残りの民謡


「それにしてもノゾコちゃんがあそこまで怖がるとは思わなかったなぁ~」

「うるさいですね! 人には苦手なものの一つや二つあるんですよ!」


 いわゆるビビりと言われる部類の人間なのだろう。だから、果林さんに後ろから声をかけられただけであんなに驚いたのだ。

 しかし、果林さん相手に悲鳴をあげ腰を抜かした羞恥心よりも、人形小屋の方が怖かったらしく、彼女はいまだに果林さんの腕を掴んでよろよろと歩いている。


「とりあえず、食堂であったかいものでも飲んで落ち着こっか」


 神社からずっとノゾコさんが果林さんの腕を掴んでいたが、神社での動画に編集したとしても使えるのだろうか。


「私にもちゃんと見せてもらえる……? さっきのプラカード……。あ、でも、人形は映ってないところでお願い……」


 これだけは分かる。彼女は早くどこかに座らせて、休ませた方がいい。


「己龍、それをちょっと貸してくれ」

「いいけど、落とすなよ」


 己龍からビデオカメラを受け取り、録画を止める。どうせ、あとはカサゴ館に帰るだけなのだから、録画をする必要もないだろう。問題はちゃんとプラカードの部分を録画できているかだ。


「どんなことが書いてあったの?」

「二つ目の謎に書かれている文と同じく、意味をなさない文字の羅列でしたね」


 ちょうど、プラカードを撮った部分で映像を止め、読み上げる。


「るいかこいかだてな

 いかる人はこまでこい

 がえやとるいか

 をすをす」


 二つ目の謎を見ているからか、三人とも「やっぱりな」という表情をしていた。


 問題から察するに手に入れた文字を使って、民謡を作り、謎を解けばいい。きっとできあった民謡も謎になっているだろう。

 文字数からしてあまり長くない民謡のようだ。


「食堂でメモしながら考えた方がよさげっぽい? 食堂って、勝手に飲んでいいよって感じでウォーターサーバーとか紅茶のパックとかたくさんあったよね?」


 今朝見かけた時は、緑茶のパックもあったから俺は緑茶を飲もう。ジュースはなかったが、お湯を注いだり、水を注いで作る飲み物のレパートリーはやたらと多かった気がする。


「私は梅昆布茶で……」

「ウチ、ダージリンにしよっかなぁ~」

「じゃあ、俺、コーヒーがぶ飲みしようかな~」


 お前は水分補給の必要がないだろう、と言いたくなるのを俺はなんとか堪えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る