自室に帰ってきた時に扉が壊れていたら、どう説明したらいいのか。扉を壊してしまえば、その後、柚葉さんは自室で安心して過ごすことができなくなる。
「そうですね。まず柚葉さんを手分けして探しましょう」
誰がどこを探すのかなかなか決まらなかったが、結局俺はまたキッチンを担当することになった。己龍は気になることがあると言って、どこかに行ってしまった。
意図せず、単独行動になってしまったが、他の人だって、完全に信用できない人間と二人きりになるつもりはないだろう。
食堂は先ほど己龍と果林さんがいた時と変わっていない。
「……人魚は水の中へ、神は陽の下へ」
いや、本当に気になる。
今は柚葉さんのことを探さなければいけないんだが、それはそれとして、己龍と果林さんに教えてもらった犬小屋のプラカードの内容が気になってしまう。
そもそも、食堂にもキッチンにも、水槽の上の通路にも柚葉さんの姿はない。ならば、俺が探せる場所はもう探索し終わったことになる。
ふと、キッチンにある外への扉を見る。外はまだきちんと確認していなかったなと、腰のポケットに刺していた懐中電灯を取り出しつつ、扉を開けた。外はもう真っ暗になっていた。無理もない。いつの間にか時刻は二十一時だ。今日は月も出ていない。全くの暗闇。
三段ほどの石の段差があり、少し離れた場所に小さな焼却炉があった。まだ現役らしく、近くに薪が積まれている。申し訳程度の屋根により、雨の直撃は避けられるようになっている。
足元の土は踏み固められており、屋敷の周りを覆うようにして、草の生えていない場所が広がっている。
「ブレーカーはどうして落ちたんだ……」
電気の使い過ぎでブレーカーが落ちたわけではないだろう。エアコンがついていた気配はないし、資料館も他の場所も電気はいつもつけっぱなしだった。電気の使い過ぎでなければ、誰かが手動でブレーカーを落とした。
キッチンにあるブレーカーを落としても、あの時食堂には俺と己龍と果林さんがいた。
気づかれずに食堂を抜けることが不可能ならば、ブレーカーを落とした犯人は外から館の中に戻ったに違いない。
「どうして、ブレーカーを落とす必要があったんだ……」
今のところ、柚葉さん以外の生存確認はできている。あとは柚葉さんが見つかれば、何事もなかったで終わるのだ。
「あ、琉斗さんっ、よかった! ここにいたんですね!」
後ろから声をかけられて俺は慌てて振り返る。その際に懐中電灯の光を顔面に当てられた源太さんが呻いた。
「あ、ごめんなさい……柚葉さんが見つかったんですか?」
「柚葉さんは見つかったんですけど……そのっ、あの……っ!」
源太さんはこちらに近づいてきて、勢いよく俺の腕を掴んで館へと引っ張る。柚葉さんが見つかったのなら、全員無事で慌てるようなことはなにもないのに。
まさか……無事ではない状態で見つかったのか?
「己龍さんが……っ!」
「己龍?」
「己龍さんが亡くなったんです!」
「……は?」
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