入鹿島謎解きゲーム


「皆さん、今回、入鹿島謎解きツアーの当選、おめでとうございます」


 夕食を三分の二ほど食べ進めていた時に、食事の席から魚澤さんが立ち上がった。

 彼はウォーターサーバーの前に立ち、長テーブルに座った全員の顔を見回した。


「今回、皆さんにはこの入鹿島ファイルを配ります。そのファイルに書かれていることを調べ、指定されたキーワードを埋めていく。この島にあるものは全て謎解きや謎解きの裏に隠されたこの島のストーリーに関係しています」


 ストーリーと言い切ってしまうとは夢がない。

 魚澤さんの手にはA4用紙が入るクリアファイルがあり、そこには掠れた字体で「入鹿島謎解きゲーム」と書かれている。あの中に謎解きに必要なものが入っているのだろう。


「では、左から配りますので、一人一部、とっていってくださいね」


 魚澤さんはテーブルの端に重ねて置いていた「入鹿島謎解きゲーム」のクリアファイルの束を彼から見て左側に座っていた姫子さんに手渡した。

 姫子さんは一部も取らずにその隣に座っているノゾコさんに渡す。ノゾコさんはその隣の果林さんへ。果林さんから己龍へ、そして、俺。


 俺はファイルを一部取って、隣に座っていた源太さんに残りを手渡した。彼はぺこりと俺に頭を下げる。

 初対面の時はこの食堂のテーブルに突っ伏していて挨拶どころではなかったし、あとで挨拶でもしておこう。


 よく見ると前髪が少し跳ねているし、頬には赤い跡がついている。

 テーブルで寝ていたから変な寝ぐせがついてしまったのだろう。


 源太さんは隣にいる髭が剃り切れていない男性にファイルを手渡した。彼は煙草を吸う人間らしく、食事の際に煙草を口にくわえて、果林さんに「煙草臭いのは嫌なんだけどー」と窘められていた。それなら、彼はライターも出さずに「安心しろ、禁煙中だ」と言って、ずっと火もつけていない煙草をくわえている。

 彼は自分の分のファイルをとると最後のファイルを隣にいる腰までまっすぐ茶色の髪を伸ばしている落ち着いた雰囲気の女性に渡した。


 こうして、参加者全員に謎解きのクリアファイルが渡ると魚澤さんが満足そうに頷いた。


「では、説明に入ります。入鹿島内は基本、どこを行ってもらっても構いませんが、整備されていない場所、主に道から外れた場所に行くのは危険なのでよしてください。そこには隠された謎などもないので」


 プロデューサーがそう断言するのならば、道なき道を探索する必要はない。

 必然的に、道のある場所には謎やストーリーの秘密が隠されているということになる。


「基本的なストーリーはファイルに書いてある指示を読み解いていくと自ずと分かっていくでしょう。分からない時は、他の参加者と協力するのもいいかもしれません」


 ふと、果林さんが「しつもーん!」と手を挙げた。


「はい、甘水さん」

「ヒントって、魚澤さんか姫子ちゃんのどっちかに聞いたら教えてもらえるの~?」

「教えませんよ。どうしても困った時は教えるかもしれないですが、分からないことがあったらまず協力するのをオススメします」


 ヒントなどを主催側からは与えるつもりはない。自分たちの手で解決しろということか。なるほど。チームなどを作れと言わずに、適宜、他の参加者と協力して、自分で謎解きをしろと言いたいのだろう。


 最初に解いた一人が他を出し抜いてゴールするというわけではないのだから、この謎解きゲームでは協力していくのが吉だろう。

 それに己龍が一人で謎解きを楽しむとは思えない。


「それと、暗い中、外を歩くのは危険なので夕食の時間の午後七時から、翌日の朝食の時間である午前七時まで、カサゴ館から出ないでください」


 魚澤さんはそれだけ言うと「説明を終わります」と一礼をした。ファイルの中身を確認するよりも、参加者たちは全員手元の弁当を食べ終わることを優先した。

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