爆弾発言


 いるか いるか、と民謡で何度も表現されているのは、この島の名前が入鹿だからだろう。

 ならば、考えるべきは「いるか」以外の文字だ。


「どこにいるか、まだでてこない、人魚はどこか、まだでてこない、戌が吠えて、やっと、背を出す、足を出す」


 人魚に足をとられる。

 入鹿島資料館の本棚の資料からは人魚という言葉は一切出てこなかったが、人魚に足を奪われるという噂があるのは船頭に聞いたから間違いない。

 足を奪う人魚は、この民謡から連想されたのだろう。


「この島の人達って人魚を探してるのかな?」

「意外だけど日本も人魚伝説ってあるしな。八尾比丘尼でも目指してたんじゃね?」


 人魚の肉を食って不老不死になる。その目的のために島民が人魚を探していた。あり得る話かもしれない。

 存在しないものを探し続けていたとしたら、島民にとって現実は辛いものだろう。人間は不老不死になれないし、人魚はいない。


「なるほど……神社の人形小屋に民謡の残り半分があったんですね」


 源太さんが手渡した俺の入鹿島調査ノートを見ながら呟く。そんなにノートに顔をのめり込ませていて、躓かないだろうか。


「そうなんです。人形小屋はもう見ましたか?」


 源太さんは首を横に振った。

 本当に源太さんが今日見に行ったのは砂浜だけみたいだ。その砂浜だって本当にあるのか怪しいところだが。


「でもまぁ、僕はこの民謡の謎、もう分かっているので……」

「え?」

「源太くん、分かっちゃったの⁉」

「いや、分かったというか答えを知ってるんですよね。あの答えを出すのに、こういう謎を作るんだーって感心してたところです」


 いきなり、爆弾発言を落としていった源太さんに気を取られて、俺は足元に突き出た大きな石に躓いて転んだ。

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